宿り木カフェ

桜居かのん

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Case5 美人故に結婚が難しくなった29歳

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そして初めて話す時が来た。
パソコンを使って会話するのは仕事でもしていたので、特に問題なく出来た。
しかし未だに怪しげなものではないかと思いつつも、とうとうスタートした。

『初めまして』

「初めまして」

落ち着いている相手の声に少しホッとする。

『まずはこちらの簡単な自己紹介をしても良いですか?』

「はい、お願いします」

どんな人なのかとドキドキしてしまう。

『名前はタクヤです。
年齢は30代半ばというところで、オーダーにもありましたが、いわゆるインターネットで知り合った相手と結婚しました』

「えっほんとに?!」

『あはは、マジです』

私の素の驚きに、タクヤさんが笑っている。
いや、でも本当だろうか。
こんなこと、言っちゃ悪いけど証明しようがない。

『記入欄には、ネット使って婚活中、結果は全然ダメ、で、自分は美人の部類と書かれてたけど』

「いや、最後はそんな書き方してないですって」

『あー、ごめん、堅苦しいの苦手で。
しゃべり方砕けて良い?』

「どうぞどうぞ、じゃぁ私もそうする」

『助かる。
いや、多分というか美人でしょ、君。
なんか同じ感じの臭いがする』

「なにそれ」

急な言葉に私は不審げな声を出す。
ネットで匂いなんて感じないでしょ。

『いや実は自慢とかじゃなくて、昔から俺、もてるんだよね。
読者モデルとかしてたし』

「へぇ、それなのにネットで知り合った人と結婚するわけ?」

『それこそが君の悩みなんじゃないの?』

ずばりと言われた言葉に、思わず言葉を失った。
そう、そんなにもてるんならなんでネットなんかでと思ったのだ。
まさに今私がそれで悩んでいるというのに、結局私も他の人と同じ感覚だった。

「ごめん、私も所詮他の人と同じだわ」

『いや良いよ、そんなもんだし、未だに俺も不思議』

思わず二人で笑う。
考えて見たら、付き合っている男か、下心のある男か、今回の婚活のおかしな男とかばかりで、仕事を抜けばこんなにまともに男性と話したことなんて無かった。
少しだけたわいないことも話し、終了時間が近づいた。

『そろそろ終わりだけど何か質問は?』

「うーん、すぐには思いつかないな」

『まぁそうだろうね、多分未だになんだこのカフェって思ってるだろうし』

「思ってる」

『割とみんなそう言うよ、最初はね。
とりあえず俺の日程入れてあるから、もし俺で良ければご指名どうぞ』

「あ、うん、ありがとう」

通話が終わった。
あなたに今度からお願いしますとは、この場で言い切れなかった。
なんだか変な気分であっという間に時間が過ぎた気がする。
私は妙な心持ちで少しぼんやりとしながら、横に置いておいたお茶を飲んだ。

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