上 下
128 / 275
その後

チビリコリスと一緒10

しおりを挟む
「リコリスちゃん、今日はユラ姉ちゃんと一緒にねんねしてなぁ」

 猫耳尻尾を生やしたミヤハルが言った。

「ミヤハルおねーさんとはいっしょにねれない、ですか?」

「おん、ごめんなぁリコリスちゃん。大人の事情ってやつなんやわ」

 幼いリコリスに何を言っているのだろうこの古代種は。
 だがミヤハルがそう言うのも無理が無い。
 背中に感じる視線が痛い。
 痛いくらい熱の籠った視線を感じる。
 自業自得である。

 弟である魔王が猫耳尻尾リコリスを所望したのだ。
 その兄のエントビースドが猫耳尻尾のミヤハルに興奮しない訳が無かった。

 だが何処から誰が見ても無表情である。
 相変わらず表情筋が死んでいる。
 それでも付き合いが長い者なら分かる。
 間違いなくエントビースドはミヤハルに欲情している。

 勘弁して欲しいとミヤハルは思った。

 たしかにそう言う悪戯を仕掛けた自覚はある。
 だが食事中からずっとこの目で見つめ続けられているのだ。
 今夜は寝れないだろう。
 ミヤハルは己の迂闊さを呪った。
 しかしまさかこれ程反応するとは…。

(まぁマンネリ防止に良いかなぁ、にしてもエントがこんなに反応するの数百年ぶりやない?ヤバない?ウチ明日ちゃんと起きれるやろか?)

 何とも幸せな悩みである。
 今夜魔王は1人で枕を血涙で濡らして寝ると言うのに。
 
「ハル、今日は一緒に入浴もしよう」

「あ、寝られへんコース確定やなこれ…」

 自業自得ながらも、ミヤハルはその夜はエントと仲良く、それはもう仲良く夜を過ごしたらしい。

 :::

「ミヤハルおねーさんはエントさんとねるんですね。ユラおねーさんはいっしょにねる人はいないんですか?」

「グッ…」

 ユラが床に膝をついた。
 子供の無邪気な質問の破壊力が凄まじい。

「私はね、寝る相手が居ないんじゃなくて1人で寝たいだけなの。寝る相手が居ないんじゃないの。1人寝が好きなだけなのよ!!」

 何故か血涙を流してユラがリコリスに説明をしていた。
 邸の使用人たちはそ、と目をそらした。
 誰しも見ないふりをしなければいけない時もあるのだ。
 そして今がその時だった。

「じゃぁ、だれにもじゃまされなくユラおねーさんとねれますね。わたし、うれしいです!」

「リコリスちゃん…」

 愛らしい幼児に言われてユラは感動の涙が溢れそうだった。
 溢れそうだったのだが。

「えへへ、おかあさんとねるのって、こんなかんじなのでしょうか?」

「ガフッ」

 ユラに見えないボディブローが入った。

 おかあさん…。
 お母さん………。

 母親(ははおや)とは、女親のことである[1]。

 お母さんと一般には言い、親しみをこめて「かあさん」・「かあちゃん」・「お袋」(おふくろ)などと呼ばれる場合もある。「母」という漢字の成り立ちは「女」に2つの乳房を加えた象形文字であり、子への哺乳者、授乳者であることを意味する。 お母さんという呼称を使う場面は、

 ①子が母親に呼びかけるとき
 ②母親が子に対して自分のことを指して言うとき
 ③夫が妻を言うときに子の母親として言うとき
 ④会話で他人の母親に言及する場合。「~のお母さん」
 にも用いられる。2, 3の場合は、話者が子の立場に自らを擬して言うという特徴がある。4の場合はおば(いとこのお母さん)やいとこおば(はとこのお母さん)など傍系尊属にあたる女性を指す場合もある。

 母親どころか、ユラは子作りの経験がない。
 むしろキスの経験すらない。
 コミュ障を拗らせた腐海の住民なのだ。
 いかに原稿用紙に過激な男同士の絡みを描いていようとも、ユラは真っ新な綺麗な体なのである。

「ユラお姉ちゃんと一緒に寝よ~ね~」

「はい、ユラおねーさん!」

 今夜血涙で枕を濡らすのは魔王だけでは無いかも知れない………。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】魔女首のラナ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:174

人を見る目がないのはお父様の方だったようですね?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:315

私に必要なのは恋の妙薬

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:482pt お気に入り:1,492

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:584

処理中です...