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「ヴィオラ」
学校から帰り、学校の課題と父から課せられた課題を部屋でこなしていた。
殿下と和解をして数日が経ち、今までと同じとは言い難い(イリス殿下から甘い雰囲気が漂い、甘い言葉を当たり前のように投げ掛けられるから)が、それでも変わらぬ平穏な日々を送っていた。
そんな私の元へいつものごとく姉がノックもせずに入ってきた。
「かわいそうな、ヴィオラ。お姉様が絶対に守ってあげるからね」
そう言って、ぎゅっと姉が私を抱き締めた。力が強すぎて息がうまくできないし、肋骨も折れそう。
それに、守るって何から?
かわいそうの意味も分からない。
姉の行動はだいたいが意味不明だけど。
「苦しい、放して」
「あ、ごめんなさい。ヴィオラ。それにしてもあなたまた痩せたんじゃないの?もしかしてマキナー殿下のせい?」
「変わりはありません。それにイリス殿下は優しい方です」
私が言うと姉は憂いを帯びた顔をした。
「あなたはあの方の本性を知らないからそう言えるのよ。ヴィオラ、今後のためにもしっかりと男を見る目を養わないと、女がバカを見ることになるのよ」
イリス殿下はそんな人じゃない。
私は姉に対して強い反発心を覚えた。
「イリス殿下のことが嫌いなんですか?」
そのせいで少し不機嫌な声が出てしまったけれど姉は気づいてはいない。
そもそもこの屋敷に私の機嫌を気にする人はミランダ以外いないから気づかないのは普通のことなのだ。姉が鈍いとか以前に。
「誤解しないで、ヴィオラ。私はあなたのためを思って言っているだけよ」
決してイリス殿下が嫌いなわけではないと姉は言う。
『私のため』そう連呼する姉の表情を見てわかった。
姉の言う通り、姉はイリス殿下が嫌いなわけではない。
「お姉様はイリス殿下が嫌いなわないのですね。ただ、私を好きだと言うイリス殿下が嫌いなのですね」
姉は目をぱちくりして私を見る。
「言い方を変えます。お姉様と同じ王妃の立場に、私を立たせたくないのですね」
私の言葉に姉は苦笑した。そして、ちいさな子供にするように優しく私の頭を撫でる。
「魔力を持たないあなたが他国の、それも王族の一員になるなんて無理よ。仮にできたとしてもきっと酷い扱いを受けるに決まっているわ。そうなったら、他国だったら私があなたを守れないでしょ」
慈愛に満ちた顔で姉が言う。私の行く末を心配してくれているのだろう。
でも姉は放った言葉の意味に恐らく気づいてない。
「私は守ってもらわなければ何もできないほど弱くはないわ」
それに守ってもらったことなんて一度もない。
「何を言っているの。魔力を持たないあなたは、あなたが思っている以上に弱い存在なのよ。私が守ってあげなきゃいけないほどに」
なにそれ。
魔力が全てなの。
魔力がないだけでそんなにも侮辱されないといけないの。
ああ、そうか。姉にとっては魔力が全てなんだ。だっめ姉はそれだけでしか評価されていないから。姉は優秀だ。勉強もできる。常に首席だった。称賛される。でも、誰も見ない。姉が称賛させる理由を。影の努力を評価する人はいない。
それは何だかとても孤独でかわいそうに思えてきた。
「お姉様」
「何?ヴィオラ。私の言ったこと分かってくれた」
「分かったわ。分かったから、お姉様」
姉は安心したように笑った。
「そうじゃないとダメなんだよね。魔力を持たない私を守る。そう思うことでお姉様は自分の中で自分の価値をあげているのよね」
かちりと凍ったみたいに姉は固まった。
「魔力のない私がお姉様よりも上に行くと困るんだよね。自分の存在価値がなくなってしまうから。そう思っているんでしょ」
「何を言っているの。そんなわけないじゃない。私は」
姉の瞳が揺れていた。顔は笑顔を作ってはいるけど完全に強張っている。
優秀だから。優秀すぎるから分かってしまった事実。
魔力、加護持ちの貴族令嬢リリス。それだけを求め、それしか持たない。
「愚鈍なら良かったのにね。そうしたらお姉様は気づかなかった。自分が空っぽだってことに」
姉の表情から完全に笑顔が消えた。
「私は、イリス殿下が好き。王妃になる器じゃないかもしれない。でもそれを理由に逃げたくはないわ。不安しかない。でもイリス殿下に相応しくなるように努力するわ。お姉様、努力は魔力がなくともできるのよ。魔力のない渡しにもできるのよ」
言いたいことを全て言って、私は部屋を出た。だから知らなかった。姉が放心状態で崩れるようにその場に座り込んだことに。
学校から帰り、学校の課題と父から課せられた課題を部屋でこなしていた。
殿下と和解をして数日が経ち、今までと同じとは言い難い(イリス殿下から甘い雰囲気が漂い、甘い言葉を当たり前のように投げ掛けられるから)が、それでも変わらぬ平穏な日々を送っていた。
そんな私の元へいつものごとく姉がノックもせずに入ってきた。
「かわいそうな、ヴィオラ。お姉様が絶対に守ってあげるからね」
そう言って、ぎゅっと姉が私を抱き締めた。力が強すぎて息がうまくできないし、肋骨も折れそう。
それに、守るって何から?
