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第26話 ジークフリード
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「ざっくりと示すと、ここは大陸の西の端じゃ。丁度西側の中央に当たる」
「この辺一帯が国なのか?」
「うむ。ティコの村はグレアム王国のティリング辺境伯領に含まれる」
私とリリアナは煙々羅でティコの村から北へと進んでいる。
この地は日ノ本のような島ではなく、大陸の一部だった。この大陸には人間の国が大きく分けて三つあるそうだ。
そのうちの一つが私たちが今いる大陸の北西部を治めるグレアム王国。
グレアム王国はそれぞれ貴族が分割して統治する封建国家の政体を取っている。なので、リリアナはグレアム王国にあるティリング辺境伯領という表現をしたというわけだ。
周辺地域に目を向けてみる。
ティコの村から南方に進むと大きな港街ドレークへと至る。ドレークから更に海岸沿いを南に下ると隣国との国境線。
一方、北に進むと沿岸部に中規模の港街と小さな村が点在している。内陸部も同じように小さな村がいくつもあるそうだ。
ティコの村から東北へ進むと大森林。ここは行ったことがあるから場所は私でも分かる。
残す東南にはドレークに勝るとも劣らない街があるのだが、ここは隣国と辺境伯の共同統治する特殊な政体を取っていた。どうも、隣国とグレアム王国の友好の証だとかなんとか。
確かに、街を共同統治していれば、街が足かせとなりいきなり戦争に突入とはなり辛いだろう。もっとも、話し合いがもたれた結果、決裂し戦争に……はあるだろうが……。
話を周辺に戻す。
辺境伯領にある村と村の距離は徒歩で二日ほどかかるということなので、日ノ本に比べ村と村の距離は倍ほど離れているな。
「すまん、リリアナ。聞いておいて悪いが、一息には覚えられん。また聞いてしまうかもしれん」
「よいよい。ドレークだけでも覚えておけばよい。ドレークはティリング辺境伯の居城もあるからの」
「しかし、よくここまで整備をしたものだ。ずっと石畳の道が続いているのだな」
「そうだの。人間たちは土木技術に優れる。道があれば馬車を走らせることが容易になり、物流も潤滑になっていくと聞いた」
喋りながらも、魔の気配を探ることは忘れない。
真っ直ぐ続く道の向こうに薄っすらと村の様子が見えて来た。
ん。
街道に騎馬が二頭いる。ここからだと姿形は米粒くらいなので分からないが……。
「ハルト、辺境伯の騎士の姿が見える」
「ここからでも見えるのか」
「うむ。何かあったのやもしれぬな。煙々羅をあの騎士たちの元へやってくれぬかの?」
「知り合いなのか?」
「まあ、見知らぬ相手ではないから心配せずとも大丈夫じゃ。いきなり食って掛かってくることはないからの」
「分かった」
煙々羅を彼らの近くまで寄せると、当たり前だが彼らは空を翔ぶ不審な生物へ警戒の色を見せる。
手前にいる二人は中央に羽飾りがついた鉄兜に、肩口までの鉄鎧、赤いマントを羽織った重装備だった。
彼らのすぐ後方に控える亜人……でいいのか……もまた重装備ではあるが何故か兜だけは装備していない。
いや、人間用の規格だと装着できないから装備したくても装備していないのかもしれないな。それもそのはず、彼の顔はトカゲに似る。
皮膚も灰色の鱗に覆われ、皮膚が露出した部分も同様だった。しかし、一番目についたのは彼が背中に背負っている大剣だ。
二メートルは超えるだろう巨体の彼をして尚、その大剣は長すぎる。幅が広すぎた。
それにしても……この男……できる。
彼から敵意は微塵たりとも感じない。
しかし、馬を停め手綱をゆるりと握る立ち振舞いを見ただけで……分かる。陰陽師など術を使う者は強者の雰囲気を出さない者の方が多いが、あの男や十郎のような武人は異なる。
真の強者には強者たらしめる気迫が、武芸に詳しくない私にでも伝わってくるのだ。
「あの男、一流の武芸者だな。サムライには見えんが……」
ゴクリと喉を鳴らし、リリアナへ目を向ける。
「あの後ろにいるリザードマンが妾の顔見知りじゃ。あやつだったからこそ、お主を誘ったのじゃよ」
「……あの男、リザードマンという種族なのか。初めて見る」
「あやつはグレアム王国だけでなく他の国にも名が通っておるぞ。名前だけでも覚えておくのもいいじゃろう」
ステータスを見て見ないとハッキリとは分からないが、なるほどな……大陸に名を轟かすほどのモノノフだったのか。
それだけの男が部下を連れて、街道を馬で進んでいる。
ただの警備用の巡回には見えない。これは、何かあるな……。
「おおおい! ジークフリード。妾じゃ。リリアナじゃ!」
リリアナは私の肩を掴み、その場で立ち上がると眼下に向け片手を振る。
リリアナよ。彼らからは見えないが、高いとろこをまだ怖がっているのか?
