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第三章 王都攻防編
新しいものたちに囲まれて③
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とりあえず、カトリーナは旅の疲れを癒すために部屋に行き、ダシャもそれについていく。
その最中、ダシャは雇った使用人について申し訳なさそうに説明を始めた。
「リリとララは、実は公爵領の本宅にいるメイド長の娘達なのです」
「そうだったの。あまり子どもの話はしなかったけど」
ダシャは、そのままお茶の準備をしながら話をつづけた。
「ええ……。実は、今回のラフォン家の引っ越しはそれなりに突然でしたから。信用できる使用人を見つけるのがなかなか難しく。今、バルト様は王都でとても話題になっている方ですので、いろいろな争いに巻き込まれる危険が高いんです」
カトリーナは静かに頷いた。
その事情はカトリーナにもわかる。
今まで辺境に追いやられていたバルト。
王の実子ということは、貴族の面々には知れ渡っているし、彼の持つ武の冴えも知らないものはいない。
だが、その立場と本人の野心のなさから、比較的彼の生活は穏やかなものだった。
しかし、ブラエ王国の攻撃を退け、王都の中央軍に配属されたバルトの立場は一転してしまった。
血筋も王家に通じ、公爵家の当主であり、武力もあるバルトが王都への進出するということは、多くの貴族にとって脅威でしかなかった。
よくも悪くも貴族らしく権力に聡いものたちは、取り入ろうとするか、害をなそうとすることは想像に難くない。
そこで新しい使用人を雇うなど、他の貴族の唾が着いたものをラフォン家に招き入れることと同義だ。だから、今回は、元々ラフォン家にいるものの親族関係を真っ先にあたることにしたらしい。
そこで白羽の矢がたったのがリリとララだ。
彼女達は教育は不十分ではあったが、やる気はあるというメイド長の言葉で採用が決まったらしい。
「事情は分かるけど……。あの態度は、ねぇ」
「本当に申し訳ございませんでした」
再び頭を下げるダシャに、カトリーナは苦笑いを浮かべることしかできない。
「んー、私にっていうより、やる気があったのにあの態度っていのがよくわからなくて。それに、外であんな態度したら、バルト様の評判にもかかわるから」
「早急に調査してみます」
「ええ、お願い」
カトリーナはひとしきり悩んだのち、その問題をとりあえずどっかに置いておこうと決めた。
そして気を取り直して執事見習いのセヴェリーノについて聞く。
「っていうことは、あのセヴェリーノも同じように縁故採用?」
「あ、彼ですか。彼は違うのです」
「というと?」
「彼は、先代と仲がよかった同じ派閥内の貴族からの推薦で雇ったらしいですよ」
「仲がよかった……貴族?」
「ええ。デュランテ家という侯爵家です。先代とはとても仲が良かったらしく、バルト様も懇意にされております。あそこからの推薦だったらということでバルト様は雇うことを決めたようです。とても優秀なようですね」
「そうね」
カトリーナは、大きく息を吐くと窓の外をぼんやりと眺めた。
そして、ぱっと思いついたようにダシャに向き直る。
ダシャは、その表情をみてなぜだか嫌な予感しかしなかった。
「まあ、難しい話は置いておいて……」
「……はい」
「ちょっと、外でかけてきていい?」
思った通りとばかりに、ダシャはため息を吐いた。
「無理に決まっているじゃありませんか。カトリーナ様は、子爵家令嬢ではなく既に公爵家夫人なのですから」
「えー。だって、実家にも帰りたいし、ちょっと市場もうろうろしたい」
「それでも無理なものは無理です!」
やや語気を荒げたダシャに、カトリーナは自信ありげに腕を組んで告げた。
「そう。ならいいわ。しばらくは我慢するとして、きっと私は我慢できなくなると思うわよ? それで、勝手に抜け出して実家や市場に行くでしょう。私だって、そんなことはしたくないし、ダシャもさせたくないんだと思うわ。なら、最初から一緒に言ってくれたほうが手間が省けるし安全だと思わない?」
「カトリーナ様!?」
「ダシャだって知ってるじゃない。それを脅し文句ではなくて本当にやるって」
おどけるように笑みを浮かべたカトリーナは、上目遣いでダシャを覗き見る。
対するダシャは、大きく肩を落としながら、踵を返して部屋の入口へと向かった。
「そういうのを脅しっていうんですよ……。とりあえず、執事長に聞いてきますから待っていてください」
「はーい!」
「絶対にですからね! 勝手にどこか行かないでくださいね!」
苛立ちを隠さないで部屋から出ていくダシャの様子にどこかほっとするカトリーナ。
本当ならわがままを言いたくはなかったが、出会いがしらのあの態度と、これからここで暮らすことを考えると、すこしばかり堪えたのはたしかだった。
