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幕間 悪女、再婚!
9話 悪女、陰謀
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「龍煌様には王になっていただき、私と共にこの後宮をぶっ壊していただきたいのです!」
「お……お、お前っ!」
これにはさすがの龍煌も狼狽えた。
すぐさま大きな手で蘭華の口を塞いだ。
「自分がなにをいっているのかわかっているのか!? 誰かに聞かれて皇太子の耳に入れば即死罪だぞ!?」
「ご安心ください。なにも今すぐとはいっておりませんよ。こういうのは時間をかけてじわじわ責めるのが得策ですから」
よいしょ、と蘭華は龍煌の手をどかしながらにこりと微笑む。
「……まさか最初からそれが目的で、俺に近づいたのではあるまいな」
「勿論です。廃太子とはいえ、龍煌様は皇帝の血筋で長子。おまけに美貌、知性、力全てを持ち合わせておいでです。これほど王に相応しいお人はいないと思います」
「お前……結局俺を利用するつもりで――」
嵌められた、と龍煌の眉間に皺が寄せられた瞬間、蘭華は手で彼の口を抑える。
「あ、ご安心を。私、権力や名声などには一切興味ありませんので」
「……は?」
龍煌の口があんぐりと開く。
一体この女がなにを考えているか皆目見当がつかなかった。
「私、この後宮の『律』にはつくづくうんざりしていますの。だからそれをぶっ壊したいのです。龍煌様に王になっていただくのはあくまでもそのための『手段』にすぎませんわ」
さらりととんでもないことを抜かしはじめた。
「百歩……いや、一万歩譲ってお前の考えを理解したとしよう。だが、何故俺なんだ。利用できそうな皇太子は他にもわんさかいるだろう」
皇帝の子供は十人以上いる。
その中で最も使いづらそうな自分を彼女が選んだのかが到底理解できなかった。
「だって……。恐らく龍煌様、律を何もご存じないでしょう?」
蘭華の一言に龍煌は押し黙った。
「な、何故そう思う――」
「だって、龍煌様。現時点で律を数個破られているのに全く気づいておりませんもの」
「――な」
その言葉に龍煌はぎょっと目を見開く。
蘭華は「王は妃より高座に座らなければいけない」「妃は身の回りのことを全て侍女に任せなければならない」などなど指折り数えて教えていく。
「なんだその面倒くさい規則は」
「ほら! 龍煌様も私と同じように考えていただけると思っていたのです!」
だからですよ、と蘭華は興奮気味に拳を握る。
正直なところ、物心ついたころから地下牢で過ごしていた龍煌は教育らしい教育を受けたことがなかった。
つまるところ律の「り」の字すら知らないわけだ。
蘭華の話を聞いてそれはもう煩わしそうに眉を顰める龍煌を見て、彼女はにんまりと笑う。
「ね、とても面倒でしょう。だから龍煌様が王になれば面倒くさい律などスパッと廃止にできると思うのです!『王の声は神の声。王の命には絶対に従わなければならない』と律に記載してありますから!」
「そこまでお前は律が嫌いなのか」
「ええ、大っ嫌いです。私は自分で定めたもの以外に縛られるのは大嫌いですから」
すっと蘭華の目から感情が消えた。
そこまで彼女が「律」を恨むとはなにがあったのだろう、と龍煌は考える。
「ともかく、律をぶっ壊すために龍煌様には王になっていただきたいのです。そのために妃として全力で尽くしていく所存ですのでよろしくお願い致しますね!」
彼女には色々聞きたいことが山ほどある。
だが、彼女が嘘をついているようにも見えないし律を破り続けて処刑されるほどなのだから、律嫌いは本当なのだろう。
「……非常に不本意だが、お前は俺に自由をくれた。その礼くらいの働きはしてやろう」
「ありがとうございます! 本当に龍煌様の妻になれて、私は幸せ者です!」
「だが期待はするな、俺は王になるための教育なんて受けていないからな」
「そこはご安心を! 夫婦二人で支え合いながら、一歩ずつ着実に進んで参りましょう!」
どうせ地下牢を出たところで、とくにやりたいこともなかった。
「……しかし、こんなあばら屋暮らしからどうやって王になるというんだ」
「うふふ。策は考えてありますよ。まずは侍女を見つけ、皇太子殿下らしい美しい宮にしなければなりませんね」
うふふ、と口に手を当てながらほくそ笑む悪女のなんと楽しげなことよ。
これからどうなるのかと龍煌は胃が痛みそうになったが、新妻が笑っているのであればまあいいか……と思ってしまった。
(共にいれば退屈しない――それはこちらの台詞かもしれないな)
その言葉を龍煌は後に後悔することをまだ知らない。
これは廃太子が悪女に道連れにされ振り回され続けるほんの序章にすぎないのだから。