……腰が思いっきり引けているぞ。
しかし、リリアナの情けない姿とは裏腹に騎士たちは下馬し、揃って敬礼を行ったまま微動だにしない。
「リリアナ……畏まってるが?」
「お主、妾が大賢者ということを忘れておるじゃろ?」
「覚えているが、それほど大層なものには見えない」
「……まあよい。降ろしてくれ」
◇◇◇
地面が届く高さまで煙々羅が下降したところで、リリアナはひょいっと跳躍し地面に降り立つ。
続いて私も煙々羅から降り、前を向く。
すると、リザードマンの男――ジークフリードが前に出て来てリリアナの前に片膝をついた。
「リリアナ様。まさか空を飛んでいるなどと思いもせず」
「こやつの術なのじゃよ」
「ほう……何者ですかな……この男……只者には見えませぬが」
「不思議な術を使う陰陽師とかいう異邦人じゃ。怪しい格好じゃが、存外頼りになるやつじゃよ」
怪しいは余計だ……。
「私はジークフリード。ティリング騎士団の団長をさせていただいている」
「ご丁寧にありがとうございます。私は榊晴斗です。陰陽師……元スレイヤーをやっていた者です」
ん、リリアナが肘で私の腹をつついてきているな。
なんだと思い、彼女へ目を向けると拗ねたような目でこっちを睨んでいるではないか。
「どうした? リリアナ」
「お主……妾にだけは普通の口調なのに、他には畏まった話し方をするのじゃな」
「リュートにも砕けた口調で話しているではないか」
「子供と同じにするではない」
そんなことで拗ねていたのか……。
全く仕方のない人だな。
「リリアナ。私が貴君へこのような口調を使うのは」
「ふむ?」
「貴君を友人だと思っているからだよ。友には畏まらないだろう?」
「そ、そうか。そうじゃの!」
ぱああっと表情が一変したリリアナへため息をつきそうになる。しかし、グッとこらえ平静を保つ。
「申し訳ない。握手を交わす前に」
ジークフリードへの方へ向き直り、佇まいを正し頭を下げた。
彼は気にした様子もなく牙を鳴らし(おそらく人でいうところのニヤリと笑うに近い動作だと思う)、右手を差し出して来る。
私も右手を出して彼と握手を交わし、手を離す。
「リリアナ様がこれほど信頼されているお方だ。心配はなかろう。ハルト殿、ようこそティリング辺境伯領へ」
「ご丁寧にありがとうございます」
「ジークフリード。お主、ここで何をしておったのじゃ?」
せっかくいい感じでジークフリードと会話をしているのに、リリアナが割り込んできた。
「これより、ティコの村へ向かおうとしていたところです」
「ティコの村は平和そのものじゃぞ。お主が向かうような場所ではないと思うのじゃが」
「村長殿へ危機が迫っていることをお伝えにあがろうとしていたところです」
「ほう……何があったのじゃ?」
「ラーセンが……壊滅しました」
「何! 何が起こっているのじゃ?」
ラーセンといえば、これから向かおうとしていた中規模の港街だったな。
懸念していたことが現実になったのか……。
私は固唾を飲んでジークフリードの次の言葉を待つ。
「この辺一帯が国なのか?」
「うむ。ティコの村はグレアム王国のティリング辺境伯領に含まれる」
私とリリアナは煙々羅でティコの村から北へと進んでいる。
この地は日ノ本のような島ではなく、大陸の一部だった。この大陸には人間の国が大きく分けて三つあるそうだ。
そのうちの一つが私たちが今いる大陸の北西部を治めるグレアム王国。
グレアム王国はそれぞれ貴族が分割して統治する封建国家の政体を取っている。なので、リリアナはグレアム王国にあるティリング辺境伯領という表現をしたというわけだ。
周辺地域に目を向けてみる。
ティコの村から南方に進むと大きな港街ドレークへと至る。ドレークから更に海岸沿いを南に下ると隣国との国境線。
