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第二章 初めての領地

20 領地への道中 3

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 馬車から出たアリアーティスは、ベルトナンドと合流する。

「リオンは?」

 アリアーティスに気づいたベルトナンドが問う。

「馬車の中にいます。近づけさえしなければ大丈夫でしょう」
「わかった。それなら、私たちはこいつらに向き合おう」

 リオンティールのいる馬車を背にするように、盗賊たちに向き合う。
 盗賊たちの目的を探るために、アリアーティスは挑発してみる。

「あなたたち、私たちを襲うなんて、いい度胸してるじゃない。この馬車を見て襲ってくるなんて、これが貴族の馬車とも気づかないほどに頭の足りないバカなのか、知っていながら襲ってきたアホなのか、どちらなのかしら」
「知ってたに決まってるだろ?さっさと有り金置いていきな!」
「でも、お前はここに残ってもいいんだぜ?目上への口の聞き方ってもんを、たっぷり教育してやるよ」

 この口ぶりで、この馬車がロウェルト伯爵家の馬車だと知っていたわけではなかったことに気づき安心しながらも、それを見せないように余裕そうに言う。

「あら、面白いことを言うわね。私たちからしてみれば、あなたたちのほうが教育が必要な気がするわ」
「んだと?」
「あいつは私がやるわね」

 アリアーティスは、一応声をかけておいて、魔力を練って、氷の塊を生み出す。それは、子どもでも握ることができるくらいに小さなものだった。塊というより、粒と言ったほうが近いだろう。
 アリアーティスは、小さいまま氷の粒を盗賊たちに放つ。

「はっ!どんな魔法を使うのかと思ったら、口だけかよ!」

 盗賊の男は、ボソボソと何かを呟くと、火の玉を生み出した。

(火属性か。それで、あれはーーただのファイヤーボールね)

 なら心配ないと、そのまま構築するのを放置する。
 男がファイヤーボールを放つと、アリアーティスの放った氷の粒に当たった。
 通常なら、氷はこれで溶ける。
 だが、アリアーティスは、ロウェルトの氷姫と呼ばれるような存在だ。放たれた粒も、ただの氷ではない。
 氷は、そのままなんともないように火を通りすぎ、その男の体に当たり弾けた。
 服は破れているが、体には何の異常もなかった。
 男は、自分の魔法が効かなかったことには驚いたが、何も起こらないことに、大笑いした。

「なんだ、大したことねぇじゃねぇか!」
「そう?じゃあ、もうちょっとやってあげるわ」

 アリアーティスは、先ほどとは比べ物にならないほどの氷の塊を生み出す。人を十人は丸々包んでしまいそうな大きさだ。

「はっ……?」

 男は、理解できないというように口を開ける。
 アリアーティスは、それを冷たく見ながら、氷の塊を男ーーの周りに放つ。

「うわぁっ!」
「な、なんだよあの魔法!」

 先ほどまで余裕そうな表情をしていた男たちも慌てふためく。
 ベルトナンドとアルトルートは、アリアーティスを呆れるような目で見るが、止めることはしない。
 逃げようとしている男たちを、剣で斬りつけたり、魔法で倒しながら、アリアーティスのことを監視する。
 制御に失敗すれば、魔法が暴発して巻き込まれるだろう。自分たちだけならともかく、リオンティールまで巻き込まれてしまってはたまらない。

「さて、後はあなただけね」

 アリアーティスの氷と、ベルトナンドとアルトルートの剣と魔法により、ファイヤーボールを放った男以外は、全員が地面に寝させられていた。

「み、見逃してくれ!し、死にたくねぇよぉ……」

 あんなに強気だったくせして、アリアーティスたちが強者だと気づくと、とたんに下手に出る。
 アリアーティスは、そんな男ににこりと微笑む。そして、静かに男のほうを指差す。

「無駄よ。胸の部分を見てみなさい」

 男は、自分の胸の部分を確認すると、なぜか魔法が当たった周囲に氷がある。
 しばらく見ていると、その氷が徐々に広がっていく。広がる早さは、どんどん早くなっていく。

「な、なんだよこれ!」
「私のオリジナル魔法の『フリージングショット』氷が当たって弾けると、その周囲が魔素を取り込んで凍っていくの。あなたはもうすぐ、美しい氷の彫像になるわよ」

 よかったわねとアリアーティスが微笑むと、男は絶望する。
 アリアーティスの氷は、男の火魔法では溶けなかった。だからといって、凍っているのは胸の部分だ。切り落とすこともできない。
 男はこのまま、凍りつくのを待つだけだ。

「た、助けてくれ……!」
「私のかわいいリオンとの、楽しい会話を邪魔したあなたを、助ける義理はないわね」

 そう言って、アリアーティスはリオンティールのいる馬車へと戻る。
 ベルトナンドとアルトルートも、自分たちの馬車に戻った。
 男の体の氷は、腕にまで侵食を始めていた。もうすぐ、顔や足にも到達しそうだ。
 なぜこんな奴らを襲ったんだと後悔しても、もう遅い。
 男は、仲間の亡骸とともに、過ぎ行く馬車を見つめることしかできなかった。
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