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第244話 巻き込まれる気、満々

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「そういうわけで、わがままを言って申し訳ないのですが、古山建設の女性社員が全員そのまま働き続けられるようにするのと、僕が正式に退社して、未払い分の給料をもらうこと――これらを全てやり終えたら、失業保険は受給せず、すぐに御社へ入社させていただきます」 
 佐野は、あえてかしこまった口調と態度で言う。
 根性曲がりが発動したとはいえ、自社のトラブルにユキを巻き込むわけにはいかないからだ。
 よって、自分一人で対処するという意思表示を込めたうえでの言動である。
「うむ」
 ユキは腕を組んで大げさにうなずく。
「では早速、行って参ります」
 どうやら自分の意は汲んでくれたようだ。 安心した佐野は笑顔で会釈しながら腰をあげる。そしてふと、壁の時計に目を向ける。
「あ!」
 何と十三時を少し過ぎている。
「こんな時間まで、お邪魔してすみません」
 慌てて佐野は頭を下げる。
「それでは、今日はこれにて失礼します。途中経過は逐一、電話で報告いたしますので」
 佐野は再度、深々とユキへ頭を下げたのち、足早に玄関へ向かう。次いでこれからの行動を頭の中で組み立て始める。
 まずはコンビニで昼食を買い、車中で食べる。それから総務部長へ電話をして自分の計画を話す。この時、総務部長の意見も聞く。また、できることなら経理部長とも連絡を取りたい――
 そのように佐野があれこれ考えながら右足を靴へ入れた時、背後からユキの声。
「おーい。ケイ、ちょっと待て」
「はい?」
 振り向くと、ユキが防寒ブルゾンを抱えて歩いてくる。
「昼飯、食いに行こうぜ」
「え? は、はい」
 いきなり予定が頓挫する。けれどユキとランチ。とても嬉しい。
「では、どちらへ」
 コンビニの弁当ではないらしい。
「キャラメル・フェアリー。まずは作戦会議だ」
 にんまりとユキが不敵に笑う。
「う……」
  残念ながら、自分の意は微塵も汲んでいなかった模様。
 つまるところ、巻き込まれる気、満々。

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