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 朝からリリアは落ち着かず、部屋の中をウロウロと歩き回っていた。ついに殿下がリリアにプロポーズをするのだ。落ち着いていられるわけがない。しかし、リリアは落ち着かなくてはならない。殿下の思いに気づいていたと悟られてはいけないのだ。

 ドアがノックされ王宮からの使いの人が来る。
『リリア・マロウ様ですね』
 ドアを開けると若い使いの男性は顔を赤らめながら尋ねる。
『殿下からお連れするようにと言いつかりました』
『殿下?どうしてですか?』
 リリアが質問しても彼らは何も答えない。リリアは彼らに従い後をついていく。
『ついに殿下のものになってしまうのか』
『あぁ、残念だが仕方ない。しかし本当に清楚なお方だ。アレとは大違いだ』
『比べものにならないだろう。天下の悪女 マリアンヌとは』

 リリアはそんな想像をし、気持ちを落ち着かせる。想像は進み、城の中に入るのだが見たことがないので朧げなことしか思い浮かばない。その後殿下のプロポーズを阻止しようとマリアンヌがリリアを襲おうとする。そこに現れるのがレオポールとフランツだ。彼らは妹であるマリアンヌを叩き蹴飛ばし剣を突きつける。
『お兄様、ひどい』
『ひどいのはお前だろう』
『そうだ、お前なんか妹ではない』

 そこまで想像し、リリアは立ち上がった。窓の外を見ても何も変化はない。城から使いの人が来る様子もない。今度は鏡に映る自分を見る。

 今彼女が着ているドレスは、母が昔着ていたものだ。当時でもそれほど高いものではなく、保存状態もいいわけではなかったので色褪せている。デザインも古臭く、野暮ったい。おまけにサイズも合っていないのだが、彼女は【清楚で慎み深い】と思われると信じていた。

 今日は来ないのだろうか。もしかしたら、リリアがいつものように庭で読書をしていると思って探し回っているかもしれない。そう思うと、リリアは例の本を持ち外に出ることにした。

 外に出ると、いつものように令嬢たちが集まって騒いでいた。相変わらずうるさい連中だ。彼女は眉間に皺を寄せる。今日は令嬢だけではなく、その母親たちも集っている。

「リリア様、ごきげんよう」

 彼女たちがリリアを見つけ挨拶をしてくる。彼女の姿を見てギョッとした顔をしたが、それは一瞬のことだったのでリリアは気にしなかった。古いドレスを着ている自分を嘲りたいのだろう。すると殿下が言うのだ。『彼女の慎み深さ、思慮深さこそが私の求めていたものなのだ』。この言葉だけのために彼女は古いドレスを着ているのだ。

「先ほど、マリアンヌ様とお茶会をしてきたのです」
「本当にお優しくてお綺麗な方でしたわ」
「皆様へとお菓子を持たせてくださったのです。どうぞ」

 差し出されたお菓子は見たことがないものだった。お茶会?なぜ私は呼ばれなかった?そうか、私が殿下に選ばれると知って焦ったのだ。せいぜい私に意地悪をしなさい。すればするほど、殿下は私を愛しマリアンヌは排除されるのだから。

「お城の中に入ったのは初めてだったから緊張しましたわ」
「私も。でもマリアンヌ様にお会いしたら、緊張もなくなりました」
「私も」

 今なんて言った?お城の中?お茶会はお城で行われた?マリアンヌもお城?まさか。

 目の前が真っ暗になった。周りの声が遠くに聞こえる。リリアはゆっくり歩き出していた。これは自分の足だろうか。右足と左足が交互に動いて前に進んでいく。普段考えたことがないことをリリアはぼんやり考えていた。

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