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告白?どちらかというと自白です
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大山商事のパーティーから一カ月。
怪我もすっかり完治して、その後の賢の件も落ち着いてきたころ、季節は冬に差し掛かっていた。
相変わらず三宅と七生から毎日のように指導はあるのだが、秘書の仕事もなんとか板についてきた。
そして、私生活は七生のマンションに帰り、ふたりでの生活が当たり前になっている。
七生との時間は快適で、……それでいて幸せを感じた。
一緒に料理をしたり、買い物にでかけたりするのが楽しい。
たくさん愛されて、嫌な気持ちはしない。
だからこそ、文は兼ねてから考えていた事を七生に告げる決意をした。
“どうしても思い出せない”
その言葉を。
ジクジクとしたわだかまりが、ずっと消えない。申し訳ないという気持が、どんどん積もっていた。
七生を傷つけたくなくて不用意な言葉を控えていたが、そろそろちゃんと話し合うべきではないだろうか。
どうもしっくりこないのだ。
七生の部屋、しぐさ、すべてが初めてで、体が馴染まない。
記憶を失うということは、そういうことなのか。
例えば、自転車に乗っている記憶をなくしても体が乗り方を覚えていて乗れたり……そんな風に、はっとすることがあればいいのに。
話をして、少しひとりの時間を作るべきではと思った。
逆にアパートに帰り、元の生活をしてみたら新たな刺激となって思い出せるかも知れない。
週末の、就寝前。
いつもならふたりで映画を見たり、寛ぐ時間だ。
ふたりの夜の定番となっていた蜂蜜ミルクを飲んで、心を落ち着かせると切り出した。
「七生さん……わたしね、一度アパートに戻ろうと思うんです」
「ーーーーなんで?」
それまで笑顔だった七生の声のトーンが、すっと落ちた。
「その、ごめんなさい」
がばっと頭を下げる。
「わ、わたしね、ずっと悩んでたんです。すごく良くしてくれるのに、どうしても思い出せなくて。そのことが七生さんを傷つけてるんじゃないかって、申し訳なくて」
「……そんなの、気にしなくていいのに。俺は大丈夫だよ」
「ちょっとひとりになってみたら、また違う刺激があって思い出すこともあるかなって……」
文は、日に日に七生に惹かれていく自分に気付いていた。
失ったものを取り戻せていないのに、新しい自分の記憶に塗りかえられてしまうのが怖い。
昔の気持は、どこに行ってしまったのだろう。
どんなふうに、この人を好きだったのだろう。
「俺が嫌になった?」
七生は表情を曇らせた。
心臓が痛む。
「ちがう。ちがうんです……あの……怖いんです」
「怖い?」
なんと伝えれば良いのだろう。上手く話せない。
「わたしは、あっ……あなたが、好き……なんです。たぶん。そういう、むず痒い気持はあるんです。でも、何かを思いだしたわけじゃない。だから、無くしてしまった気持ちも、ちゃんと思いだしたいなって……」
言葉にしたら、好きという言葉が随分としっくりきた。
あんなにこの人から逃げ回っていたのに、いつの間にか緊張だと思っていた動悸が、高鳴りへと変わっている。
すると、堅かった七生の顔がふっと和らいだ。
「ーーーー好き? 文が、俺を? 好きって言ったよね?」
「え? ええ……たぶんですよ?」
予防線を張る。
こんな短期間で惹かれるのは、過ごす時間が濃いからか、はたまた元からの恋心なのかはわからない。
ちゃんと聞いていてくれたのだろうか。
連呼されると恥ずかしくなる。
怪我もすっかり完治して、その後の賢の件も落ち着いてきたころ、季節は冬に差し掛かっていた。
相変わらず三宅と七生から毎日のように指導はあるのだが、秘書の仕事もなんとか板についてきた。
そして、私生活は七生のマンションに帰り、ふたりでの生活が当たり前になっている。
七生との時間は快適で、……それでいて幸せを感じた。
一緒に料理をしたり、買い物にでかけたりするのが楽しい。
たくさん愛されて、嫌な気持ちはしない。
だからこそ、文は兼ねてから考えていた事を七生に告げる決意をした。
“どうしても思い出せない”
その言葉を。
ジクジクとしたわだかまりが、ずっと消えない。申し訳ないという気持が、どんどん積もっていた。
七生を傷つけたくなくて不用意な言葉を控えていたが、そろそろちゃんと話し合うべきではないだろうか。
どうもしっくりこないのだ。
七生の部屋、しぐさ、すべてが初めてで、体が馴染まない。
記憶を失うということは、そういうことなのか。
例えば、自転車に乗っている記憶をなくしても体が乗り方を覚えていて乗れたり……そんな風に、はっとすることがあればいいのに。
話をして、少しひとりの時間を作るべきではと思った。
逆にアパートに帰り、元の生活をしてみたら新たな刺激となって思い出せるかも知れない。
週末の、就寝前。
いつもならふたりで映画を見たり、寛ぐ時間だ。
ふたりの夜の定番となっていた蜂蜜ミルクを飲んで、心を落ち着かせると切り出した。
「七生さん……わたしね、一度アパートに戻ろうと思うんです」
「ーーーーなんで?」
それまで笑顔だった七生の声のトーンが、すっと落ちた。
「その、ごめんなさい」
がばっと頭を下げる。
「わ、わたしね、ずっと悩んでたんです。すごく良くしてくれるのに、どうしても思い出せなくて。そのことが七生さんを傷つけてるんじゃないかって、申し訳なくて」
「……そんなの、気にしなくていいのに。俺は大丈夫だよ」
「ちょっとひとりになってみたら、また違う刺激があって思い出すこともあるかなって……」
文は、日に日に七生に惹かれていく自分に気付いていた。
失ったものを取り戻せていないのに、新しい自分の記憶に塗りかえられてしまうのが怖い。
昔の気持は、どこに行ってしまったのだろう。
どんなふうに、この人を好きだったのだろう。
「俺が嫌になった?」
七生は表情を曇らせた。
心臓が痛む。
「ちがう。ちがうんです……あの……怖いんです」
「怖い?」
なんと伝えれば良いのだろう。上手く話せない。
「わたしは、あっ……あなたが、好き……なんです。たぶん。そういう、むず痒い気持はあるんです。でも、何かを思いだしたわけじゃない。だから、無くしてしまった気持ちも、ちゃんと思いだしたいなって……」
言葉にしたら、好きという言葉が随分としっくりきた。
あんなにこの人から逃げ回っていたのに、いつの間にか緊張だと思っていた動悸が、高鳴りへと変わっている。
すると、堅かった七生の顔がふっと和らいだ。
「ーーーー好き? 文が、俺を? 好きって言ったよね?」
「え? ええ……たぶんですよ?」
予防線を張る。
こんな短期間で惹かれるのは、過ごす時間が濃いからか、はたまた元からの恋心なのかはわからない。
ちゃんと聞いていてくれたのだろうか。
連呼されると恥ずかしくなる。
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