それなりに憂鬱な気分を抱きながら、できればプリ―ニオが許してくれればいいなぁ、と期待して待つカトリーナだった。
その最中、ダシャは雇った使用人について申し訳なさそうに説明を始めた。
「リリとララは、実は公爵領の本宅にいるメイド長の娘達なのです」
「そうだったの。あまり子どもの話はしなかったけど」
ダシャは、そのままお茶の準備をしながら話をつづけた。
「ええ……。実は、今回のラフォン家の引っ越しはそれなりに突然でしたから。信用できる使用人を見つけるのがなかなか難しく。今、バルト様は王都でとても話題になっている方ですので、いろいろな争いに巻き込まれる危険が高いんです」
カトリーナは静かに頷いた。
その事情はカトリーナにもわかる。
今まで辺境に追いやられていたバルト。
王の実子ということは、貴族の面々には知れ渡っているし、彼の持つ武の冴えも知らないものはいない。
だが、その立場と本人の野心のなさから、比較的彼の生活は穏やかなものだった。
しかし、ブラエ王国の攻撃を退け、王都の中央軍に配属されたバルトの立場は一転してしまった。
血筋も王家に通じ、公爵家の当主であり、武力もあるバルトが王都への進出するということは、多くの貴族にとって脅威でしかなかった。
よくも悪くも貴族らしく権力に聡いものたちは、取り入ろうとするか、害をなそうとすることは想像に難くない。
そこで新しい使用人を雇うなど、他の貴族の唾が着いたものをラフォン家に招き入れることと同義だ。だから、今回は、元々ラフォン家にいるものの親族関係を真っ先にあたることにしたらしい。
そこで白羽の矢がたったのがリリとララだ。
彼女達は教育は不十分ではあったが、やる気はあるというメイド長の言葉で採用が決まったらしい。
「事情は分かるけど……。あの態度は、ねぇ」
「本当に申し訳ございませんでした」
再び頭を下げるダシャに、カトリーナは苦笑いを浮かべることしかできない。
「んー、私にっていうより、やる気があったのにあの態度っていのがよくわからなくて。それに、外であんな態度したら、バルト様の評判にもかかわるから」
「早急に調査してみます」
「ええ、お願い」
カトリーナはひとしきり悩んだのち、その問題をとりあえずどっかに置いておこうと決めた。
そして気を取り直して執事見習いのセヴェリーノについて聞く。
「っていうことは、あのセヴェリーノも同じように縁故採用?」
「あ、彼ですか。彼は違うのです」
「というと?」
「彼は、先代と仲がよかった同じ派閥内の貴族からの推薦で雇ったらしいですよ」
「仲がよかった……貴族?」
「ええ。デュランテ家という侯爵家です。先代とはとても仲が良かったらしく、バルト様も懇意にされております。あそこからの推薦だったらということでバルト様は雇うことを決めたようです。とても優秀なようですね」
「そうね」
カトリーナは、大きく息を吐くと窓の外をぼんやりと眺めた。
そして、ぱっと思いついたようにダシャに向き直る。
ダシャは、その表情をみてなぜだか嫌な予感しかしなかった。
「まあ、難しい話は置いておいて……」
「……はい」
「ちょっと、外でかけてきていい?」
思った通りとばかりに、ダシャはため息を吐いた。
「無理に決まっているじゃありませんか。カトリーナ様は、子爵家令嬢ではなく既に公爵家夫人なのですから」
「えー。だって、実家にも帰りたいし、ちょっと市場もうろうろしたい」
「それでも無理なものは無理です!」
やや語気を荒げたダシャに、カトリーナは自信ありげに腕を組んで告げた。
「そう。ならいいわ。しばらくは我慢するとして、きっと私は我慢できなくなると思うわよ? それで、勝手に抜け出して実家や市場に行くでしょう。私だって、そんなことはしたくないし、ダシャもさせたくないんだと思うわ。なら、最初から一緒に言ってくれたほうが手間が省けるし安全だと思わない?」
「カトリーナ様!?」
「ダシャだって知ってるじゃない。それを脅し文句ではなくて本当にやるって」
おどけるように笑みを浮かべたカトリーナは、上目遣いでダシャを覗き見る。
対するダシャは、大きく肩を落としながら、踵を返して部屋の入口へと向かった。
「そういうのを脅しっていうんですよ……。とりあえず、執事長に聞いてきますから待っていてください」
「はーい!」
「絶対にですからね! 勝手にどこか行かないでくださいね!」
苛立ちを隠さないで部屋から出ていくダシャの様子にどこかほっとするカトリーナ。
本当ならわがままを言いたくはなかったが、出会いがしらのあの態度と、これからここで暮らすことを考えると、すこしばかり堪えたのはたしかだった。
それなりに憂鬱な気分を抱きながら、できればプリ―ニオが許してくれればいいなぁ、と期待して待つカトリーナだった。
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