かわいそうの意味も分からない。
姉の行動はだいたいが意味不明だけど。
「苦しい、放して」
「あ、ごめんなさい。ヴィオラ。それにしてもあなたまた痩せたんじゃないの?もしかしてマキナー殿下のせい?」
「変わりはありません。それにイリス殿下は優しい方です」
私が言うと姉は憂いを帯びた顔をした。
「あなたはあの方の本性を知らないからそう言えるのよ。ヴィオラ、今後のためにもしっかりと男を見る目を養わないと、女がバカを見ることになるのよ」
イリス殿下はそんな人じゃない。
私は姉に対して強い反発心を覚えた。
「イリス殿下のことが嫌いなんですか?」
そのせいで少し不機嫌な声が出てしまったけれど姉は気づいてはいない。
そもそもこの屋敷に私の機嫌を気にする人はミランダ以外いないから気づかないのは普通のことなのだ。姉が鈍いとか以前に。
「誤解しないで、ヴィオラ。私はあなたのためを思って言っているだけよ」
決してイリス殿下が嫌いなわけではないと姉は言う。
『私のため』そう連呼する姉の表情を見てわかった。
姉の言う通り、姉はイリス殿下が嫌いなわけではない。
「お姉様はイリス殿下が嫌いなわないのですね。ただ、私を好きだと言うイリス殿下が嫌いなのですね」
姉は目をぱちくりして私を見る。
「言い方を変えます。お姉様と同じ王妃の立場に、私を立たせたくないのですね」
私の言葉に姉は苦笑した。そして、ちいさな子供にするように優しく私の頭を撫でる。
「魔力を持たないあなたが他国の、それも王族の一員になるなんて無理よ。仮にできたとしてもきっと酷い扱いを受けるに決まっているわ。そうなったら、他国だったら私があなたを守れないでしょ」
慈愛に満ちた顔で姉が言う。私の行く末を心配してくれているのだろう。
でも姉は放った言葉の意味に恐らく気づいてない。
「私は守ってもらわなければ何もできないほど弱くはないわ」
それに守ってもらったことなんて一度もない。
「何を言っているの。魔力を持たないあなたは、あなたが思っている以上に弱い存在なのよ。私が守ってあげなきゃいけないほどに」
なにそれ。
魔力が全てなの。
魔力がないだけでそんなにも侮辱されないといけないの。
ああ、そうか。姉にとっては魔力が全てなんだ。だっめ姉はそれだけでしか評価されていないから。姉は優秀だ。勉強もできる。常に首席だった。称賛される。でも、誰も見ない。姉が称賛させる理由を。影の努力を評価する人はいない。
それは何だかとても孤独でかわいそうに思えてきた。
「お姉様」
「何?ヴィオラ。私の言ったこと分かってくれた」
「分かったわ。分かったから、お姉様」
姉は安心したように笑った。
「そうじゃないとダメなんだよね。魔力を持たない私を守る。そう思うことでお姉様は自分の中で自分の価値をあげているのよね」
かちりと凍ったみたいに姉は固まった。
「魔力のない私がお姉様よりも上に行くと困るんだよね。自分の存在価値がなくなってしまうから。そう思っているんでしょ」
「何を言っているの。そんなわけないじゃない。私は」
姉の瞳が揺れていた。顔は笑顔を作ってはいるけど完全に強張っている。
優秀だから。優秀すぎるから分かってしまった事実。
魔力、加護持ちの貴族令嬢リリス。それだけを求め、それしか持たない。
「愚鈍なら良かったのにね。そうしたらお姉様は気づかなかった。自分が空っぽだってことに」
姉の表情から完全に笑顔が消えた。
「私は、イリス殿下が好き。王妃になる器じゃないかもしれない。でもそれを理由に逃げたくはないわ。不安しかない。でもイリス殿下に相応しくなるように努力するわ。お姉様、努力は魔力がなくともできるのよ。魔力のない渡しにもできるのよ」
言いたいことを全て言って、私は部屋を出た。だから知らなかった。姉が放心状態で崩れるようにその場に座り込んだことに。
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