龍神様の泡沫調べ
誰かの声に導かれたこよみは、不思議なほど澄んだ沢に落ちた。
どこまでも深く沈んだその先は——息をのむほど美しい神域だった。
そこで出逢った龍神の『東雲』は、人間離れした美しい姿ではあるものの、額からそびえる鹿のような角は片方が折れ、片目は見えないという。
今にも消えてしまいそうな儚げな彼は、こよみを花嫁に迎えると告げながら、恐ろしい言葉を口にした。
「こよみの傍にはいられない……殺してしまうかもしれない」
それならばと現世に帰る道を探すことにしたこよみだったが、彼に日々愛しむような眼差しを向けられ、徐々に寂しさを募らせていく。
神域に居るのは様々な姿を模した精霊たちと、時々姿を消す東雲だけ。
……そのはず、だった。
美しい神域には、時折、漆黒の闇が現れる。
「あちら側に行ってはいけないよ」
そう言われて避けていた闇が、ある日突然、こよみをどこかへ引き摺り込んだ。
「お前の目には、この姿が東雲——美しい龍神に、見えるのか?」
そこにいたのは、東雲によく似た姿のもう一人の龍神だった。
『暁』と名乗る彼は、こよみに告げる。
「貴様は、俺の贄にする」
神域で花嫁に迎えられた人間×闇を抱える龍神様の、和風婚姻譚。
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