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新しい出会い

じゅうにわめ

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「ジュークじゃないか。どうしたんだい?」

 美人さんは無表情に近い顔のまま静かにジュークに近付いてきた。

「お前……いつも言ってるがリビングぐらいは片付けておけよ」
「はは、君達しか来ないからいいじゃないか」

 ジュークと笑って会話しているみたいだけど、表情があまり変わっていない。
 だけど俺を視界に入れた瞬間に、その目が少し変わったのがわかった。

「誰?」
「あ、はじめまして。シオンと言います。ジュークにお世話になってます」

 椅子から立ち上がり頭を下げる。
 ジュークだけならいつものことかもしれないが、突然知らない人間がいたらそりゃあビックリするよね。
 だけど、目が、うん。
 瞳孔が縦長なんですが。
 頬に鱗っぽいのあるんですが。
 少し大きめの口からシューって聞こえるんですが。
 チロチロ見える舌は、どう見ても人間のじゃないんですが。
 え、これどうしたらいい?
 怒ってない?

「……人間?」
「あ、はい。人間です」

 縦に細められた瞳は俺をじーっと見つめている。
 お互い無言で見つめ合うという居心地の悪い空間が出来上がってしまった。
 ど、どうしたらいいんだろう。
 あっ、身なり整えるの忘れてた!
 初対面の人の前でみっともない格好になっているのかもしれない、と俺は慌てて髪を撫でて服の皺を引っ張って伸ばす。
 着ているものはジュークと似たシャツとズボン、そして首で紐を締めるタイプのコートだ。
 ああ!
 コート着てるのって失礼じゃない!?
 わたわたと首元で締められていた紐を解き、腕に掛ける。
 よし、これで失礼じゃないはず!
 最後にもう一度シャツを引っ張って皺を伸ばして顔を上げる。
 これで大丈夫だよね!?

 ぽかーんとされてた。
 あれ!?
 なんで!?
 口がちょっと開いててさっきまで縦長だった瞳が丸くなってる。
 俺何か間違った!?
 ジュークに視線を向けたら苦笑いしてたよ。
 えええ、どういうこと?

「とりあえず座れ、2人とも」
「あ、ああ、そうだね」
「え、……失礼します」

 家主の許可じゃなくてジュークの許可だけど、とりあえず1人だけ立っているのもどうかと思うので椅子に座り直す。
 四角いテーブルに4つの椅子があって、長辺に2つずつ並んでいるという至って普通の対面式だ。
 ジュークと並んで俺は座り、エルと呼ばれた美人さんは俺の前に座った。

「で、どうしたの」
「国を出た」
「……へえ、やっとかい?」

 どうやら2人はよく知っている間柄みたいだ。
 知らない人の名前らしきものを挙げながらどうしたこうした、と報告らしきものをジュークがしている。
 後始末とかジュークが口にしていたから、俺は今更ながらしまった、と顔を歪める。
 そこに生きてきて職に就いていた人を、突発的に引っ張り出したという非常識な行動をしてしまっていたのだ。
 そして俺はその責任を負っていない。
 俺はやった、ラッキーとばかりにジュークと国を飛び出してしまった。
 その皺寄せが他人に押し付けられてしまっていたのだ。
 申し訳ない気持ちで肩を落としていると、ジュークが俺の膝に乗せていた手を軽く叩いた。
 窺うようにジュークを見れば気にしなくていいとばかりに優しそうに微笑んでいて、余計に申し訳なく思った。

「じゃあこれからどうするの?」
「シオンを鍛えながら移動することにした。後は情報収集だな」
「何の為に?」
「…………魔王討伐」

 ザワザワしていた訳では無いけれど、ジュークが呟いた言葉にしん、と部屋が静かになった。
 エルさんの瞳がまた細められて、ジュークを静かに見つめている。

「……セークスバッコンは古の召喚陣を使って勇者を喚び出した。しかし……」
「ふーん。……じゃあ君がその『勇者』ってことかな?」
「一応、そうみたいです」

 エルさんの目が、面白いものを見つけたって言ってる。
 人間とは少し違う目を細めて、俺をじーっと……というか舐めるように見ている。
 そこからはエルさんが俺に幾つか質問をしてきた。
 召喚された時の状況とかね。
 話の流れで勇者のチートも幾つか話したら目がキラキラ……いや、ギラギラかな?輝き出してちょっと腰が引けた。
 まあ、お子様とのあれそれは言えないから、俺が勝手に創意工夫して話したんだけど、エルさんの興味を物凄く引いたっぽい。

「シオン。君は実に研究しがいがありそうだ。僕に少し採取させてくれないかい?」

 そう言われてしまったのだ。
 採取とはどういうことでしょうね。

「エル」

 咎めるようなジュークの声を無視して、テーブルに肘をついてエルさんは俺の方へ身を乗り出してくる。

「ほんの少しでいいんだよ。ねえ、お願いだ」
「エル!」
「あ、ジューク。泊まるなら買い出しを頼むよ」

 ……マイペースな人だなぁ。
 若干空気がギスギスし始めたので、少しだけですよ、とエルさんのお願いを聞くことにした。
 ジュークが物凄く渋い顔をしていたけど、エルさんが俺の嫌がることはしないと誓って、なんとか話が纏まりました。
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