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第4話

4・いざ、ナナセの教室へ

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 と、まあ、そんな経緯で俺はナナセのクラスに顔を出すことになった。

「はぁ……」

 ヤバい、すでに気が重い。ただでさえ他学年の教室ってちょっとした異世界っぽさがあるのに、その上、元カレとエンカウントする確率がめちゃくちゃ高いってさぁ。

(神様、どうか青野と会わずに済みますように)

 あ、でもあいつの様子は知りたいんだよな。
 よし、願い事変更。
 神様、どうか青野がどうしているのか、遠目から確認できますように。でも、青野には気づかれませんように。何事もなく用事が終わりますように。
 もし、万が一、うっかり青野に気づかれたとしても──この間みたいに、あいつを傷つけるようなことは起こりませんように。
 心のなかでそう唱えて、俺は教室を覗き込んだ。

(青野は……)

 ──いた。
 うわ、いい席に座ってるじゃん。教室のちょうどど真ん中、周囲の生徒たちに埋もれて先生の目から逃れられる穴場の良席だ。
 けど、何やってんだ、あいつ? さっきからクラスメイトがあれこれ話しかけてんのに、身じろぎひとつしねーんだけど。

「あ、ナナセのお兄ちゃんじゃーん」

 見覚えのない2人組の女子が、やけに気さくに声をかけてきた。

「どうしたの、ナナセに用?」
「えー青野じゃないの?」
「青野じゃないでしょ。お兄ちゃん、青野ともう別れたじゃーん」

 お、おう、そのとおりだよ。
 ていうか青野青野って連呼するのはやめてくれ。あいつに気づかれるかもしれねーだろ。

「あのさ、ナナセ呼んでもらえるかな」
「あーやっぱりそっちかー」
「了解~」

 最初に声をかけてきた女子が、くるりと教室に向き直った。

「ナナセー、お兄ちゃん来てるよー」

 待て待て、大声は勘弁!
 青野に気づかれたくないんだって!
 けど、反応したのは廊下側の席にいた数人とナナセだけだ。

「お兄ちゃん! もしかして……」
「ほら、ジャージ。母ちゃんからあずかってきた」
「よかった、間に合った……ありがとうお兄ちゃん、超カッコイイ!」

 そんなあからさまなお世辞、嬉しくもなんともないっての。
 まあ、でも今の反応を見る限り、わざと忘れていったわけではなさそうだ。実はちょっとだけ、俺と青野を引き合わせるためにナナセが仕組んだのかなって思ってたんだけど。

(つーか青野、ぜんぜん反応しないし)

 ずっと前を向いたまま、こっちを気にする素振りすら見せなかった。

「……なに、やっぱり青野のことが気になるの?」
「違ぇよ! あいつのことなんか全然……」
「でも今はダメだよ、精神統一中だから。声をかけられたら怒られるよ」

 へ? 精神統一?
 なに、その武道家みたいなやつ。

「まあさ、どうしたって気合いは入るよねぇ。今日って『ジャンボコロッケパン』の日だし」
「ああ、購買の?」

 ジャンボコロッケパンは、うちの学校でも1・2を争う人気の総菜パンだ。
 もちろん俺も好き。でも、数えるほどしか食べたことがない。だって、販売されるのが月に2回だけなんだ。あんなに人気があるんだから、せめて週1くらいで売ってくれればいいのに。

「でも、なんでそれで精神統一?」
「決まってるじゃん。じゃんけんで買い出し担当を決めてんの」

 なるほど、たしかに「ジャンボコロッケパン」が出る日は、購買が戦場と化すもんな。
 改めて教室の真ん中に目を向けると、精神統一を終えたらしい青野がじゃんけんの構えを見せている。

(そういえば、あっちの青野もやっていたっけ)

 精神統一というか、瞑想? 「緊張しそうなときにやるといいですよ」って、俺にもやり方を教えてくれて──

「……あ!」

 そうだ、もしかしたら……
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