一方、北に進むと沿岸部に中規模の港街と小さな村が点在している。内陸部も同じように小さな村がいくつもあるそうだ。
ティコの村から東北へ進むと大森林。ここは行ったことがあるから場所は私でも分かる。
残す東南にはドレークに勝るとも劣らない街があるのだが、ここは隣国と辺境伯の共同統治する特殊な政体を取っていた。どうも、隣国とグレアム王国の友好の証だとかなんとか。
確かに、街を共同統治していれば、街が足かせとなりいきなり戦争に突入とはなり辛いだろう。もっとも、話し合いがもたれた結果、決裂し戦争に……はあるだろうが……。
話を周辺に戻す。
辺境伯領にある村と村の距離は徒歩で二日ほどかかるということなので、日ノ本に比べ村と村の距離は倍ほど離れているな。
「すまん、リリアナ。聞いておいて悪いが、一息には覚えられん。また聞いてしまうかもしれん」
「よいよい。ドレークだけでも覚えておけばよい。ドレークはティリング辺境伯の居城もあるからの」
「しかし、よくここまで整備をしたものだ。ずっと石畳の道が続いているのだな」
「そうだの。人間たちは土木技術に優れる。道があれば馬車を走らせることが容易になり、物流も潤滑になっていくと聞いた」
喋りながらも、魔の気配を探ることは忘れない。
真っ直ぐ続く道の向こうに薄っすらと村の様子が見えて来た。
ん。
街道に騎馬が二頭いる。ここからだと姿形は米粒くらいなので分からないが……。
「ハルト、辺境伯の騎士の姿が見える」
「ここからでも見えるのか」
「うむ。何かあったのやもしれぬな。煙々羅をあの騎士たちの元へやってくれぬかの?」
「知り合いなのか?」
「まあ、見知らぬ相手ではないから心配せずとも大丈夫じゃ。いきなり食って掛かってくることはないからの」
「分かった」
煙々羅を彼らの近くまで寄せると、当たり前だが彼らは空を翔ぶ不審な生物へ警戒の色を見せる。
手前にいる二人は中央に羽飾りがついた鉄兜に、肩口までの鉄鎧、赤いマントを羽織った重装備だった。
彼らのすぐ後方に控える亜人……でいいのか……もまた重装備ではあるが何故か兜だけは装備していない。
いや、人間用の規格だと装着できないから装備したくても装備していないのかもしれないな。それもそのはず、彼の顔はトカゲに似る。
皮膚も灰色の鱗に覆われ、皮膚が露出した部分も同様だった。しかし、一番目についたのは彼が背中に背負っている大剣だ。
二メートルは超えるだろう巨体の彼をして尚、その大剣は長すぎる。幅が広すぎた。
それにしても……この男……できる。
彼から敵意は微塵たりとも感じない。
しかし、馬を停め手綱をゆるりと握る立ち振舞いを見ただけで……分かる。陰陽師など術を使う者は強者の雰囲気を出さない者の方が多いが、あの男や十郎のような武人は異なる。
真の強者には強者たらしめる気迫が、武芸に詳しくない私にでも伝わってくるのだ。
「あの男、一流の武芸者だな。サムライには見えんが……」
ゴクリと喉を鳴らし、リリアナへ目を向ける。
「あの後ろにいるリザードマンが妾の顔見知りじゃ。あやつだったからこそ、お主を誘ったのじゃよ」
「……あの男、リザードマンという種族なのか。初めて見る」
「あやつはグレアム王国だけでなく他の国にも名が通っておるぞ。名前だけでも覚えておくのもいいじゃろう」
ステータスを見て見ないとハッキリとは分からないが、なるほどな……大陸に名を轟かすほどのモノノフだったのか。
それだけの男が部下を連れて、街道を馬で進んでいる。
ただの警備用の巡回には見えない。これは、何かあるな……。
「おおおい! ジークフリード。妾じゃ。リリアナじゃ!」
リリアナは私の肩を掴み、その場で立ち上がると眼下に向け片手を振る。
リリアナよ。彼らからは見えないが、高いとろこをまだ怖がっているのか?
