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第三章 冥府の大樹林編

第51話 とことん善行を施してみよう! ②

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 さらに翌日。
 ミリカトルに【特殊固定魔力砲台キャノンバレル】の大量生産を命じた後、俺はマリーと共に領都の商業ギルドにやってきていた。
 何やら俺に相談したいことがあるとのことだ。

 ちなみにミリカトルは俺の命令を聞いた後、

『こんな重労働を課せられるなど聞いておらんわ! もう帰る!!!』

 と言っていたが、【地獄のインフェルノ業火・フレイム】の発動準備を見せたらすぐに了承してくれた。
 思いやりに溢れた彼女の優しさには、俺も心から感動したものだ。

 何はともあれ現在、俺の前には商業ギルド・レンフォード支部のギルドマスターがいた。
 名前はアラケルと言うらしい。

 俺は足を組みながらアラケルに話しかける。


「それで、俺に何か相談したいことがあるんだったか?」

「ええ。ご知見のある領主様にぜひ、レンフォード領の新たな特産品を作る手助けをしていただきたく……」

「特産品?」

「はい、と言いますのも……」


 アラケルの話によるとここ最近、レンフォード領への観光客が増えつつあるらしい。
 そんな彼らにレンフォード領の魅力を伝えるため、より分かりやすいキャッチ―な商品が必要になったのだとか。
 それを聞いた俺はう~んと首を捻った。

 アラケルの話は確かに一理ある。
 しかし魔物討伐やアイテム開発ならともかく、特産品発明など俺の専門外。 
 頼られたところで、いいアイディアが出てくるとは思えない。

 俺の評判を上げるいい機会かとも思ったが、ここは残念ながら断るしか――

「――いや、待てよ」

 ここで俺は重要なことを思い出した。
 前世で『アルテナ・ファンタジア』をプレイしていた際、今回と似たようなイベントが存在していたのだ。

 イベントの名は『王都内最強パティシエ決定選手権』。
 そのイベント内で主人公陣営が開発したフィナンシェがなんと莫大な人気を博し、国内で大流行。
 結果的に大量のマネーが入手できるという、いわゆる金策用サブイベントだった。

 あのフィナンシェを開発することができれば、間違いなくレンフォード領の特産品となるはず。
 あえて問題点を挙げるとすればゲームのイベントを先に消化してしまうという部分だが、本編とは特に関係ないサブイベントだったため問題はないだろう。

 よし、そうと決まれば!


「俺に一つ案がある」

「っ! まことでございますか、領主様!?」

「ああ。すぐに我がレンフォード領にふさわしい品を用意してやるとしよう」


 アラケルにそう告げ、俺は商業ギルドを後にする。
 その後、必要な材料を全て集めてから館の調理室に戻るのだった。


 ◇◇◇


 数時間後。
 なんということか、特産品開発は難航を極めていた。

「まさか、ここまで菓子作りが厄介な代物だったとは……」

 目の前に並ぶ幾つかの失敗作を見ながら、俺は大きくため息を吐いた。

 ここまで苦戦しているのには幾つか理由がある。
 まず一つ目が、俺に菓子作りの経験がほとんどないこと。
 前世の俺は社畜だったため、そもそも料理をするような余裕がなかった。
 できたとしても買ってきた肉をただ焼くだけといった単純なもの。お菓子作りなどもっての他だ。

 そしてもう一つだが、実はこのフィナンシェ、ただのフィナンシェではない。
 この世界にしか存在しないある材料を使った特別なフィナンシェなのだ。

 その材料とはずばり、王冠蜂のクラウン・ラス終焉蜜ト・ハニー
 Aランクに指定されている魔物・王冠蜂からしか取れない高級ハチミツだ。
 通常のハチミツに比べて数十倍の風味と甘みがある代わり、扱う際は繊細な技術が必要とされている。
 そのため俺はおろか、マリーの手を借りてもなかなか良い出来にはならなかった。

「申し訳ありませんご主人様。想像以上に扱いが難しく……」

「ふむ、そうだな。さすがにこれは想定外だ」

 試作用に購入したハチミツも残りわずかになり、もう万事休すか――
 そう思いかけた、次の瞬間だった。

「どうやら、私の力が必要なようですね」

 突如として、調理室に俺やマリーのものではない声が響き渡る。
 俺はそちらに視線をやり、そして目を見開いた。

「貴様は……!」

「どうも、シェフです」

 どうもじゃねぇ。

 というツッコミはともかく、そこにいたのはレンフォード領お抱えの専属シェフだった。
 かつて俺が牢屋にぶち込んでやった相手と言えばわかりやすいだろうか。

 シェフは得意げな表情を浮かべ台座の前に立つ。
 そして、


「お見せしましょう。レンフォード家に雇われる以前、国内最高のパティシエと呼ばれていた私の腕前を!」


 そう宣言すると共に、シェフは素早い動きで生地を混ぜていく。
 俺やマリーとは比べ物にならないほど素晴らしい手さばきだった。

 数十分後、とうとう目の前に焼きあがったフィナンシェが置かれる。
 フィナンシェはなんと黄金の輝きを発していた。

 この見た目、間違いない。
 確かにゲーム内でも登場した黄金フィナンシェそのものだ!

「いや、見た目だけでは意味がない。肝心の味は……」

「わ、私も失礼します……」

 俺とマリーが同時に黄金フィナンシェを口にする。
 鼻腔を抜けるハチミツの風味、しっとりとした食感、噛み締めるごとに沸き上がってくる豊潤な甘み。
 ……これは!


「まさかこの俺が、たかだか菓子に感動する日が来るとはな」

「はい! こんなに美味しいフィナンシェ、これまで頂いたことがありません!」


 かくして、そんなよく分からない流れの中、無事にレンフォード領の特産品となる商品が出来上がったのだった。


 ◇◇◇


 レンフォード領のために働き続けて早くも一週間が経過した。
 こんなに誰かのために動いた経験など、前世を含めて一度たりとも存在しない。
 はたしてこの一週間で、どれだけ領民の信頼を得たことか。

「それに俺の予想が正しければ、そろそろ評価が反転する頃合いだな」

 そうなれば、今日まで積み重ねてきた善行の分だけ俺の評価は下がるはず。
 今から楽しみすぎて仕方がない。

「ん? これは……」

 そんなことを考えていると、突如として俺のもとに魔力でできた青色の鳥が飛んでくる。
 伝達魔術だ。なんでもたった今、王都からの派遣隊が到着したらしい。

「ちょうどいい。俺が領民から憎しみを向けられる光景を、派遣隊の者たちにも見せてやるとしよう」

 さあ、もうすぐだ。
 【特殊固定魔力砲台キャノンバレル】や黄金フィナンシェ、それ以外にも悉くの問題を解決した成果が出ているはず!

 努力は決して裏切らない!
 俺がそれを証明してみせる!

 そんな意気込みと共に、俺は「はーはっはっは!」と笑いながら颯爽と町に繰り出すのだった。





「「「領主様! ありがとうございます!!!」」」





 ……何でぇぇぇええええ!?!?!?


――――――――――――――――――――

次回! 怒涛の感謝がクラウスを襲う!?
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