そうして後宮の人間の知らないところで、悪女と廃太子の下剋上計画が密かに密かに動き出したのであった――。
「お……お、お前っ!」
これにはさすがの龍煌も狼狽えた。
すぐさま大きな手で蘭華の口を塞いだ。
「自分がなにをいっているのかわかっているのか!? 誰かに聞かれて皇太子の耳に入れば即死罪だぞ!?」
「ご安心ください。なにも今すぐとはいっておりませんよ。こういうのは時間をかけてじわじわ責めるのが得策ですから」
よいしょ、と蘭華は龍煌の手をどかしながらにこりと微笑む。
「……まさか最初からそれが目的で、俺に近づいたのではあるまいな」
「勿論です。廃太子とはいえ、龍煌様は皇帝の血筋で長子。おまけに美貌、知性、力全てを持ち合わせておいでです。これほど王に相応しいお人はいないと思います」
「お前……結局俺を利用するつもりで――」
嵌められた、と龍煌の眉間に皺が寄せられた瞬間、蘭華は手で彼の口を抑える。
「あ、ご安心を。私、権力や名声などには一切興味ありませんので」
「……は?」
龍煌の口があんぐりと開く。
一体この女がなにを考えているか皆目見当がつかなかった。
「私、この後宮の『律』にはつくづくうんざりしていますの。だからそれをぶっ壊したいのです。龍煌様に王になっていただくのはあくまでもそのための『手段』にすぎませんわ」
さらりととんでもないことを抜かしはじめた。
「百歩……いや、一万歩譲ってお前の考えを理解したとしよう。だが、何故俺なんだ。利用できそうな皇太子は他にもわんさかいるだろう」
皇帝の子供は十人以上いる。
その中で最も使いづらそうな自分を彼女が選んだのかが到底理解できなかった。
「だって……。恐らく龍煌様、律を何もご存じないでしょう?」
蘭華の一言に龍煌は押し黙った。
「な、何故そう思う――」
「だって、龍煌様。現時点で律を数個破られているのに全く気づいておりませんもの」
「――な」
その言葉に龍煌はぎょっと目を見開く。
蘭華は「王は妃より高座に座らなければいけない」「妃は身の回りのことを全て侍女に任せなければならない」などなど指折り数えて教えていく。
「なんだその面倒くさい規則は」
「ほら! 龍煌様も私と同じように考えていただけると思っていたのです!」
だからですよ、と蘭華は興奮気味に拳を握る。
正直なところ、物心ついたころから地下牢で過ごしていた龍煌は教育らしい教育を受けたことがなかった。
つまるところ律の「り」の字すら知らないわけだ。
蘭華の話を聞いてそれはもう煩わしそうに眉を顰める龍煌を見て、彼女はにんまりと笑う。
「ね、とても面倒でしょう。だから龍煌様が王になれば面倒くさい律などスパッと廃止にできると思うのです!『王の声は神の声。王の命には絶対に従わなければならない』と律に記載してありますから!」
「そこまでお前は律が嫌いなのか」
「ええ、大っ嫌いです。私は自分で定めたもの以外に縛られるのは大嫌いですから」
すっと蘭華の目から感情が消えた。
そこまで彼女が「律」を恨むとはなにがあったのだろう、と龍煌は考える。
「ともかく、律をぶっ壊すために龍煌様には王になっていただきたいのです。そのために妃として全力で尽くしていく所存ですのでよろしくお願い致しますね!」
彼女には色々聞きたいことが山ほどある。
だが、彼女が嘘をついているようにも見えないし律を破り続けて処刑されるほどなのだから、律嫌いは本当なのだろう。
「……非常に不本意だが、お前は俺に自由をくれた。その礼くらいの働きはしてやろう」
「ありがとうございます! 本当に龍煌様の妻になれて、私は幸せ者です!」
「だが期待はするな、俺は王になるための教育なんて受けていないからな」
「そこはご安心を! 夫婦二人で支え合いながら、一歩ずつ着実に進んで参りましょう!」
どうせ地下牢を出たところで、とくにやりたいこともなかった。
「……しかし、こんなあばら屋暮らしからどうやって王になるというんだ」
「うふふ。策は考えてありますよ。まずは侍女を見つけ、皇太子殿下らしい美しい宮にしなければなりませんね」
うふふ、と口に手を当てながらほくそ笑む悪女のなんと楽しげなことよ。
これからどうなるのかと龍煌は胃が痛みそうになったが、新妻が笑っているのであればまあいいか……と思ってしまった。
(共にいれば退屈しない――それはこちらの台詞かもしれないな)
その言葉を龍煌は後に後悔することをまだ知らない。
これは廃太子が悪女に道連れにされ振り回され続けるほんの序章にすぎないのだから。
そうして後宮の人間の知らないところで、悪女と廃太子の下剋上計画が密かに密かに動き出したのであった――。
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