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とりあえず、仮の夫ということで

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 さてと、御前が場を仕切り直し、改まって、瑛を見た。ノボルはシュンと肩を落として、いじけている。

「瑛。あなたの龍姫の力を、わたくしに見せてくれるかしら」
「うん」
「では、彼ら、七姓の中で一番強いのは、誰だか分かる?」
「そんなの、トキでしょ?」

 瑛は、後ろに並ぶ彼らを振り返ることなく、答えた。

「早っ」
「速答だね」
「ですが、見事に正解です」
「そうですね」

 御前がうなずくのに、瑛はふふんと胸を張る。そんな瑛のところに、リュークが来て、じとーっとした目を向ける。

「てか、瑛。お前さー、ホントーに分かってんのかよ」
「分かってるよ。トキはズババババーンって、感じだもん」
「ズバ、ババァ?」
「ズババババーン! あれ? ちょっと待って。ジャジャジャジャーン! かな?」
「いや、分かんねぇって」

 だからーと、瑛はまず、トキを指さす。

「トキが一番。その次が、シン……じゃなくて、ちょっとだけ、メグムさんの方が強いかな? で、ガリュウで御前で、ノボル……そのあとが、リューク!」

 最後にビシっと、人差し指を向けると、ぱちくりとリュークが瞬いた。

「え? 待て待て待て待て。最後って、つまり、俺様、最弱? ノボルのじっちゃんよりも?」

 瑛はコクンとうなずいて、答える。

「最弱だね」
「マジかー!」

 リュークが頭を抱えて、天を仰ぐ。しばらくそうして黙っていたかと思えば。「いやいや、ちょっと待て」と、体を元に戻す。

「俺様って、まだまだ、成長期じゃん。つまりさ、これからズババババババーンと成長するってことだろ? よーし、今に見てろ! みんなまとめて追い抜いてやるからな! わーはっはっはっ!」

 勢いよく、こぶしを突き上げたリュークだが、ふと、こちらを見た。

「けどさー、瑛がトキを選んだってことは、つまり、それって、龍王ってことだだよなー?」

 一方、瑛は「え?」と、ノボルに顔を向ける。
 龍王ということは、つまり、それは瑛の夫と言うことだ。
 そんなの、聞いてない。ちょっと試された、くらいにしか思ってなかった。

「それなら、先に言っといてよ! そしたら、ちゃんと選んだのに!」
「姫様?」
「あたしだって、龍宮に戻って来たのは、龍王を選ぶためだって、分かってるんだからー」

 でしたらと、ノボルが言った。

「姫様は、誰を夫として、お選びになるというんですかな?」
「えっ、あー、うん……」

 ちょっと調子に乗って、言いすぎた。本当は夫だなんて、いまいち、ピンときていないのに。瑛がうなっていると、じとっとした目でノボルが見ていた。

「姫様、もしや……」
「え、あははー、分かってるよー。夫だよねー、夫」

 瑛は、順番に四人の顔を眺め、腕を組む。
 いつだったか、離宮の女官たちが結婚相手の条件で、こんなことを話していたのを思い出した。

「えーっと、いざという時に頼りになって、ぐいぐい引っ張って行ってくれて、カイショーがあって、夜は優しくて、あとは……そうそう、でも、結局、強い男が一番!」
「この中で一番強いのは、トキでしたな?」

 そういえば、そうだった。
 改めて、瑛は四人の力を測ってみる。
 トキが一〇〇〇で、メグムが八五〇、シンは八〇〇。そして、リュークは八五。やっぱり、トキが頭一つ分、抜きん出ている。
 
「じゃあ、やっぱり、トキなのかなぁ」

 そう言ったものの、瑛は「でも、」と首を傾げる。

「あたし、トキを見ても、胸がトクントクンならないし、ムラムラもしないんだけど?」
「姫様はまだ、トキのことをよく知っているわけではないじゃろ?」

 ガリュウが言って、そこへ、するりと、ノボルも加わってくる。

「つまり、胸がトクトクも、まだこれからということですな。姫様が体調を崩されて、トキとああいうことになりましたのも、きっと何かの縁にございましょう」
「振りソデが、からまり合うのも、多少の縁だっけ?」
「姫様。それを言うなら『袖、振り合うも多生の縁』ですぞ。しかし、まぁ、そういうことですな」

「じゃあ、トキが龍王ってこと?」

 ノボル、ガリュウ、御前。それぞれ、順番に顔を見れば、御前が「いいえ」と、首を振った。

「え? まだ、何かあるの?」
「瑛はまだ、トキを龍の姿に戻せないでしょう?」
「そういえば、どうやって龍にするの?」
「力を送り込むのです」

 へぇと、瑛は試しにトキの手を取る。

「えい!」

 ひとまず、ぎゅっと手を握ってみる。しばらくしても、変化がないので、瑛はさらに力を込めて、ぎりぎりと締め上げる。しかし、トキは呆れたような目で、見つめてくるだけ。

「えーと、じゃあ、こうかな?」

 トキに両手をかざしてみたり、勢いよく両手を突き出してみたり。瑛は色々と試してみたが、変化はなかった。

「全然、できないんだけど」

 そうねと、御前がうなずく。

「あなたが力を使うには、もうしばらく、時間がかかるでしょうね」
「そっか」
「だからといって、焦らなくても、いいのですよ。こればかりは、なるようにしかならないのですから」
「分かった」

 瑛は言って、再び、トキに向き直る。

「よろしく。トキ」

 改めて言うと、メグムとシンがトキの肩をポンとたたいた。
 そして。

「瑛! トキに飽きたら、いつでも俺様に乗りかえろよ! 俺様が、史上ぉー最っ強ぉーの、龍王になってやるぜ!」

 リュークがそんなことを言って、彼もまた、メグムとシンに、頭をたたかれた。
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