冷徹弁護士は甘い罠を張る

邉 紗

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これって、差し押さえですか?

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入院中お世話になった宝城と、吾妻、七生は幼稚舎から高校まで同じ学校だったらしい。
大学はそれぞれ別れたが、今でも交流は続いている。
名前を聞けば格式高い名門校ではないか。

七生はどれほどの家柄なのかと思ったら、長者番付の世界ランキングに入るほどの会社を経営しており、なんならFUYOUより大手だ。
そんな会社の息子がなぜ弁護士をやっているのかと聞いたら、

「理論正論でたたき伏せるのに快感を覚えるんだよね」

などというドSな返答が来た。ようするに今の仕事が好きらしい。
海外を飛び回り活躍する姿はとても憧れるが、自分にはとても無理だ。

コーヒーマシンに豆をセットすると、買って貰ったマグカップにコーヒーを落とした。
お揃いの柄で未だにちょっとむず痒い。

リビングにコーヒーの良い香りが広がる。
ミルクを足してカフェオレにすると、それを一口飲んでから、朝食の準備に取りかかった。

七生はフレンチトーストは好きだろうか。
たしか甘い物も好きだと話していた記憶がある。

パントリーに仕舞われたバケットをとりだし切る。卵に浸し焼いていると、七生が起きてきた。

「おはよう。すごい甘い匂いだな」

コーヒーの匂いとせめぎ合うように、バターと砂糖の芳ばしい香りが部屋に充満していた。

「お、おはようございます!」

朝一はまだちょっと緊張する。
会社のように挨拶をしてしまうと、七生は不満を訴えにキッチンへと来た。

「文、やり直しだ」

「ひゃ……」

背中から覆い被さられ、フライパンを持っていた手元があたふたとする。

首元をちゅうと吸われ「もう!」と怒り返した。

「っあ、危ないです!」

「ほら、焦げるよ。火を止めて」

後ろから伸びてきた手が、コンロをカチリと止める。

「もっと可愛らしいおはようが欲しい。さっきのは義務的すぎる」

「………おはよう、七生さん……」

渋々言い直すと、満足げにした七生は先に出来上がっていたトーストをつまみ食いした。

「あ! お行儀悪いです」

「もっと砂糖を入れたい」

リクエストは却下した。

「だめです。これが黄金比なんですもん。シロップもあるから十分です」

レシピを見て、キッチリ計って作っているのだ。
材料を足したらバランスが崩れてしまう。

「理系だよなぁ」

七生はもうひとつ摘まみ頬張ると、皿を持ってテーブルへと向かった。

「意外と甘党ですよね」

「顔に似合わずって言いたいんだろ。常に頭を使う仕事だからかな」

七生のコーヒーを淹れて追いかけると向かい合わせに座った。
七生が見るのは海外のニュースだ。

一緒に食べながら文も観てはみるが、外国語はBGMになってしまい、何ひとつ理解できない。

「明日から仕事だな。行けそうか?」

「はい。そろそろ。行かないと、仕事がたまって大変なことになっていそうです」

「文は突発的な事に弱いからな。あんなに慌てなくてもいいのに」

なかなか成長しない部分を指摘されて、むぅと口を尖らせる。
本番に弱いタイプで、執務室にひとりならもう少しマシなのだ。

同僚たちと七生の見張る目に緊張するから、余計に出来なくなる。

「そこが可愛いんだけど」

付け足された一言に、恥ずかしさを飲み込む。

「そんなことばかり言って……」

俯くと七生の手が伸びてきた。うなじを撫でる。

「好きなのだと、何度でも伝えないと信じてくれないだろ?」

メープルシロップのついた唇を指でつつかれる。
そうしながらゆっくりと顔が近づいた。

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