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第51話
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ぶたれた頬が痛むのか、チェスタスはぐずりながら、哀訴するように言う。
「えぇ、それじゃ、僕との婚約はどうなるの……? 付き合いが終わったら、結婚できないよ……?」
「結婚なんてするわけないでしょ! 婚約は、破棄よ破棄! 今日のうちに書類にハンコを押して、お役所に提出するわ!」
「そ、そんなぁ……僕を見捨てるのか? 僕は、きみのことが大好きなのに……」
まるでナメクジのように、私の足に縋り付くチェスタス。
その粘着質な行動に、ただでさえカッとなっていた私の頭に、ますます血が上っていく。
「足にまとわりつかないでよ! 鬱陶しい! あなたが好きなのは、私の顔と体だけでしょ!? 今すぐ離れないと、その顔、今度は蹴飛ばすわよ!」
「ひいいぃぃぃぃ……っ」
片足を振り上げ、本当にチェスタスを蹴飛ばす寸前だった私を、ナディアス王子が困り顔で諫める。
「ア、アンジェラさん。そんなことしなくても、チェスタスくんは、これから大変な罰を受けることになります。もうこれくらいにしておいてあげましょう」
「ふーっ、ふーっ、わ、わかりました。ナディアス王子がそう言うなら……」
少しだけ冷静になると、ナディアス王子の前でみっともない姿を見せたことに気がつき、少々顔が赤くなる。ナディアス王子は、へたり込んでしまったチェスタスの前で膝をつき、先程までとは違う、穏やかな表情で、諭すように言う。
「チェスタスくん。きみのこれからの人生は、これまで想像もしたことのないような苦難に満ちているでしょう。しかし、エミリーナさんと同じように、きみの人生もまた、終わったわけじゃない。……貴族に戻ることはできませんが、それでも、希望を捨てずに、人としてまっとうな日々を送れば、きっと幸せを掴むことはできるはずですよ」
「ううぅ……ナディアス王子……でも僕は、『人としてまっとうな日々を送れ』って言われても、何をしたらいいか、全然わからないんですぅ……教えてください……僕はこれから、どうすればいいんですか……?」
ナディアス王子は少し考え、ちらりと私の方を見てから、チェスタスの問いに答えた。
「まずは、女性に対する敬意と、誠実さを身に着けることです」
「けい……い……? ……敬意、ですか……?」
「そうです。わかりますか? アンジェラさんがきみを拒絶したのは、きみが、彼女と誠実に向き合わず、敬意も払わなかったからなんですよ」
「…………」
「もしもチェスタスくんが、アンジェラさんを尊敬し、純粋に愛していたとしたら、アンジェラさんもまたチェスタスくんを愛し、たとえきみが落ちぶれたとしても、婚約を破棄するようなことはしなかったでしょう」
「えぇ、それじゃ、僕との婚約はどうなるの……? 付き合いが終わったら、結婚できないよ……?」
「結婚なんてするわけないでしょ! 婚約は、破棄よ破棄! 今日のうちに書類にハンコを押して、お役所に提出するわ!」
「そ、そんなぁ……僕を見捨てるのか? 僕は、きみのことが大好きなのに……」
まるでナメクジのように、私の足に縋り付くチェスタス。
その粘着質な行動に、ただでさえカッとなっていた私の頭に、ますます血が上っていく。
「足にまとわりつかないでよ! 鬱陶しい! あなたが好きなのは、私の顔と体だけでしょ!? 今すぐ離れないと、その顔、今度は蹴飛ばすわよ!」
「ひいいぃぃぃぃ……っ」
片足を振り上げ、本当にチェスタスを蹴飛ばす寸前だった私を、ナディアス王子が困り顔で諫める。
「ア、アンジェラさん。そんなことしなくても、チェスタスくんは、これから大変な罰を受けることになります。もうこれくらいにしておいてあげましょう」
「ふーっ、ふーっ、わ、わかりました。ナディアス王子がそう言うなら……」
少しだけ冷静になると、ナディアス王子の前でみっともない姿を見せたことに気がつき、少々顔が赤くなる。ナディアス王子は、へたり込んでしまったチェスタスの前で膝をつき、先程までとは違う、穏やかな表情で、諭すように言う。
「チェスタスくん。きみのこれからの人生は、これまで想像もしたことのないような苦難に満ちているでしょう。しかし、エミリーナさんと同じように、きみの人生もまた、終わったわけじゃない。……貴族に戻ることはできませんが、それでも、希望を捨てずに、人としてまっとうな日々を送れば、きっと幸せを掴むことはできるはずですよ」
「ううぅ……ナディアス王子……でも僕は、『人としてまっとうな日々を送れ』って言われても、何をしたらいいか、全然わからないんですぅ……教えてください……僕はこれから、どうすればいいんですか……?」
ナディアス王子は少し考え、ちらりと私の方を見てから、チェスタスの問いに答えた。
「まずは、女性に対する敬意と、誠実さを身に着けることです」
「けい……い……? ……敬意、ですか……?」
「そうです。わかりますか? アンジェラさんがきみを拒絶したのは、きみが、彼女と誠実に向き合わず、敬意も払わなかったからなんですよ」
「…………」
「もしもチェスタスくんが、アンジェラさんを尊敬し、純粋に愛していたとしたら、アンジェラさんもまたチェスタスくんを愛し、たとえきみが落ちぶれたとしても、婚約を破棄するようなことはしなかったでしょう」
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