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いざ、開廷
しおりを挟むパーティー当日、七生は吾妻に苛ついていた。
原因は文の格好だ。
(肩も背中も丸見えじゃないか!)
ゆるくウェーブをかけ、結わいてアップにした髪。真っ白なうなじに七生はゴクリと唾を飲む。
三宅に施して貰った化粧は彼女の魅力を引きたたせ、ドラマの主人公のような変身ぶりに焦りを抱く。
いつもの野暮ったさが消え、清楚で美しい、どこぞの令嬢のように見える。
三宅が嫉妬しながらも、自分の手柄だと得意げにする気持ちがわかった。
本社ビルにつけたハイヤーに乗るまでの間に、どれだけの社員が振り返ったか。
視線を集めていることを、文自身は似合ってないからだと思っているがようだが、とんでもない。
自分だけがわかっていると思っていた魅力を知られてしまった。
『あんな可愛い子、うちの会社に居たっけ?』
と噂話をする男達が厭わしくて仕方が無かった。
しかも今日は、決して良い噂を耳にしない大山専務の息子、大山賢に挨拶をしなくてはならない。
女遊びが激しく、七生は以前より好きではなかった。
複数の女性とのトラブル解消などという、つまらない仕事を請け負ったこともある。
(あんな男、冗談じゃない)
他の誰でも許さないが、特に会わせたくない人種だった。
それを知っている筈なのに、こんなに肌を露出したドレスを着させて、挑発をしているとしか思えなかった。
(パーティーのドレスだけは吾妻が選ぶと言っていたから、おかしいと思っていたんだ)
自分が選びたかった。
他の男が選んだドレスを纏うだなんて。
しかも吾妻は彼女をよく理解していて、ドレスが似合ってしまっているから余計に腹が立った。
(縁談の話などさせやしないぞ)
七生は闘志を燃やしていた。
「うわ、旭川、ちょっと綺麗すぎる。馬子にも衣装って揶揄ってやろうかと思ってたのに、素材良すぎじゃない? どうして普段からその色気ださないの。もったいない」
パーティー当日、着飾った文に吾妻は失礼な第一声を送った。
「副社長、いつもに増して正直過ぎます」
ビジネスを交えた創立記念パーティーではあるが、大山商事は派手好きらしい。ドレスコードはフォーマルを指定しており、少し華やかなスーツというわけにはいかなかった。
文はシフォンのマキシドレスだ。
ラベンダー色にビジューがたくさん使われきらきらと輝く。ロングドレスだから足は隠れるものの、背中がレースになっているし、肩が出ていて恥ずかしい。
ドレスは吾妻が選び、秘書としてつく三宅が化粧や髪のセットまでやってくれてた。
髪はゆるく巻き、ひとつにまとめてくれている。髪飾りやアクセサリーも準備されていて至れり尽くせりだ。
「肌を見せすぎじゃないでしょうか」
七生が不機嫌に言った。
「イブニングドレスなんてこんなもんだろ。寧ろ露出を抑えた方だよ」
吾妻が答える。
スーツは勝手に決めてきてって感じだったのに、今回のドレスを七生に任せなかったのはなぜだろう。
やっぱり同伴の役割ともなると、自分好みにしたくなるものだろうか。
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