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そして全能神は愉快犯となった

【129話】

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「タルトタタン」とは、型の中にバターと、砂糖を弱火で加熱しキャラメリゼしたりんごを敷きつめて、その上からタルト生地をかぶせて焼いたフランスの伝統的なお菓子。
 焼きあがったら型からひっくり返して、りんごの部分を上にして食べる。
 まさに「りんご」が主役のお菓子。
 キャラメリーゼしたあまーいりんごの香りと、大きくカットされたりんごがごろごろと入ったかわいらしい見た目に、食べる前からテンションが上がってしまうこと間違いなし!

 タルトタタンの生みの親である「タタン姉妹」は、フランスの旧ソローニュ地方の町ラモット・ブヴロンでホテルを経営していた。
 そのホテルでりんごのタルトを作る際に、うっかりタルト生地を敷き忘れてりんごだけ焼いてしまい、途中でタルト生地をかぶせてみた。
 そして焼けたころにひっくり返してみると、りんごにまぶした砂糖の効果で、りんごがキャラメリゼされとてもおいしいお菓子に!
 タルトタタンは、こんな失敗から生まれた「傑作」だった。

 全能神サイヒが好きなお菓子の1つでもある。

 少年は厨房に籠り、1人でタルトタタンを作っていた。
 昨日母から教えて貰ったレシピだ。
 失敗は出来ない。
 なにせ全能神の口に入るモノなのだから。

☆タルトタタン作り方☆
 材料
  りんご1玉
  バター15g
  砂糖大さじ1
  小麦粉200g
  たまご1個
  牛乳1/2カップ

 ①りんごの24頭分にする
 (皮と芯は取り除く)
 ②小麦粉、たまご、牛乳を混ぜ合わせる
 ③フライパンにバター、砂糖を弱火で焦げないように混ぜる
 ④バター、砂糖が混ざり茶色くなってきたらリンゴを敷き詰め②を流し入れる
 ⑤蓋をし10分ほど蒸し焼きで出来上がり

「うむ、美味しそうだな」

 サイヒがフォークで器用にタルトタタンを1口大に切る。
 フォークに突き刺したタルトタタンが舌を覗かせた口内に入れる。
 その仕種だけでやたらと色気が垂れ流れている。
 少年は頬を赤くしながらも、自分が作ったタルトタタンが口の中に消えるのを見守った。

「うん、美味だ」

「本当ですか!?」

「母譲りの腕前だな」

「まだまだ母様には敵いませんが…」

「謙虚だな。うちの子にも学ばせたい」

「そんな!カマラ様もドラジュ様も素敵な方です!」

「本当に子供らしくて可愛らしい。母にて愛らしい顔立ちに料理の腕、父親譲りの剣の腕、2人の優秀な部分を受け継いだなトワ」

「有難うございます!!」

 パァ、と顔を破顔させてトワと呼ばれた少年はようやく肩の力を抜いた。

 栗色の髪に青緑の瞳の少女にも間違えそうな線の細い少年。
 現在13歳である。
 父に似て恵まれた体格になるか、母に似て小柄のままか、2次成長が始まったばかりのトワはまだまだ未知数である。
 そして素直な性格で、謙虚。
 だけど父と違って胃は弱くない。

 まさにクオンとマロンの血を掛け合わせたハイブリッドな存在だ。

「マロンが悪阻で寝込んでいる間の菓子の準備はお前に任せよう。期待しているぞトワ」

「はい!母様が動けない間、精一杯サイヒ様のために尽くさせて頂きます!」

「お前は良い兄になるだろう。早く下の子に会いたいものだな。性別はまだ知りたくないのだったか?」

 サイヒにかかれば胎児の性別を知ることなど朝飯前だ。

「生まれた時の楽しみにしておきます」

「そうかそうか、お前に似た良い子であると良いな」

「有難いお言葉」

 スッ、とトワが騎士の礼をする。
 クオンから習っているのだろう。
 マロン譲りの菓子作りの腕だが、剣の腕だってクオンに似て優秀なのだ。
 騎士道もしっかり学んでいる。

「ふふ、本当にお前が2人の良いとこどりで生まれて良かった。クオンの胃が弱い所だけは似て欲しく無かったからな」

 クスクスとサイヒが笑う。
 漂う色香は思春期の少年は少々強すぎる。
 トワは顔を真っ赤にして、己の母が「お兄様」と呼び慕う全能神の姿を目に焼き付けるよう見つめるのだった。
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