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例のアレ
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(離縁されて帰らせることはあるかもしれないけれど……)
宰相の言ったことは信じられない。だけど、わたしがお父様からきいて知っている話もぜったいにそうとはいいきれない。なぜなら、お父様もなにかとはぐらかされたり、内容に矛盾があったりするから。
(お父様も問い詰めないといけない。もっとも、ここから無事に帰ることが出来たらの話だけど)
「それで? わたしになんの用なのかしら? というか、あなたの話だとヴァレールとわたしは腹違いの兄妹ということになるわよね?」
それなのに、ヴァレールは変質者のようにつきまとってきていた。ほんとうに兄妹かどうかはわからないけれど、ほんとうに兄妹だったらよりいっそう手に負えない。
(ほんと、気持ち悪すぎだわ)
「ああ、そうなるな。だが、あのバカはなにも知らん。あれに話したところで理解出来るとは思わんからな。あのバカは、顔だけだ。騎士団長にすれば王族のスパイに出来ると思い、関係者を脅したりすかしたりしてさせてみたものの、やはり役に立たんクズだ。おまえのことも、おまえが持っているある物が欲しいと言っただけで暴走しまくりおった。しかも、すべてを台無しにしおって。あれは、そろそろ処分する頃合いというわけだ」
(なんですって? それが実の父親の言うこと?)
目の前にいるこの男は、家族だろうとなんだろうと道具としか考えていない。利用出来るものは利用し、必要がなくなったらポイと捨ててしまう。
(この人、ほんとうに気の毒だわ)
「ああ、そうだったな。おまえのことだった。おまえ、女帝になりたいだろう? 例の物を渡せば、おれが女帝にしてやる。ぺルグラン帝国のな」
「はいいいいいいいい?」
気の毒な男との意味のない会話の中で、いまのが一番驚いてしまった。
どうやらぺルグラン帝国の皇帝が亡くなり、その後継者を迎える必要があるらしい。
彼曰く、お母様はぺルグラン帝国の皇女で、兄が一人いたそうだ。その兄というのがつい先日亡くなった皇帝らしい。
皇帝には後継者がいなかった。
そして、お母様にはそのお兄様以外の兄弟姉妹はいなかった。他の皇族で皇帝になる資格のある人は、極端に年齢が高いか低いかで適当ではない。
そこでこのセネヴィル王国に嫁いだ皇女、つまりお母様に白羽の矢が立った。厳密には、すでに亡くなっているお母様の忘れ形見に、である。
それがわたしというわけで……。
「ああ、なるほど。ぺルグラン帝国の女帝になれば、あなたが実質上の皇帝になれるわけですものね。なにせ、あなたはわたしの実父らしいですから」
彼に嫌味をぶつけた。
ぶつけずにはいられない。
結局、彼は美味しいところ取りするのである。
情報をつかんだ途端、父親面してわたしを利用する。
それにしても、ぺルグラン帝国がほんとうにわたしに女帝にと推しているのなら、お母様が彼らに殺されたことがますます矛盾する。
「でっ、あなたはどうするつもりなのかしら? シルヴェストル侯爵家を巻き込んで大騒ぎまで起こして、結局このままわたしをプルグラン帝国に拉致するつもり?」
それなら、なにもあんなに大騒ぎをする必要などなかった。
わたしを呼びだすなり誘うなりして、「ほんとうのお父さんだよ。いっしょにぺルグラン帝国に行き、かの国を支配しよう」と告げればよかったのである。
もっとも、いまでさえ「はあ?」と胡散臭くというよりか、虚言だと思っている。突然呼び出されてそんなことを告げられでもすれば、「頭、おかしいんじゃない?」と平手打ちのひとつやふたつ食らわせたかもしれない。
いいえ。ぜったいに平手打ちものだった。
「そこで例の「あれ」が必要になるわけだ。いずれにせよ、「あれ」は侯爵家にあるんだろう? 「あれ」は、必須アイテムだ」
「はあ? だったら、さっきわたしを連れに来たとき、わたしを脅してその場で持ってこさせればよかったじゃない。それをまた取りに戻らせるだなんて、要領が悪すぎよ」
彼に対し、ずいぶんと言葉がラフになっていることに気がついた。
(でも、まぁいいわよね? どうせ向こうもエラソーな言葉遣いなんだから)
ということにしておく。
「おいおい。さすがはお頭もちんちくりんなだけはあるな。だれが取りに戻らせるだなどと言った? そんな必要はない。奴らに取ってくるよういいつけてある。どうせおまえは、タクやマックに告げていなくてもメイドには言っているんだろう? 名は忘れたが、ハッとするような美貌のメイドだ」
(なによそれ? わたしのことは、ちんちくりん呼ばわりしてサンドリーヌのことは美貌のメイドだなんて)
というか、サンドリーヌのことまで調べているのね。
彼女の身まで危なくなっていることに、ゾッとせずにはいられない。
宰相の言ったことは信じられない。だけど、わたしがお父様からきいて知っている話もぜったいにそうとはいいきれない。なぜなら、お父様もなにかとはぐらかされたり、内容に矛盾があったりするから。
(お父様も問い詰めないといけない。もっとも、ここから無事に帰ることが出来たらの話だけど)
「それで? わたしになんの用なのかしら? というか、あなたの話だとヴァレールとわたしは腹違いの兄妹ということになるわよね?」
それなのに、ヴァレールは変質者のようにつきまとってきていた。ほんとうに兄妹かどうかはわからないけれど、ほんとうに兄妹だったらよりいっそう手に負えない。
(ほんと、気持ち悪すぎだわ)
「ああ、そうなるな。だが、あのバカはなにも知らん。あれに話したところで理解出来るとは思わんからな。あのバカは、顔だけだ。騎士団長にすれば王族のスパイに出来ると思い、関係者を脅したりすかしたりしてさせてみたものの、やはり役に立たんクズだ。おまえのことも、おまえが持っているある物が欲しいと言っただけで暴走しまくりおった。しかも、すべてを台無しにしおって。あれは、そろそろ処分する頃合いというわけだ」
(なんですって? それが実の父親の言うこと?)
