反芻

にっしょん

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冷房をかけていなかった

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狭いシングルベッドに並んで腰掛けている。
ローテーブルに置かれた、入れたばかりの冷たい麦茶はひと口も減っておらず、四角い氷が窮屈そうに詰められている。

心臓の音が聞こえるんじゃないかと思うくらいドキドキしている。堪らず、ケータイを見る素振りで背を向けようとした。すると私の膝をまたぐように腕が伸びる。

「キス、してもいい?」

顔を合わせられないまま、向き直る。

「うん…」

声になったかもわからない。意を決して目を瞑り顔を上げると、温かい空気を肌に感じた。ほんの一瞬、躊躇うように唇が重なる。甘酸っぱいような感覚が頭で弾ける。

「もういっかい…」

お互いの温度を探るように、額をくっつけて、少し首に角度をつける。
唇が少しだけ重なるキスを、次第にお互いの唇に吸い付くようなキスを、何度も繰り返した。
体を支えるのと逆の手が、相手の腕を探す。蜘蛛のように指を絡めあった。

ゆっくりと時間をかけて何度もキスを重ね、その拍子に一瞬だけ唇に舌が触れる。時が止まったかのようだった。目はまだ合わせられないまま、大きく一呼吸する。距離をはかるようにびくびくしながら近づけた唇に舌先を伸ばす。しっとりとした感触が舌先にあたる。
少しずつ、丁寧に舌を絡めていく。恥ずかしくて、もどかしくて、絡めた指に力が入る。舌を根本から唇で吸われ、熱が離れていく。

「いい?」

声にはせずに頭だけで頷く。
そっと押し倒され、丸い指がぎこちなくボタンを外していく。ぱさっと前が開かれ、シャツの裾から温かいものが肌を撫ぜる。そのまま背中に回され、ぱちんっと胸の締め付けがはぜた。

カップを下からまくられ、柔らかく盛り上がった肌が露わになる。両手で優しく撫ぜられ、唇と舌が這っていく。気持ちいいのかわからなかったが、こそばゆくて、好きな人に触れられている事実が身体を熱くさせた。

胸の上部、柔らかいところを強く吸われた。気持ちいいような痛いような、痕になると分かり恥ずかしくなって、両手で顔を覆った。

「隠さないで」

強くはないが、抗えない。私の両手は解かれてしまった。ぽつりと名前を呼ぶと、柔らかい唇が、私の唇を塞ぐ。とても、安心する…。

「背中見せて」

囁かれた耳が熱くなってしまう。沿わされた手に押されるようにころんとうつ伏せになる。細く白く骨の浮いた背中を軽いタッチで指が撫ぜる。こそばゆいけど気持ちいい…押し出されるように息が抜けてゆく。
そうして全身を撫ぜられるうちに、私が纏う布はなくなっていた。

「舐めてもいい?」

仰向けに毛布を握り締めながら、足を開いて応じる。形を確かめるように舌が這い、割れ目を唾液が濡らしていく。必死で声を抑えるように肩で息をする。

「我慢しなくていいのに…」

微かに笑いながら、繋いだ手にビニルの感触を感じた。

「こんなん、なっちゃった」

渡されたビニルの封を開け、上体を起こす。体を屈め、唾液が伝うようにモノを咥える。固くて太くて…これが今から、と考えるだけで身体が熱くなる。早鐘のように脈打つ心臓の音が、聞こえたりはしないだろうかと思いながら、くるくると根元まで転がす。

「できたよ」

細く伝えると、また優しく肩が押され、仰向けに倒される。唇を唇で舐めとるようなキスをじっくりと味わう。

「いれるよ」

唇が離れると、穏やかな声が脳をとろかす。今度は目を見て頷いた。
ぷつっと先がはいってくるのが分かる。そのままゆっくりと、ぐちゃぐちゃになった私の中に押し込まれてくる。押される毎に浮いた腰が高くなる。音にならない長くて途切れない喘ぎが唇から溢れていく。

根元まで深く深く刺されている。壁を確かめるように、広くはない幅で奥を擦られる。自分の中から溢れていくのが分かった。水音がどんどん大きくなる。恥ずかしくて息が上がる。
グラスの中で氷がからんと音を立てた気がした。

少しずつ、出し入れの幅が広がり、奥を突かれる間隔が短くなっていく。上がっていく息が、自分のものなのか、お互いのものなのか分からなくなってきた。溢れてびちゃびちゃに繋がっている反面、背中や首回りがじっとりと濡れてきていた。身体の芯だけでなく皮膚が熱い。

激しい快感ではない。ただじっとぐずるような、込み上げるような快感がないまぜに、下腹部をずっとくすぐっている。どれだけそうしていただろうか。頭がとろけて、仄暗い部屋の中で影が輪郭をぼやかしていく。

「そろそろ、いきそう…」

にっこりとして、目線を合わせ、両手を顎にかけて唇を引き寄せる。長く、その柔らかな唇を吸い、ゆっくりと離した。

途端に、奥の壁を勢いよく突き上げられる。急な激しい刺激に息が詰まる。太腿を両手で固定され、激しく打ち付けられ擦られ突かれる。繋がったところから水が飛び散るのが分かるほどだった。

燻っていた快感が一気に駆け昇り、頭が白くチカチカする。今まで音を忘れていたかのように声を上げなかった喉は、叫ぶほどの喘ぎ声を抑えられないでいる。

「大好きだよ…っ」

肩に手をかけられ、影が私を覆い隠す。

「好きっ、すき、…ちょ、うだいっ…」

ひときわ大きく引き抜かれ、一番深い奥まで押し込まれたそれが、中でどくどくと脈打っているのが分かった。
それまでの優しい触れ合いとはうって変わって、強く強く抱きしめられた。私も両腕を伸ばし背中に手を回して、強く抱き寄せた。触れ合う皮膚にじっとりと浮かんだ汗が滑る。

お互いに肩で息を整える傍ら、汗をかいたグラスにはもう氷は溶けてなくなっていた。
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