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第二章 動き始める人間関係

偽善者の呟き(シンヤ視点)

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 俺は偽善者だ。
 一族の中でも弱くて冷遇されているテンマに優しい言葉をかけて手を差し伸べた。
 それがそもそもの間違いだったんだと気が付いた時にはもう遅かった。
 俺は子供だったんだろう、ただ優しくすればそれで全てが解決するのだとそう思っていた。
 テンマが俺に依存のようなものを見せ始めた時、俺もこのままじゃいけないと思って、テンマにもっと他の事に目を向けるように言い聞かせた。
 他の人間に目を向けて、手を差し伸べることで見えてくる世界があるはずだとそう言い含めた。
 そうやって、少しずつテンマとの距離を置こうと思っていた時、俺とテンマはこの世界に召喚された。
 まるで小説の中の出来事のようで最初は受け入れることが出来なかったけれども、流石に目の前で死者が出たことでこれが夢じゃないって実感した。
 二人一組になるように言われて、テンマは絶対に俺と組もうと言い出すに違いないと思ってそれはよくないかもしれないと思ったが、全く知らない人間とテンマを一緒にさせるのもどうかと悩んでいる時に、テンマに「行こう」と言われて俺はテンマと組むことを決めた。
 古武道を修めている事、初期ステータスが高い方であったことから、テンマは早く上の階層に行きたそうだったが、何があるかわからないこの世界でそれは危険だと言い聞かせて、一階層ずつ上がる事を納得させた。
 魔法を使える勇者もいるらしいが、生憎俺もテンマも魔法は使えないので剣と武術で戦って進むしかなかった。
 幸い、チュートリアルの十階層までは問題なく進むことが出来たが、十階層のボスの九尾の狐には苦戦させられた。
 魔法を使ってくる相手でなかなか接近することが出来ず、何度も撤退する羽目になった。
 だが、レベルを上げて物理で九尾の狐を倒せるようになってやっとの思いで九尾の狐を討伐することが出来た。
 そして、その日のうちに俺はテンマに別居したいという自分の意思を伝えた。
 当たり前のようにテンマは拒絶したが、俺は一人で出て行った。
 新しく拠点を作る費用は、もともと貯め込んでいた所持金でなんとかなった。
 そうやって俺は基本的にソロで行動する勇者になった。
 そうやって一人でレベル上げをしていた時、テンマの信者になっていた勇者に命を狙われた。
 過剰防衛だと元の世界だと言われたかもしれないが、剣を振りかざされた俺は思わず剣と古武道で応戦してしまい、相手の命を奪ってしまった。
 その瞬間、体が熱くなり何か異常が発生したのかとステータスを確認したら、ほとんどのステータスが倍近くに数値が上がっていた。
 そのほかにも所持金が増えていたり、レベルが上がっていたり、「殺戮者」なんていう称号が付いていた。
 まさかと思ってアイテムボックスを確認すると、覚えのないアイテムがあって、殺した名前も知らない勇者の所持しているすべての物が俺の中に流れ込んできたのだという事がわかった。
 これは誰かに知られてはいけないと瞬時に判断した。
 こんなことが知れ渡ったら、勇者同士の殺し合いになってしまう可能性だってある。
 だが、幸いだったこともあった。
 俺が殺した勇者は魔法を使えるタイプだったらしく、俺も魔法を使えるようになった。
 ステータスや称号の事もあったし、今まで使えなかった魔法がいきなり使えるようになった言い訳を考えることが出来なくて、俺はますます一人で行動するようになった。
 もっとも、必要な時やどうしてもと請われた場合は他の勇者と組むこともあったけど、それでも基本は一人で行動していた。
 そんなある日、神様が突然俺の拠点に現れて、ティタニアちゃんに会いに行くようにと告げてきた。
 ティタニアちゃんも事情を抱えており、他人には見せられないステータスになっているから、同じような境遇の勇者として話が合うんじゃないかと言われたが、神様の態度から、気にしているのはいつまでもティタニアちゃんがソロで活動していることなんだろうと推測できた。
 しかし、俺が聞いた情報によるとティタニアちゃんは眷属と一緒に行動しているはずだから、ソロじゃないんじゃないかと思ったが、黒スライムが眷属なので、会話的なものは出来ないのかと考えを改めた。
 それで俺は、クインゼルちゃんとエッシャルちゃんに聞いて、ティタニアちゃんが二十階層で狩りをしていることを知ったので、二十階層に行ってティタニアちゃんと会う事に成功した。
 元の世界では聖女というだけあって、スレッドにあったような嫌味な性格の持ち主ではなく、心根のまっすぐした少女なのだとわかった。
 ティタニアちゃんの眷属が黒スライムだけじゃないことには驚いたが、他の誰にも言うつもりはないとちゃんと伝えておいた。
 話してみればティタニアちゃんは思ったよりも話しやすい子で、エドワルド君やシャーレちゃんの評価の陰気というのは間違った評価なのだという事がわかった。
 しばらく話した後それぞれ拠点に戻ったけれど、不思議な事にその日はティタニアちゃんのことが頭から離れず、また会いたいなんて思ってしまった。
 狩場も被らないから、予定を合わせないと会うのは無理なのに、どうしちゃったんだろうな、俺。
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