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6 争いの仲裁
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一人でゆっくりと昼食を取る。
ここの学園のご飯は、相変わらず美味しい。学園は、表向きは実力主義を謳っているだけはあり、身分での差別はほとんど見られない。
でも、身分が高いほうが質のいい勉強を受けられるので、どうしても差は出てしまうところがある。
私も、公爵令嬢として質のいい教育がされてきたから、それにふさわしい成果が出ている。
ただそれだけのことなのに、平民は学がないと見下されるのは変わらない。
確かに、間違ってはいないのだろうけど、たまたま貴族に生まれただけで、見下すのを許されるというのなら、なんでアリシアも私も、処刑されることとなったのだろうか。
ーーガシャン!
何かが割れるような音がする。
私が反射的にそちらのほうを見ると、地面に手をついている生徒と、それを見下す生徒がいる。
そういえば、学園ではこんな光景をよく見たっけ。
身分の高い生徒が、低い生徒を見下す。学園の教師は見て見ぬふり。
これが、学園ではよく行われる日常。
私は、助けることもあったけど、明らかに悪いほうが責められていたら、無視することもあった。
今回はどうしようか。あの子の信頼を得るために、助け船を出そうか、自分には関係ないと無視するか。
しばらく聞いてみよう。
「あなた、なんてことをしてくれるのよ!お気に入りのドレスだったのよ!?」
「す、すみません……」
女子生徒は染みになっている場所を広げながら、
地面に手をついている生徒を責め立てる。どうやら、地面に手をついている理由は、謝罪をするためみたい。
どうやら、義はあの貴族らしい女性のほうにあるようね。それなら、わざわざ助け船を出す必要はないかもしれないわ。
「何をしている?」
男の人の声が、食堂に響く。大して、大きい声ではなかったのに、皆の注目が集まった。
その声の主は、私の兄ーークラーク。
公爵家嫡男はさすがだ。たった一言で、この食堂を支配してしまっている。
先ほどまで興奮状態になっていた生徒も、何も話していないほどに。
それどころか、兄の姿を見たとたんに震えている。
「何をしていると聞いている」
「あの……この平民が、私のドレスにお茶を溢して染みを……」
「その程度で、わざわざこんな場所で騒ぎを起こしたのか?」
「それは……」
女生徒は俯いている。
まるで、あの女生徒が悪いというような空気になりつつあるけど、お兄様こそ、何をおっしゃっているのか。
下級貴族……たとえ、上級貴族だったとしても、ドレスは安いものではない。それに、染みを作られてしまったから、文句の一つも言いたくなるのは当然の心理と言える。
それに、こんな場所と言うけど、こんな場所だから染みができるというのに。
この場にいるほとんどの貴族は、内心はそう思っているに違いない。
でも、誰も何も言わないのは、兄が公爵家嫡男だから。ローウェン公爵家に取り入りたいと思っていたり、ローウェン公爵家に切られたくないと思っている貴族たちは、兄の言葉に逆らったりはしないだろう。
お兄様は、この行いが正義の元に行われる正しい行いだと信じ、周りはお兄様のご機嫌を取るためにだんまりを決め込み、貴族らしき女生徒は、公爵家嫡男には逆らえず、平民の子は肯定も否定もしない、無関係のように振る舞う。
本当に、誰もが自分のことしか考えていなくて、笑えてくる。
そういう私も、人のことは言えた義理ではない。でも、こんな奴らよりはましだと思っていたい。
前言撤回。私が、二人とも救う。
「お兄様。彼女を責めすぎです」
「アリステア……いたのか」
「お昼時ですから」
私の存在に気づいていなかったのと、私から声をかけてきたことに驚いたみたい。
でも、お昼時だからいるかもなくらいには考えていてもおかしくないと思う。
「責めすぎとは、どういう意味だ?」
「そのままの意味です。彼女は、自分のドレスにお茶を溢した彼女を叱っただけでしょう?それなのに、そこまで責める謂れはないと思いますわ」
お兄様に強気にそう言うと、お兄様は黙ってしまう。
私は、平民と言われていた女生徒のほうを向く。
女生徒は、まるで更なる味方が来たかのような笑顔を向けてきたけど、どこからそんな自信が出てくるのかわからない。
「あなたは、注意しておかないといけませんわ。ドレスはあなたのような平民が買える値段ではありませんもの。場合によっては、一生をかけてお金を返済しなければならない可能性だってあります」
私が現実を突きつけると、その女生徒は、笑顔からだんだん顔を青くしていった。
まさか、叱られるとは思っていなかったのかしら?
私は、今度は貴族らしき女生徒のほうを向く。
「あなたもですよ。平民と貴族の身分差は、あなたが思っている以上に大きいものですから、言動には気をつけませんと。端から見れば、ただ虐げているようにしか見えませんよ」
「は、はい……気をつけます」
その女生徒は、渋々ながらではあったものの、私に頭を下げる。
平民のあの子には下げようとしないところがさすがと言えそう。
「お兄様」
私が呼ぶと、お兄様は体を震わせる。
「お兄様はローウェン公爵家の時期当主です。それに見合った言動を心がけてもらいませんと」
「あ、ああ……」
「では。私の言葉はこれにて。取り込み中に失礼いたしました」
私は、王妃教育によって鍛えられた美しいカーテシーを見せつける。
我ながら大人げないと思っているけど、これくらいの意趣返しは許されるはず。
(はぁ~……どっと疲れたわね)
もうこの場にいたくなかった私は、我先にと教室に戻った。
ここの学園のご飯は、相変わらず美味しい。学園は、表向きは実力主義を謳っているだけはあり、身分での差別はほとんど見られない。
でも、身分が高いほうが質のいい勉強を受けられるので、どうしても差は出てしまうところがある。
私も、公爵令嬢として質のいい教育がされてきたから、それにふさわしい成果が出ている。
ただそれだけのことなのに、平民は学がないと見下されるのは変わらない。
確かに、間違ってはいないのだろうけど、たまたま貴族に生まれただけで、見下すのを許されるというのなら、なんでアリシアも私も、処刑されることとなったのだろうか。
ーーガシャン!
