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最終部:タワー・オブ・バベル
その233 夢魔
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【ふふん、よく粘ることだ】
【んもう、スーリア困っちゃう♪】
「はあ……はあ……ま、まだまだよ……」
疲弊したセイラの前に立つ男女。それは十階で戦ったルドレイとスーリアのヴァンパイアだった。セイラに傷を負わせた後、灰となった時に精神をセイラの中へと移しこみ、セイラの体を乗っ取るため、精神世界でセイラを追いこんでいるという訳だ。
セイラが目を覚まさないのはこの二人と戦っていたためで、稀に覚醒してもすぐに襲われるため誰かに相談することもできなかった。
「≪アイシクルランス≫!」
【ふはは、狙いが甘くなってきたぞ?】
【そろそろ限界かしらん】
「私の体を乗っ取ってどうしようっていうの? 悪いけど、すぐに見破られるわよ?」
【別にそれは構わんさ、逆に気付いてもらった方が都合がいい。お優しいあいつらのことだ。お仲間の体を攻撃するのはさぞ抵抗がいるだろう?】
【それに加えて、聖女の力を有しているこの体……いくらでも使いようはあるわ。あは♪】
「……? 聖女? 何を言ってるの? 私は賢者だけど……」
セイラが訝しむように二人を見るが、どうも嘘をついている様子は無い。動揺を誘うにしてもあまり意味が無いのでセイラは困惑する。
【あら、自分のことなのに知らないの? ま、どっちでもいいけどぉ。おしゃべりは終わり……そろそろ消えなさい!】
「くっ……! (何とか耐えたけどこれ以上は持たないわ……魔王と戦った時に死ぬのは怖くないけど、こんなやつらに体を使われるのだけは……)」
魔法は使えるが、流石にボス部屋にいただけの事はあり、一人では捌くのが精一杯のセイラ。爪と打撃をかろうじて致命傷にならないよう避けていたがいよいよ限界が近づいていた。
【この世界では血を吸えないのは残念だな。ま、しかしあの時やられた溜飲は下がったな】
【それじゃ、ばいばーい♪】
「やられる……! (みんな、ごめん!)」
セイラが目を瞑り、ヴァンパイア二人が襲いかかったその時である!
「はい、そこまで」
【どわ!?】
【きゃ!? な、何!?】
「え!?」
いきなりセイラの目の前にくすんだ金髪の女性が現れ、二人のおでこに指を当てると、激しく後ろへ吹き飛んで行った。
「ふう、間に合ったわね」
「あ、あの……ありがとうございます……っていうかここ、私の精神世界……」
くるっと振り向いた女性は笑顔でセイラを立たせてウインクをする。
「本当はもう召されようかなと思ってたんだけどね、何か今は魂が抜ける先が無いらしくて逝けなかったのよ。そしたらセイラがピンチでしょ? もういてもたってもいられなくって……」
「えっと……どちら様でしょうか?」
「ええー!? レイドもそうだったけど、セイラちゃんも気付かないの!? では問題です。私はあなたの何でしょう! 一番、お母さん。二番、ママ。三番、母。さあ、どれ!」
「全部一緒じゃない!? ってお母さん!?」
「当たりー! セイラちゃん! 会いたかったわ!」
助けに来たのはレイドとセイラの母、アーティファであった。抱きしめようとセイラに飛び掛かるが、ひらりとセイラは身をかわし、アーティファは顔から床へダイブした。
「酷い!?」
「酷いのはどっちよ!? お兄ちゃんと私を捨ててどこかへ行ったのはお母さんじゃない!」
「そ、それは……事情がありまして……」
「お兄ちゃん、一時期かなり怒ってたのよ?」
助けにきた娘に怒られると思っていなかった母はどんどん小さくなっていく。しかし、今はそれどころではない。憤慨したヴァンパイアが再度襲いかかってきたからだ!
【勝手に話を進めるな! 一人増えたところでやることは変わらん、スーリア!】
【もっちろん!】
「復活が早いわね、お母さんは下がってて!」
「ふふん、大丈夫よ。これでも聖女ですからね! 暇で修行してたら精霊から聖霊になっちゃってね。このくらいの相手なら……」
アーティファがセイラに放たれたスーリアの拳を片手で受け止めると、魔法を唱えた。
「塵へと還れ……≪アッシュモーメント≫」
【何!? 何なのこれは!? か、体が……】
アーティファに掴まれた手の先から徐々に風化していくスーリア。
「すでに通ったわ。残念だけど、後は消えるだけ」
【スーリア!? お、おのれ……まさか本物の聖女が……】
「いやいや、聖霊よ? というわけで、散々ウチの娘をいじめてくれたみたいだし、お礼をしないとね」
【ぬぐ……ここはひとまず……ん? に、逃げられんだと……!?】
「逃がす訳ないでしょ? あなた達はここで終わり。まあ現実世界だと私はまったく役に立たないんだけどね」
ヒタヒタとルドレイに向かって歩くアーティファ。セイラはポカーンとした顔でそれを目で追いながら、ルドレイは冷や汗をかいて後ずさる。
【あ……ああ……くっ!】
「あ! 飛んでった!」
セイラが叫ぶと、見る見るうちに小さくなっていくルドレイ。とにかく遠くへ、少し頭を冷やして何か考えを……とルドレイは考えていた。だがそれはあっけなく打ち破られる。
【はあ……はあ……こ、ここまでくれば……】
「気が済んだ?」
ポンと、肩に手を置かれビクッとなるルドレイ。有り得ないほど目を見開き、振り向いたそこにはアーティファとセイラが立っていた。
【バ、バカな……!? あれだけ逃げたのに……】
「逃がさないって言ったでしょ? ちょっと急がないといけないから、悪いけどもうおやすみ?」
困ったような笑い顔で微笑むアーティファ。しかしもう終わりなのだとルドレイは直感で感じていた。
「それじゃ、これはセイラちゃんをいじめてくれたお礼ね ≪シャイニング・ブレイカー≫」
【うげぇぇ!?】
ぐしゃっとルドレイの顔に掌が触れたと思った瞬間、どろりとその端正な顔がどろどろに溶けた。そのまま光り輝き、衣服以外は塵も残さず消え去った。
「え、ええー……あんなに苦労したのに……」
「さ、これで終わり。今度はレイドの所へ行くわよ。あなたたちを置いて消える理由になった相手と戦っているみたいだし。さっきの技は覚えたわね?」
「え!? う、うん……というか、ちゃ、ちゃんと説明してよ!?」
「ちょーっとその時間は惜しいの。レイドと合流したら話すわ、目を覚ましなさい」
「お母さん? お母さん!?」
◆ ◇ ◆
「お母さん!」
『うわ!? びっくりした!?』
「あ、あら……エクソリアさん……」
『ああ、ボクだよ。何でも君を狙っている豚がいるとかで、看病ついでにここの守りを任されたよ。まったく女神使いが荒いよね』
(レイドは外よ、急いで)
「お母さん!? 私の中に……!? ああん、もう、分かったわよ!」
『だいたい、ボクが悪かったと反省しても……あ、おい! どこへ行くんだい!?』
「私も加勢に行ってきます!」
『いや、だから君が狙われて……行ってしまった……これはボク、悪くないよね?』
でも後から何か言われるのは嫌だからと、セイラを追いかけるエクソリア。
セイラが復活したその頃、ルーナ達は……。
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