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第二章 王都編

第26話 王城で国王に会おう!

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 よく分からない貴族との戦闘後。
 正体がバレないよう十分に距離を置いた後、俺はきょろきょろと周囲を見渡した。

「さて、ここはどこだ?」

 逃げるのに夢中だったため、場所を把握できていない。
 既にマリーとの待ち合わせ時間は過ぎているし、待たせてしまっていることだろう。

 そんなことを考えていると、

「ご主人様」

「っ」

 背後から呼びかけが聞こえたので振り返る。

 するとそこにはマリーが立っていた。
 その事実に、俺は少し驚く。

「マリーか。指定した待ち合わせ場所はここではなかったよな?」

「はい。しかし時間に経ってもご主人様がいらっしゃらないので、私の方から来させていただきました」

「そうか」

 “探した”、ではなく“来させていただいた”という言葉に少し違和感を覚えたが、それ以上に気になった点があった。

「服を買ったのか」

「はい」

 マリーはフードのついた、少し大きめのコートを身に羽織っていた。

 武具店や薬屋に行っていたはずでは? と疑問を抱く俺だったが、すぐその意図に気付く。
 確かにこれだけ大きめの服装なら、懐に暗器や毒も仕込みやすいことだろう。

 感心感心。
 俺は満足げに告げる。

「ふむ、いいな。(暗殺者として)よく似合っている」

「っ! は、はい! ありがとうございます、ご主人様!」 

 パアッと、顔を輝かせて頷くマリー。

 そんなやりとりをした後、俺たちはサーディスに用意してもらった宿屋に向かうのだった。


 ◇◇◇


 翌日。
 俺とマリーは言われていた時間に王城へ向かった。

 ちなみに今はマリーも普段通り使用人用の服装だ。
 さすがに王城で暗殺を疑われたくはなかったのだろう。

 王城の前にたどり着くと、外にサーディスが立っていた。

「お待ちしておりました、レンフォード子爵」

「ああ」

 そしてサーディスの案内を受け、俺たちは王城の中を歩いていく。
 その途中、ふとサーディスが「そういえば」と話題を振ってくる。

「ローラさんたちは昨日、魔王軍幹部を封印した魔道具を提出後、王国騎士団の特訓に参加しています。お互いにとっていい刺激になっているようですね」

「そうか」

 昨日から顔を見せないと思ったら、そういうことか。
 まあ何でもいいが。

 それよりも、だ。
 王城の中に入ってから向けられる、貴族たちからの視線の方がよっぽど気になっていた。
 というのも、


「もしかして、あの方が噂のレンフォード卿か?」

「素晴らしい戦術を部下に与え、見事に魔王軍幹部を捕らえたという“あの”?」

「いや、私は単独で幹部を倒したと聞いたぞ」

「いったいどの情報が本当なんだ!?」


 彼らのそんな会話が次々と聞こえ、俺のはらわたは煮えくり返っていた。
 ここでいきなり魔術を放ったら、どれだけ愉快なことになるだろうか。

 そんなことを考えながら歩いていると、ようやく【謁見の間】に到着する。
 大きな観音開きの扉の前で立ち止まったサーディスは、マリーに視線を向けた。

「申し訳ありませんが、ここから先は子爵のみが入室を許されています。使用人の方は別室で待機してもらいます」

「わ、分かりました」

 マリーは少しだけ残念そうな表情を浮かべた後、王城に仕える使用人に案内されて別室に向かっていった。
 ここから先は俺一人だ。

「では、中にどうぞ」

「ああ」

 サーディスの案内を受け、俺は部屋の中に入っていく。
 するとその時、


「待て! なぜ奴がこんなところにいる!? どけ、私にアイツを処分させろ!」
「お待ちください! これからあのお方は陛下に――」


「……?」

 何やらつい最近、どこかで聞いた声がしたような気がしたが、まあ俺には関係ないだろう。
 そう判断し、俺は部屋の中に入っていった。


 謁見の間はとても広く、数十人は中に入れそうなほどだった。
 しかし驚くことに、現在は俺を除いて二人しかいない。

 一人は豪華そうな椅子に座る、精悍《せいかん》な顔立ちが特徴的な男性。
 名を、アルデン・フォン・ソルスティア。
 ソルスティア王国の国王であり、ゲームにも登場する重要人物だ。

(思えば、こっちの世界に来てからゲームのキャラクターと出会うのは初めてか……)

 その事実に俺は内心で感動しつつ、アルデンの前まで進み片ひざをついた。
 すると、そんな俺に対してアルデンは言葉を投げかけてくる。

「よく来てくれた、レンフォード。顔を上げよ」

「はっ」

 言われた通り顔を上げた俺は、アルデンの隣にいる人物に気付く。
 その人物もまた、『アルテナ・ファンタジア』に登場するキャラクターだった。

 ただ、疑問点が一つ。

(あれって多分、ウィンダム侯爵だよな? なんで眼帯をつけていないんだ?)

 ウィンダム侯爵は作中において、眼帯をつけた隻眼の貴族。
 だというのに、彼の両目は未だ健在。
 もしかしたら彼の目が奪われるのは、これから先なのかもしれない。

 そんなことを考えながら眉をひそめる俺を見て、アルデンは告げる。

「ふむ、どうやら我々しかいないことに驚いているようだな。普段なら他の者たちも控えているため、当然の反応であろう」

 驚いているのはそれが理由ではないのだが……
 だけど確かにそのことも気になっていた。

 ファンタジー作品においてこういった褒賞やら勲章授与やらの場合、左右にずらりと騎士やらが並んでいるイメージがあったからだ。

 すると、アルデンはすぐに答えを教えてくれる。

「今回は魔王軍幹部捕獲の他、例の件・・・についても少々尋ねたくてな。しかし、そちらに関してはあまり他の者の耳には入れたくないと思ったのだ」

「例の件……」

 言われて思い出す。
 例の件とは、俺がウィンダム侯爵に対してパーティーへの招待状(しかも紅茶の染み付き)をそのまま送り返した出来事のことだろう。
 もともとサーディスがレンフォード領にやってきたのも、その件に対して罰を与えるためだったはずだ。

 しかし、今回はあくまで幹部捕獲に対する褒賞の場。
 そんな中で俺の罪に触れるわけにはいかないと考えたのか。
 俺は別によかったのに。

「では、そろそろ本題に入るとしようか」

 そう前置きをした後、国王アルデンは改めて話し始めるのだった。
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