何かが割れるような音がする。
私が反射的にそちらのほうを見ると、地面に手をついている生徒と、それを見下す生徒がいる。
そういえば、学園ではこんな光景をよく見たっけ。
身分の高い生徒が、低い生徒を見下す。学園の教師は見て見ぬふり。
これが、学園ではよく行われる日常。
私は、助けることもあったけど、明らかに悪いほうが責められていたら、無視することもあった。
今回はどうしようか。あの子の信頼を得るために、助け船を出そうか、自分には関係ないと無視するか。
しばらく聞いてみよう。
「あなた、なんてことをしてくれるのよ!お気に入りのドレスだったのよ!?」
「す、すみません……」
女子生徒は染みになっている場所を広げながら、
地面に手をついている生徒を責め立てる。どうやら、地面に手をついている理由は、謝罪をするためみたい。
どうやら、義はあの貴族らしい女性のほうにあるようね。それなら、わざわざ助け船を出す必要はないかもしれないわ。
「何をしている?」
男の人の声が、食堂に響く。大して、大きい声ではなかったのに、皆の注目が集まった。
その声の主は、私の兄ーークラーク。
公爵家嫡男はさすがだ。たった一言で、この食堂を支配してしまっている。
先ほどまで興奮状態になっていた生徒も、何も話していないほどに。
それどころか、兄の姿を見たとたんに震えている。
「何をしていると聞いている」
「あの……この平民が、私のドレスにお茶を溢して染みを……」
「その程度で、わざわざこんな場所で騒ぎを起こしたのか?」
「それは……」
女生徒は俯いている。
まるで、あの女生徒が悪いというような空気になりつつあるけど、お兄様こそ、何をおっしゃっているのか。
下級貴族……たとえ、上級貴族だったとしても、ドレスは安いものではない。それに、染みを作られてしまったから、文句の一つも言いたくなるのは当然の心理と言える。
それに、こんな場所と言うけど、こんな場所だから染みができるというのに。
この場にいるほとんどの貴族は、内心はそう思っているに違いない。
でも、誰も何も言わないのは、兄が公爵家嫡男だから。ローウェン公爵家に取り入りたいと思っていたり、ローウェン公爵家に切られたくないと思っている貴族たちは、兄の言葉に逆らったりはしないだろう。
お兄様は、この行いが正義の元に行われる正しい行いだと信じ、周りはお兄様のご機嫌を取るためにだんまりを決め込み、貴族らしき女生徒は、公爵家嫡男には逆らえず、平民の子は肯定も否定もしない、無関係のように振る舞う。
本当に、誰もが自分のことしか考えていなくて、笑えてくる。
そういう私も、人のことは言えた義理ではない。でも、こんな奴らよりはましだと思っていたい。
前言撤回。私が、二人とも救う。
「お兄様。彼女を責めすぎです」
「アリステア……いたのか」
「お昼時ですから」
私の存在に気づいていなかったのと、私から声をかけてきたことに驚いたみたい。
でも、お昼時だからいるかもなくらいには考えていてもおかしくないと思う。
「責めすぎとは、どういう意味だ?」
「そのままの意味です。彼女は、自分のドレスにお茶を溢した彼女を叱っただけでしょう?それなのに、そこまで責める謂れはないと思いますわ」
お兄様に強気にそう言うと、お兄様は黙ってしまう。
私は、平民と言われていた女生徒のほうを向く。
女生徒は、まるで更なる味方が来たかのような笑顔を向けてきたけど、どこからそんな自信が出てくるのかわからない。
「あなたは、注意しておかないといけませんわ。ドレスはあなたのような平民が買える値段ではありませんもの。場合によっては、一生をかけてお金を返済しなければならない可能性だってあります」
私が現実を突きつけると、その女生徒は、笑顔からだんだん顔を青くしていった。
まさか、叱られるとは思っていなかったのかしら?
私は、今度は貴族らしき女生徒のほうを向く。
「あなたもですよ。平民と貴族の身分差は、あなたが思っている以上に大きいものですから、言動には気をつけませんと。端から見れば、ただ虐げているようにしか見えませんよ」
「は、はい……気をつけます」
その女生徒は、渋々ながらではあったものの、私に頭を下げる。
平民のあの子には下げようとしないところがさすがと言えそう。
「お兄様」
私が呼ぶと、お兄様は体を震わせる。
「お兄様はローウェン公爵家の時期当主です。それに見合った言動を心がけてもらいませんと」
「あ、ああ……」
「では。私の言葉はこれにて。取り込み中に失礼いたしました」
私は、王妃教育によって鍛えられた美しいカーテシーを見せつける。
我ながら大人げないと思っているけど、これくらいの意趣返しは許されるはず。
(はぁ~……どっと疲れたわね)
もうこの場にいたくなかった私は、我先にと教室に戻った。
応援ありがとうございます!
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