目の前にいるこの男は、家族だろうとなんだろうと道具としか考えていない。利用出来るものは利用し、必要がなくなったらポイと捨ててしまう。
(この人、ほんとうに気の毒だわ)
「ああ、そうだったな。おまえのことだった。おまえ、女帝になりたいだろう? 例の物を渡せば、おれが女帝にしてやる。ぺルグラン帝国のな」
「はいいいいいいいい?」
気の毒な男との意味のない会話の中で、いまのが一番驚いてしまった。
どうやらぺルグラン帝国の皇帝が亡くなり、その後継者を迎える必要があるらしい。
彼曰く、お母様はぺルグラン帝国の皇女で、兄が一人いたそうだ。その兄というのがつい先日亡くなった皇帝らしい。
皇帝には後継者がいなかった。
そして、お母様にはそのお兄様以外の兄弟姉妹はいなかった。他の皇族で皇帝になる資格のある人は、極端に年齢が高いか低いかで適当ではない。
そこでこのセネヴィル王国に嫁いだ皇女、つまりお母様に白羽の矢が立った。厳密には、すでに亡くなっているお母様の忘れ形見に、である。
それがわたしというわけで……。
「ああ、なるほど。ぺルグラン帝国の女帝になれば、あなたが実質上の皇帝になれるわけですものね。なにせ、あなたはわたしの実父らしいですから」
彼に嫌味をぶつけた。
ぶつけずにはいられない。
結局、彼は美味しいところ取りするのである。
情報をつかんだ途端、父親面してわたしを利用する。
それにしても、ぺルグラン帝国がほんとうにわたしに女帝にと推しているのなら、お母様が彼らに殺されたことがますます矛盾する。
「でっ、あなたはどうするつもりなのかしら? シルヴェストル侯爵家を巻き込んで大騒ぎまで起こして、結局このままわたしをプルグラン帝国に拉致するつもり?」
それなら、なにもあんなに大騒ぎをする必要などなかった。
わたしを呼びだすなり誘うなりして、「ほんとうのお父さんだよ。いっしょにぺルグラン帝国に行き、かの国を支配しよう」と告げればよかったのである。
もっとも、いまでさえ「はあ?」と胡散臭くというよりか、虚言だと思っている。突然呼び出されてそんなことを告げられでもすれば、「頭、おかしいんじゃない?」と平手打ちのひとつやふたつ食らわせたかもしれない。
いいえ。ぜったいに平手打ちものだった。
「そこで例の「あれ」が必要になるわけだ。いずれにせよ、「あれ」は侯爵家にあるんだろう? 「あれ」は、必須アイテムだ」
「はあ? だったら、さっきわたしを連れに来たとき、わたしを脅してその場で持ってこさせればよかったじゃない。それをまた取りに戻らせるだなんて、要領が悪すぎよ」
彼に対し、ずいぶんと言葉がラフになっていることに気がついた。
(でも、まぁいいわよね? どうせ向こうもエラソーな言葉遣いなんだから)
ということにしておく。
「おいおい。さすがはお頭もちんちくりんなだけはあるな。だれが取りに戻らせるだなどと言った? そんな必要はない。奴らに取ってくるよういいつけてある。どうせおまえは、タクやマックに告げていなくてもメイドには言っているんだろう? 名は忘れたが、ハッとするような美貌のメイドだ」
(なによそれ? わたしのことは、ちんちくりん呼ばわりしてサンドリーヌのことは美貌のメイドだなんて)
というか、サンドリーヌのことまで調べているのね。
彼女の身まで危なくなっていることに、ゾッとせずにはいられない。
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