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129 学園編 未踏破ダンジョンにて
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クロアたちの優勝で幕を閉じた武闘会。
過去にも女性の身で優勝した人はそこそこいるらしい。
近いところでは、流星の異名を持つ女騎士ザビア・レクトラムが、学生時代に個人戦で優勝を果たしており、古いところでは仮面女ことフィメール・サファイアの奴が、個人団体の二冠を達成している。どうやらクロアたちが大会に参戦することを決めたのも、師である仮面女から話を聞いていたせいであったらしい。
この度の活躍でクロアの知名度は一気に跳ね上がった。
彼女はこれまで社交の場にはほとんど姿を見せていない。ましてや闘う姿を人前に晒したことなどなかった。
腰まで伸びた長い金の髪をたなびかせ、拳の一撃にてすべてを決す。闘う様がまるで雲海を疾駆する雷のように、苛烈で恐ろしく、そして美しい。
二冠の栄誉と共に「閃光姫」という異名が与えられることとなった。
メーサもまた注目を集める。社交会では将来有望な子がいると、知る人ぞ知るといった存在ではあったが、この度の大会で希少な人形遣いであることが発覚。学園での成績も群を抜いて優秀であるがゆえに、その多彩ぶりが注目の的になる。
ツインドリルの似合う、ツンと澄ましたお嬢様風な容姿とも相まって人気が急上昇。
彼女には「人形姫」という異名が与えられることになる。
このように華々しい活躍を見せた二人が、高い評価を受けた一方で、決勝戦で負けたチームのメンバーらも高評価を受けていた。
勇敢で統率力のあるリーダー、指揮の下に一糸乱れぬ行軍行動をする騎士見習い、独創的な攻撃を繰り出した魔法使いたち、勝負に負けこそはしたが、極めて将来有望な子たちであると、見る人の目にはキチンと映っていた。
一敗地に塗れた騎士の学園の関係者らは、潔くこの度の結果を真摯に受け止め、より一層の努力を己の剣と誇りに誓う。魔法使いの学園の関係者らは、魔導の新たな可能性に興奮が抑えきれずに、早速新たな研究へと着手する。
国の上層部や高位貴族から派遣されていたスカウトたちは、目をつけた人材の確保へと密かに動き始める。
バーグ祭はこうして関係各所に波紋を残しつつも、無事に終了した。
そういえば流星のザビアなんだが、あんまりにも王都でのヤンチャが過ぎて、今では近衛隊から辺境を巡る治安維持部隊に回されて、こき使われているとのこと。まぁ、戦闘狂だからモンスターと戦えて、本人はかえって喜んでいるかもしれないが……。
おかげでオレは大手を振って、王都での生活を満喫できるというわけだ。
そんなオレだが、クロアたちの側には本物そっくりさんな分体を残し、現在は王都にある最難関のダンジョンへと足を運んでいる。
なんといいますか、彼女たちの戦いぶりを見ていて高まったというか、興奮が抑えられないというか、精神が昂ってしょうがない。
この火照りを鎮めるためには冒険しかないだろう!
