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4話(改稿、加筆済み)

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 馬車に揺られながら魔法の授業をすること八時間、ようやっと私の故郷であるロレーヌに到着した。
 中盤から授業を受けているのは少女だけでなく、一緒に乗っていた他の人たちも受け始め、ただの馬車旅だというのにとても疲れた。
 だが、授業に参加した全員が基礎的な魔法が使えるようになった時は、城で働いていた時には無かった達成感があったのは間違いない。
 
 疲れと快感のようなものが交差しながら景色のあまり変わらない懐かしい道を歩いていると、後ろから近付いて来る気配を感じ取った。
 今日で二度目の強盗か、そんな嫌な予想が脳裏を過るが、その気配の主はある程度近付くと。

「おい、エミーか?」

「えっ?」

 懐かしい呼び方をされて慌てて振り返ると、筋骨隆々で悪人面の男が嬉しそうな雰囲気を醸しつつ、驚きで目を見開いていた。
 その雰囲気で誰かは察した私は、しかし念のために。

「ええっと……どちら様ですか?」

「俺だ、クラウスだ! 幼馴染の顔を忘れたのか? 薄情だな」

 幼い頃から家が近かったがためによく一緒に遊んだ幼馴染のクラウスが、焦り散らした様子でそんな事を言う。
 
「ウソウソ、分かってたよ。でもさ……いくら何でも変わり過ぎじゃない? あの頃のひょろひょろだったクラウスはどこに行ったの?」

 そう、この幼馴染は五、六年前はひょろひょろで私よりも体が細く、近所の悪ガキによくイジメられていた。
 それが人を何人か殺してても納得するような顔をしていたらこんな反応もするだろう。
 クラウスは私の台詞に少し納得した様子で頷くと。

「そりゃあ、冒険者になって魔物と毎日殺し合いしてればこんくらい筋肉付くだろ?」

「虐殺の間違いじゃ……」

 背中からひょこりと顔を覗かせる見える大剣を使わずとも、素手で魔物を握り潰していそうだ。
 そんな失礼なことを考えているとクラウスは私の荷物をひょいと持ち上げて。

「まあ、ゆっくり歩きながら話そうや。エミーの仕事の話とか色々聞きたいしな」

「今日無職になったよ?」

「へー……は?」

 先を進もうとしたクラウスは驚いた様子で立ち止まり、私の元へ近付くと。

「もしかしてお前、やっちゃいけないことしたのか?」

「真面目に働いてたよ?」

「じゃ、じゃあなんで?」

 私は話そうとしたが、クラウスに全て打ち明けるべきなのか、という疑問が湧き出した。
 事実をそのまま伝えても私は何の損もしないが、話を聞かされる側からしたらただただ胸糞悪いだろう。
 と、何かを察した様子で私の肩に手をポンと置いたクラウスは、同情するように。

「話し難いことなら無理に話さなくていい。でも、お前の親にはしっかり話しとけよ?」

「もちろんそのつもり。クラウスには……明日話してあげるよ。聞いても損しかしないと思うけど」

「損しかしないのは考え物だが……聞かせて貰うか」

 そう言って再び歩き出したクラウスの横に並んで歩くと、何となく予想はしていたが横からの威圧感が凄まじい。
 きっとクラウスと遭遇し睨まれた魔物は例外なく失禁して硬直してしまうだろう。
 そんな光景が自然と頭の中に浮かんで来ると、クラウスがぎろりと私の事を睨んで。

「おい、お前失礼なこと考えてるだろ」

「そんなことナイヨ」

 幼馴染の事を信用出来ない様子でジト目を向けるクラウスに冷や汗が出始める。
 野生の勘なのかは知らないが、私が失礼なことを考えていると悟って来るとは驚きだ。
 私は尚もジト目を続けるクラウスに何とか話を逸らそうと話題を探し。

「そ、そうだ。よくクラウスをイジメてた奴らってどうしたの? ボコったの?」

「ああ、あいつらならお前が王都に行った数ヶ月後くらいに全員纏めて痛めつけたぞ。案外あいつら、デカいのは態度だけで大したこと無かったな」

「い、生きてるよね?」

「昨日一緒に酒飲んだぞ?」

 男はよく分からない生き物だ。なぜ虐げて来た相手と飲み仲間になれるのか、私は理解に苦しむ。
 と、そんな話をしている間に、王都へ引っ越した頃より少し汚れてしまった懐かしい実家の姿が見え始めた。
 クラウスも私の家の位置はしっかりと覚えていたらしく、それに気付いた様子で。

「もう着くな。お前がなにやらかしたのか知らんけど、ちゃんと素直に話せよ?」

「当たり前じゃん。私は嘘が苦手なの」

「だろうな」

 愉快そうに笑ったクラウスは家の前で荷物を私に渡すとその大きな手を振って去って行き、さっきまでの賑やかさが嘘だったかのように辺りが静かになったように感じる。
 後ろに佇む実家を振り返ると何だか異様に威圧感があるように感じられ、自然と緊張感が湧き上がる。

 きっと父も母も私の話す事を信じてくれるはずだ。だから緊張なんてする必要は無い。
 私は自分にそう言い聞かせてドアをノックすると、奥から返事が聞こえ、扉が開けられ。

「どちらさま……エミー? エミーなの?」

「久し振り、お母さん」

 出来るだけ自然に笑みを作ってみると、少し老けてしまったがそれでもまだ若く見える母は嬉しそうに私を抱き締める。

「本当に久しぶりね。やっと長期休暇が取れたの?」

「ううん、そうじゃないの」

 私の言葉から何か不穏な物を感じ取ったらしい母は、私の背を押すようにして一度家に上がるよう言う。
 その言葉に従って家に上がると引っ越した時とちっとも変わらないリビングでは父が仕事道具の整備をしていて。

「エミーか?! 大きくなったな!」

 たった今整備していたそれを放り投げて私の元へ駆け寄り、私の体を包み込むように抱擁する。
 私を歓迎してくれる二人に緊張感が和らいでいると、母は不安そうに私に座るよう言い、困惑した様子の父もさっきまで座っていた椅子へと戻った。
 私が小さい頃から使っていた椅子はそのままだったらしく、懐かしく思いながらそれに腰掛け。

「それじゃあ、何があったか話すね?」

 それから私の事情説明を受けた二人が他国への移住を考え始めたのは、すぐのことだった。
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