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第一章 帝国編
第三話 食事
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私は城のなかの一画をあてがわれた。一室ではなく一画だ。
王国風の華美な装飾はなく、質素ではあるが、清潔で機能性の高い部屋が多く用意されていた。
(こんなにたくさんの部屋をどう使えばいいの?)
そして、専属のメイドもつけられた。前の皇后にも仕えていたというマイヤという年配のメイドがリーダーで、私より少し年上のステラというお姉さんメイドと、同い年ぐらいのミルフィという可愛らしいメイドの三名だ。
城には他にも多くのメイドがいて、それらのメイドも私の命令を聞くそうだ。
「皇后様、国中の全ての女性の頂点に立たれておられるのが皇后様です。他のお妃様もメイドも、全ての女性が皇后様の命に従います」
(そんな力、要らないんですが……)
「それでは、午後七時から皇帝陛下とのお食事でございます。お召し物をご用意します。ステラ、ミル、動いて」
突然のお姫様待遇に私は全くついていけず、されるがままにされていた。
着替えとメイクに一時間ほどかけ、食事の部屋に案内された。皇帝はすでに席に着いていた。
夕食は皇帝と二人で頂くのだが、私のメイド三名と皇帝のメイドが五名と皇后の親衛隊である女騎士団十名と皇帝の親衛隊十名が、それぞれの後ろに控えていた。
レギン食のコース料理を給仕係が運んでくる。
「どうした? 落ち着かないか?」
皇帝が私を緊張させないようにか、微笑みながら穏やかな口調で聞いて来た。
「は、はい。沢山の方が見ておられるのですね」
「じきに慣れる。それにそんなに見られてはいない。兵士は周囲を警戒しているだけだ。メイドは命令にすぐに反応するために我々の手を見ている」
そう言われて、彼らの様子を何となしに見てみると、皇帝の言う通りだった。
「カレン、明日の妃たちの朝礼には私も出る。そこで、お前を害さないよう釘を刺すようにするが、ほれ、あまり言いたくはないのだが、女の世界はその、何と言うか……」
皇帝が言い淀んでいる。会ってからずっとそうなのだが、私を傷つけないよう優しい配慮をしてくれる。
「陰険ですよね」
「そう、それだ。直接的な手段には出て来ないと思うが、正直予想がつかない。何かあったら、遠慮なく私に報告して欲しい」
「ありがとうございます」
「それと、何かされたら、泣き寝入りするのではなく、必ず反撃するようにな」
子供を心配する父親というのは、何となくこんな感じなのだと思った。私は皇帝が私のことを心配してくれていることが、とても嬉しかった
「はい。陛下。ところで、これはなんという食べ物でしょうか?」
置かれた皿には何種類かの魚の切り身と思われるものが盛り付けられていたが、調理がされていないように見えた。
「刺身だ。生の魚だが、このソースにつけて食べると美味しいぞ。初めてだとちょっとつらいかもしれないが、レギン料理には早く慣れて欲しい。レオンポールの娘というのは思いのほか反感があるようだ。つけ込まれないよう頑張ってくれ」
「はい、でも、陛下、これすごく美味しいですっ」
魚の切り身から出る甘みと少し塩辛いソースが絶妙に絡んで、食感もよく、とても美味だった。
「そうか、そうか。ちょっとだけ酒を飲んでみるか? 刺身に合うぞ」
「いただきます。うっぱあ。これも美味しいですっ」
アルコールは初めて飲んだが、思った以上に美味しかった。辺境伯がお酒に滅法強かったので、私にも素質があるのだろう。
「ははは、ころころとよく表情が変わって、楽しいやつだな。次のこの料理は天ぷらという。王国人にも受けがいい食べ物だぞ」
私はこんなに楽しく食事をしたことがなかった。
自分の父が皇帝のような人だったら、どんなに幸せだったことだろうか。
正式な婚儀はまだということで、その夜は私は自分の寝室で眠った。
王国風の華美な装飾はなく、質素ではあるが、清潔で機能性の高い部屋が多く用意されていた。
(こんなにたくさんの部屋をどう使えばいいの?)
そして、専属のメイドもつけられた。前の皇后にも仕えていたというマイヤという年配のメイドがリーダーで、私より少し年上のステラというお姉さんメイドと、同い年ぐらいのミルフィという可愛らしいメイドの三名だ。
城には他にも多くのメイドがいて、それらのメイドも私の命令を聞くそうだ。
「皇后様、国中の全ての女性の頂点に立たれておられるのが皇后様です。他のお妃様もメイドも、全ての女性が皇后様の命に従います」
(そんな力、要らないんですが……)
「それでは、午後七時から皇帝陛下とのお食事でございます。お召し物をご用意します。ステラ、ミル、動いて」
突然のお姫様待遇に私は全くついていけず、されるがままにされていた。
着替えとメイクに一時間ほどかけ、食事の部屋に案内された。皇帝はすでに席に着いていた。
夕食は皇帝と二人で頂くのだが、私のメイド三名と皇帝のメイドが五名と皇后の親衛隊である女騎士団十名と皇帝の親衛隊十名が、それぞれの後ろに控えていた。
レギン食のコース料理を給仕係が運んでくる。
「どうした? 落ち着かないか?」
皇帝が私を緊張させないようにか、微笑みながら穏やかな口調で聞いて来た。
「は、はい。沢山の方が見ておられるのですね」
「じきに慣れる。それにそんなに見られてはいない。兵士は周囲を警戒しているだけだ。メイドは命令にすぐに反応するために我々の手を見ている」
そう言われて、彼らの様子を何となしに見てみると、皇帝の言う通りだった。
「カレン、明日の妃たちの朝礼には私も出る。そこで、お前を害さないよう釘を刺すようにするが、ほれ、あまり言いたくはないのだが、女の世界はその、何と言うか……」
皇帝が言い淀んでいる。会ってからずっとそうなのだが、私を傷つけないよう優しい配慮をしてくれる。
「陰険ですよね」
「そう、それだ。直接的な手段には出て来ないと思うが、正直予想がつかない。何かあったら、遠慮なく私に報告して欲しい」
「ありがとうございます」
「それと、何かされたら、泣き寝入りするのではなく、必ず反撃するようにな」
子供を心配する父親というのは、何となくこんな感じなのだと思った。私は皇帝が私のことを心配してくれていることが、とても嬉しかった
「はい。陛下。ところで、これはなんという食べ物でしょうか?」
置かれた皿には何種類かの魚の切り身と思われるものが盛り付けられていたが、調理がされていないように見えた。
「刺身だ。生の魚だが、このソースにつけて食べると美味しいぞ。初めてだとちょっとつらいかもしれないが、レギン料理には早く慣れて欲しい。レオンポールの娘というのは思いのほか反感があるようだ。つけ込まれないよう頑張ってくれ」
「はい、でも、陛下、これすごく美味しいですっ」
魚の切り身から出る甘みと少し塩辛いソースが絶妙に絡んで、食感もよく、とても美味だった。
「そうか、そうか。ちょっとだけ酒を飲んでみるか? 刺身に合うぞ」
「いただきます。うっぱあ。これも美味しいですっ」
アルコールは初めて飲んだが、思った以上に美味しかった。辺境伯がお酒に滅法強かったので、私にも素質があるのだろう。
「ははは、ころころとよく表情が変わって、楽しいやつだな。次のこの料理は天ぷらという。王国人にも受けがいい食べ物だぞ」
私はこんなに楽しく食事をしたことがなかった。
自分の父が皇帝のような人だったら、どんなに幸せだったことだろうか。
正式な婚儀はまだということで、その夜は私は自分の寝室で眠った。
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