と勢い込んで出かけたものの……、すっかり忘れていた。
オレはスーラだった。そこに居ないモノとして扱われる存在の代名詞。無視されることにかけては、他の追随を許さない絶対王者。
モンスターたちはこっちから喧嘩を吹っかけなければ、まるで相手をしてくれない。
だからといって、オラオラとストレス解消のために、命を狩るほど外道じゃない。
行き場のなくなったモヤモヤを吹き飛ばすように、オレはダンジョンを駆ける。
本当はホバークラフト形態で爆走したかったが、さすがにそれは自重した。
頑張っている冒険者諸君がいれば、その足元や天井付近を、しゅるるるーと滑るように駆け抜けて進む、進む。
気がついた時には、現在の最高到達点である三十二階層を超えて、三十三層目に突入していた。事前の情報通り、この階層へと降りた瞬間に、魔素がグンと濃さを増し、空気が心なしか重くなる。
ダンジョンの構造自体は上層階と変わらない。うろついている奴らも見た目は変わらない。だが中身がまるで別物。体内を流れる魔力の力強さが、上の連中とは違う、格段に強度を増している。この世界の住人たちは、魔力の質が高いほど強い傾向がある。あくまで強弱の目安の一つではあるが、決して無視出来ない要素。つまりこいつらは弱くないということ。
冒険者たちが決死の覚悟でここまで来ても、体は思うように動かないわ、敵は強いわ、そりゃあ攻略も長いこと進まなくて当然だ。
《こりゃあ普通の人には無理だわ。よほど魔力強度の高い種族でないと耐えられない。うーん、アラクネとかならイケるかも》
ただしスーラな身の上には問題なし。
無駄にハイスペックなスーラボディには「あー、ちょっと空気が濃いー」ぐらいの感覚。試練にも何にもなりやしない。
よってズンズンと探索を続行。
出会ったモンスターどもは、すべて無視。たまに見つけた宝箱はきっちりと漁る。未踏部分に突入したせいか、そこそこ高そうな宝石やら、魔法が付与された武器などが手に入るも使い道がないので、そのうちアンケル爺に頼んで、適当に処分してもらうとしよう。
五十階を超えたところで、ダンジョン内部の造りが変わった。
これまでは石造りの回廊のようだったのに、剥き出しの洞窟風になって野趣が溢れる。
出現するモンスターも虫型が増えてきた。でも羽でブーンというのはいない。みな甲殻をまとった多脚多関節なモノばかり。平たく言えば巨大なゲジゲジやらムカデみたいなの。牙や爪の先から毒々しい液を垂らし、シャカシャカ素早く動く。壁やら天井に張り付いていることも多く、振り向いたらそこにいた! なんてことがしょっちゅう。体表がテカテカと黒光した油虫もいる。子供位の大きさにて群れで行動していた。津波のように押し寄せては、獲物を喰いつくして去っていく。後には骨のひと欠片も残りやしない。
更に下層へと進んでいくほどに、気温が上昇。湿度と熱気で不快指数がうなぎのぼり。
七十階に入った途端に明るくなるダンジョン内部。
溶岩が歪に固まったデコボコな地面、そこかしこに溢れだしたマグマが川となり、来訪する者の行く手を阻む。
七十二階に差し掛かったところで、巨大な赤い湖が出現。中身は煮えたぎった、どろっどろのマグマ。これを越えなければ先へと進めない。
《どうしよう……》
さしものオレも、この光景を前に立ち尽くした。
過去にも女性の身で優勝した人はそこそこいるらしい。
近いところでは、流星の異名を持つ女騎士ザビア・レクトラムが、学生時代に個人戦で優勝を果たしており、古いところでは仮面女ことフィメール・サファイアの奴が、個人団体の二冠を達成している。どうやらクロアたちが大会に参戦することを決めたのも、師である仮面女から話を聞いていたせいであったらしい。
この度の活躍でクロアの知名度は一気に跳ね上がった。
彼女はこれまで社交の場にはほとんど姿を見せていない。ましてや闘う姿を人前に晒したことなどなかった。
腰まで伸びた長い金の髪をたなびかせ、拳の一撃にてすべてを決す。闘う様がまるで雲海を疾駆する雷のように、苛烈で恐ろしく、そして美しい。
二冠の栄誉と共に「閃光姫」という異名が与えられることとなった。
メーサもまた注目を集める。社交会では将来有望な子がいると、知る人ぞ知るといった存在ではあったが、この度の大会で希少な人形遣いであることが発覚。学園での成績も群を抜いて優秀であるがゆえに、その多彩ぶりが注目の的になる。
ツインドリルの似合う、ツンと澄ましたお嬢様風な容姿とも相まって人気が急上昇。
彼女には「人形姫」という異名が与えられることになる。
このように華々しい活躍を見せた二人が、高い評価を受けた一方で、決勝戦で負けたチームのメンバーらも高評価を受けていた。
勇敢で統率力のあるリーダー、指揮の下に一糸乱れぬ行軍行動をする騎士見習い、独創的な攻撃を繰り出した魔法使いたち、勝負に負けこそはしたが、極めて将来有望な子たちであると、見る人の目にはキチンと映っていた。
一敗地に塗れた騎士の学園の関係者らは、潔くこの度の結果を真摯に受け止め、より一層の努力を己の剣と誇りに誓う。魔法使いの学園の関係者らは、魔導の新たな可能性に興奮が抑えきれずに、早速新たな研究へと着手する。
国の上層部や高位貴族から派遣されていたスカウトたちは、目をつけた人材の確保へと密かに動き始める。
バーグ祭はこうして関係各所に波紋を残しつつも、無事に終了した。
そういえば流星のザビアなんだが、あんまりにも王都でのヤンチャが過ぎて、今では近衛隊から辺境を巡る治安維持部隊に回されて、こき使われているとのこと。まぁ、戦闘狂だからモンスターと戦えて、本人はかえって喜んでいるかもしれないが……。
おかげでオレは大手を振って、王都での生活を満喫できるというわけだ。
そんなオレだが、クロアたちの側には本物そっくりさんな分体を残し、現在は王都にある最難関のダンジョンへと足を運んでいる。
なんといいますか、彼女たちの戦いぶりを見ていて高まったというか、興奮が抑えられないというか、精神が昂ってしょうがない。
この火照りを鎮めるためには冒険しかないだろう!