……腰が思いっきり引けているぞ。
しかし、リリアナの情けない姿とは裏腹に騎士たちは下馬し、揃って敬礼を行ったまま微動だにしない。
「リリアナ……畏まってるが?」
「お主、妾が大賢者ということを忘れておるじゃろ?」
「覚えているが、それほど大層なものには見えない」
「……まあよい。降ろしてくれ」
◇◇◇
地面が届く高さまで煙々羅が下降したところで、リリアナはひょいっと跳躍し地面に降り立つ。
続いて私も煙々羅から降り、前を向く。
すると、リザードマンの男――ジークフリードが前に出て来てリリアナの前に片膝をついた。
「リリアナ様。まさか空を飛んでいるなどと思いもせず」
「こやつの術なのじゃよ」
「ほう……何者ですかな……この男……只者には見えませぬが」
「不思議な術を使う陰陽師とかいう異邦人じゃ。怪しい格好じゃが、存外頼りになるやつじゃよ」
怪しいは余計だ……。
「私はジークフリード。ティリング騎士団の団長をさせていただいている」
「ご丁寧にありがとうございます。私は榊晴斗です。陰陽師……元スレイヤーをやっていた者です」
ん、リリアナが肘で私の腹をつついてきているな。
なんだと思い、彼女へ目を向けると拗ねたような目でこっちを睨んでいるではないか。
「どうした? リリアナ」
「お主……妾にだけは普通の口調なのに、他には畏まった話し方をするのじゃな」
「リュートにも砕けた口調で話しているではないか」
「子供と同じにするではない」
そんなことで拗ねていたのか……。
全く仕方のない人だな。
「リリアナ。私が貴君へこのような口調を使うのは」
「ふむ?」
「貴君を友人だと思っているからだよ。友には畏まらないだろう?」
「そ、そうか。そうじゃの!」
ぱああっと表情が一変したリリアナへため息をつきそうになる。しかし、グッとこらえ平静を保つ。
「申し訳ない。握手を交わす前に」
ジークフリードへの方へ向き直り、佇まいを正し頭を下げた。
彼は気にした様子もなく牙を鳴らし(おそらく人でいうところのニヤリと笑うに近い動作だと思う)、右手を差し出して来る。
私も右手を出して彼と握手を交わし、手を離す。
「リリアナ様がこれほど信頼されているお方だ。心配はなかろう。ハルト殿、ようこそティリング辺境伯領へ」
「ご丁寧にありがとうございます」
「ジークフリード。お主、ここで何をしておったのじゃ?」
せっかくいい感じでジークフリードと会話をしているのに、リリアナが割り込んできた。
「これより、ティコの村へ向かおうとしていたところです」
「ティコの村は平和そのものじゃぞ。お主が向かうような場所ではないと思うのじゃが」
「村長殿へ危機が迫っていることをお伝えにあがろうとしていたところです」
「ほう……何があったのじゃ?」
「ラーセンが……壊滅しました」
「何! 何が起こっているのじゃ?」
ラーセンといえば、これから向かおうとしていた中規模の港街だったな。
懸念していたことが現実になったのか……。
私は固唾を飲んでジークフリードの次の言葉を待つ。
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