当て馬になる気はありません

その挑戦受け取りました

　スーリャ様は、淡いストロベリーピンクの美しい髪を持ち、儚げで誰しもが守ってあげたくなるような愛らしい容姿を持っております。
　それは誰もが認めることだけれども、その反面、その中身は平民としての頃の癖が抜けなく、野心家であり、貴族になったことをいい事に、自分の地位の向上を狙っているという事は、令嬢の間では有名なものとなっています。
　けれども、嘘なのか本当なのかわからなくとも、自分の事を褒めたたえられることがうれしいのか、多くの子息はスーリャ様を守りたいと思うようになっているのも事実です。
　けれども、令嬢達がスーリャ様を絶対に受け入れない理由があります。
　それは、男子生徒が居ない女生徒だけの講義の時間、多くの令嬢の前でスーリャ様はわたくしに対してこういったのです。

「悪役令嬢としてせいぜいあたしの当て馬になってよね」

　その言葉の意味は半分ほどしか理解できませんでしたが、その日からスーリャ様はわたくしの婚約者であり、この国の第三王子であるライト様に近づくようになり、事あるごとにわたくしに虐められた、責め立てられた、肉体的に被害を受けたと訴えるようになりました。
　わたくしと違い、儚げなスーリャ様が涙を浮かべながら何度も訴えるうちに、ライト様も次第にそれを信じるようになり、わたくしに対して苦言を呈するようになってきました。
　その度にわたくしは何もしていないと言っているのですが、ライト様は「口で言うだけなら何とでも言える」と、わたくしの言い分を聞いてはくださいません。
　それは日に日にひどくなっていき、わたくしと過ごす時間よりもスーリャ様と過ごす時間が増えるようになったころ、ライト様は全校生徒が集まるサマーパーティーでこう宣言したのです。

「イカル、お前との婚約を破棄させてもらう！　スーリャに対して行った悪辣非道な行いはもう看過することは出来ない！　皆の前でスーリャに謝罪しろ！」

　その言葉に、わたくしは思わず目を瞬かせて目の前に居るライト様と、その背後に守られるようにしているスーリャ様を見ました。
　ライト様はいったい何を言っているのでしょうか？
　わたくしとライト様の婚約は、王家と我が公爵家が結んだ政略的なものであって、ライト様の個人の意見でどうにかなるものではありません。
　それをライト様も理解なさっていると思っていたのですが、どうもそうではないようです。

「お聞きしたいのですが、このことは我が家の者はもちろん、王家の方もご存じという事なのですよね？」
「これから話すに決まっているだろう！　お前が如何にスーリャに対して残忍な事を繰り返してきたかを説明すれば、父上だってわかってくれるさ！　そして俺は新しくスーリャと婚約をする！」

　その言葉にわたくしは呆れることしか出来ません。
　ライト様はご自分の立場と言うものがわかっていないのでしょうか？
　そして、ライト様から見えないとわかっているのか、スーリャ様は勝ち誇ったような、わたくしを馬鹿にしたような顔をしております。
　その顔を見れば百年の恋も冷めてしまうのではと思えるほどの物です。
　よく見れば、スーリャ様の口元が動いていますので、読唇術で読み解いてみますと、「当て馬ざまぁ」とおっしゃっているようです。
　よくわかりませんが、馬鹿にされていることだけは確かなようですね。
　当て馬ですか、そのようなものになった覚えもなる気もないのですが、スーリャ様のその挑戦、受けて立とうじゃありませんか。
　このわたくしを本気で敵に回したことの恐ろしさ、わからせて差し上げますわ。