つむぎのそば 〜番外編〜

別府の蕎麦屋・つむぎ庵を開いて一ヶ月。亡き父・正蔵の蕎麦を守ることに懸命だった紬は、常連の田中さんからひと言を告げられる。「蕎麦は近づいてきてる。でも、つゆが違う」
父のつゆのレシピは、誰も知らなかった。正蔵は生涯、厨房でひとりでつゆを仕込んでいた。弟子の耕二にさえ、教えなかった。
残されたのは、三十年飲み続けた田中さんの「体の記憶」だけ。
紬は田中さんの言葉を頼りに、耕二の知識を借りて、毎日つゆと向き合い始める。羅臼昆布、本枯れ鰹節、そして宗田鰹。返しを寝かせる日々。少しずつ近づいて、また遠ざかる。
誰かの体に残っていた味が、三人の間でゆっくりと形を取り戻していく。
父が言葉にしなかったものを、言葉にならないまま受け継ぐ、四話完結の番外編。
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