と勢い込んで出かけたものの……、すっかり忘れていた。
オレはスーラだった。そこに居ないモノとして扱われる存在の代名詞。無視されることにかけては、他の追随を許さない絶対王者。
モンスターたちはこっちから喧嘩を吹っかけなければ、まるで相手をしてくれない。
だからといって、オラオラとストレス解消のために、命を狩るほど外道じゃない。
行き場のなくなったモヤモヤを吹き飛ばすように、オレはダンジョンを駆ける。
本当はホバークラフト形態で爆走したかったが、さすがにそれは自重した。
頑張っている冒険者諸君がいれば、その足元や天井付近を、しゅるるるーと滑るように駆け抜けて進む、進む。
気がついた時には、現在の最高到達点である三十二階層を超えて、三十三層目に突入していた。事前の情報通り、この階層へと降りた瞬間に、魔素がグンと濃さを増し、空気が心なしか重くなる。
ダンジョンの構造自体は上層階と変わらない。うろついている奴らも見た目は変わらない。だが中身がまるで別物。体内を流れる魔力の力強さが、上の連中とは違う、格段に強度を増している。この世界の住人たちは、魔力の質が高いほど強い傾向がある。あくまで強弱の目安の一つではあるが、決して無視出来ない要素。つまりこいつらは弱くないということ。
冒険者たちが決死の覚悟でここまで来ても、体は思うように動かないわ、敵は強いわ、そりゃあ攻略も長いこと進まなくて当然だ。
《こりゃあ普通の人には無理だわ。よほど魔力強度の高い種族でないと耐えられない。うーん、アラクネとかならイケるかも》
ただしスーラな身の上には問題なし。
無駄にハイスペックなスーラボディには「あー、ちょっと空気が濃いー」ぐらいの感覚。試練にも何にもなりやしない。
よってズンズンと探索を続行。
出会ったモンスターどもは、すべて無視。たまに見つけた宝箱はきっちりと漁る。未踏部分に突入したせいか、そこそこ高そうな宝石やら、魔法が付与された武器などが手に入るも使い道がないので、そのうちアンケル爺に頼んで、適当に処分してもらうとしよう。
五十階を超えたところで、ダンジョン内部の造りが変わった。
これまでは石造りの回廊のようだったのに、剥き出しの洞窟風になって野趣が溢れる。
出現するモンスターも虫型が増えてきた。でも羽でブーンというのはいない。みな甲殻をまとった多脚多関節なモノばかり。平たく言えば巨大なゲジゲジやらムカデみたいなの。牙や爪の先から毒々しい液を垂らし、シャカシャカ素早く動く。壁やら天井に張り付いていることも多く、振り向いたらそこにいた! なんてことがしょっちゅう。体表がテカテカと黒光した油虫もいる。子供位の大きさにて群れで行動していた。津波のように押し寄せては、獲物を喰いつくして去っていく。後には骨のひと欠片も残りやしない。
更に下層へと進んでいくほどに、気温が上昇。湿度と熱気で不快指数がうなぎのぼり。
七十階に入った途端に明るくなるダンジョン内部。
溶岩が歪に固まったデコボコな地面、そこかしこに溢れだしたマグマが川となり、来訪する者の行く手を阻む。
七十二階に差し掛かったところで、巨大な赤い湖が出現。中身は煮えたぎった、どろっどろのマグマ。これを越えなければ先へと進めない。
《どうしよう……》
さしものオレも、この光景を前に立ち尽くした。
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