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02夏休みの出来事
バーベキュー事件03
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結城は心底悔しそうに唇を噛み締めた。頭を左右させる。
「出来ません。まだ15歳なので」
英二がペットボトルの水を浴びるように半分ほど飲んだ。
「結城、携帯は繋がらないか? 山の麓に黒服たちが待機しているはずだが」
結城は手持ちのスマホをいじくったが、すぐに首を振った。
「駄目です、圏外です」
「トランシーバーは?」
「あいにく持ってきていません」
「やれやれ、全ては俺の油断が招いた事態だ。自業自得か」
英二は目を閉じ、弾む胸をなだめようとしている。
「誰かが麓まで下りて助けを呼ぶしかないな」
ボウガンを構えた襲撃者が狙っている中を、何の盾もなく潜り抜けて行こうっていうのか?
「私が行きます」
結城が決然と宣言した。この勇ましい女傑の言葉に、しかし英二は待ったをかける。
「女一人じゃボウガン野郎に殺される可能性が高い。それに結城はメイドのエキスパートであっても、足腰は頑強じゃないからな。下りるのに時間がかかっては意味がない。……桐木、朱雀」
心底嫌そうに唇を歪めた。
「むかつくが仕方ない。お前らで山を下りて、黒服たちを呼んできてくれ」
信じられないことに、あの傲然としていた英二が俺たちへ頭を下げる。
「……頼む。今の俺ではどうにもできないんだ」
悔しげに認めた。純架はしかし、後に残される者の心配をする。
「もし暴漢がこの車内に侵入してきたらどうするつもりだい?」
「そんなことはさせません」
結城が静かに答えつつ、何か大きな器具を手にした。
「一応スタンガンを所持しています。英二様に仇なすものは、これで一撃食らわせます」
純架は踏ん切りがついたのか、大きく点頭した。
「……分かった。承知したよ、三宮君。行こう、楼路君」
俺は正直恐ろしくてちびりそうだった。生まれてこの方、こんな危険な状況に置かれたのは初めてだったからだ。本音を言えば、やば過ぎる山くだりなど敢行したくはなかった。かといってこの車に残って純架を一人で行かすのも男がすたる。
「楼路君?」
純架が首を傾けた。奈緒は即答できないでいる俺の気の迷いを勘違いしたか、俺に微笑んだ。
「私たちなら大丈夫よ。心配しないで、朱雀君」
俺の片想いの相手は、そう言って気丈なところを見せた。ちくしょう、こうなりゃやけだ。
「し、しょうがねえな。待っててくれ、飯田さん、みんな」
俺は決死の下山を決めた。膝や足の震えを気取られないようにするのが大変である。
純架は周囲をうかがいながらドアを開けた。俺は心臓が早鐘を打つのを自覚しながら、彼と共に車外へ降り立った。セミの鳴き声、肌を焦がす熱気、河から吹く涼風などが瞬時に知覚される。人の声や物音はしなかった。
「必ず助けに戻る。菅野さん、飯田さん、辰野さん、それまで二人を守っていてくれたまえ」
それだけ告げると、純架はドアを音立てて閉めた。車で来た一本道を、今度は走って引き返していく。俺も遅れじと後についていった。いつ毒矢が飛んできて自分を射殺そうとするか気が気ではなく、ただ猛然とひた走る親友の背中だけが唯一の道しるべだった。
「どうやら至近にはいないようだね」
ちょっと休もう、と言って疾走から早歩きに速度を落とし、純架は俺と並びながら崖道を進んでいた。崖はそれほど高くなく、木々が密集した坂がなだらかに続いている。落ちて死ぬことはまずないが、帰り道としては不合格だ。やはり行きの車道を戻るしかない。
昼近くになり暑熱はうだるようだ。こりゃ日焼けするな、とのん気な心配が頭の隅をよぎる。汗はだらだらとシャツの内側で滑り落ち、呼吸は全力疾走の余波で未だ鎮まらない。それは純架も同様で、白皙の顔はしとどに濡れていた。
俺は純架にせがまれ、沢渡さんが撃たれた当時の状況を事細かに説明した。純架は熱心に耳を傾け、幾度か首肯する。
「そうか、沢渡さんは『は、話が……!』と言ったんだね」
「それが何か大事なのか?」
純架は顔の汗を両手で拭った。
「とりあえず、犯人はボウガンを人へ向けて無差別に撃ちたくなった狂人、ではなさそうだね。あらかじめ僕らのスケジュールと行き先を承知して暗殺計画を立てたんだ。三宮君の命を奪おうとして、ね」
「三宮を?」
「沢渡さんを含めて7人の中で、その命に最も価値があろうと信じられるのは、三宮造船の跡取りである三宮君だけだ。彼を邪魔と考え、取り除こうとする勢力はごまんといるだろう。ただ暗殺にしては、ずいぶんずさんで下手糞に感じられるね」
確かにその通りだ。俺は首をひねり、考えをまとめようと躍起になる。
「もし犯人が爆弾を所持していて、それを車に仕掛けられたら全員一斉に殺されるぞ。犯人にしてもその方が楽なはずだ。何も余り熟達してなさそうなボウガンで仕掛けるより、ずっと効率がいい」
「爆弾があるなら僕ら全員が車から離れた隙にこっそり仕掛けるよ。で、帰り道でドカン。それなら何もボウガンを使ってまで襲う必要なんてないさ。そう、犯人が使用しているのはボウガンなんだ。拳銃じゃなくてね。暴力団のようなプロではなく、あくまで素人なんだよ、犯人は」
背後の遠くから何か低音が響いてくる。それは一瞬ごとにこちらへと近づいてきていた。
「こんな山奥の秘境にやってくるぐらいだから、犯人はバイクか車を用いているに違いない。三宮君のボディガードたちが気付いていないということは、彼らは恐らく昨夜のうちに河原に到着したのだろう、準備のいいことにね。ここから麓までは一本道だから、麓を警察に抑えられれば犯人は脱出不可能になる。僕らが通報することを犯人は恐れるはずさ。そろそろ僕らを追って現れるはずだよ……犯人が一人ではなく複数いるならね」
腹に響く音がエンジンのそれだと気がつき、背後を振り返ったときには、もう悪漢がその姿を現していた。黒い目出し帽を被った二人組が、中型バイクを乗り回しながら猛烈な勢いで接近してくる。
「死にやがれ、糞ガキどもが!」
後ろの男がボウガンの狙いをこちらにつけていた。俺はこれまた人生初といっていい深甚たる恐怖で立ちすくみ、ただ呆けたようにその切っ先を凝視する。
「危ない!」
純架が俺の胴に飛び掛かるように組み付いた。二人揃って崖へと転落する。その俺の耳ぎりぎり数センチの距離を、ボウガンの矢が空気を切り裂いて通過していった。まさに間一髪だ。
俺は純架ともつれ合いながら緩やかな坂を滑り落ちた。たちまち泥まみれになりながらも、何とか体勢を立て直してそれ以上の滑落を防ぐ。
「木の陰に隠れて、楼路君!」
俺はバランスを整えるのに苦労しながら、捻じ曲がった木を襲撃者との間に入れ込んだ。純架も同じ木に身を隠す。そのまま様子をうかがっていると、ボウガンの男が新たな先端を装填したらしい。再び鋭鋒をこちらに向けながら、言語化した殺意を投げ下ろしてきた。
「何隠れやがってんだ、殺すぞオラァ!」
どすの利いた声は俺をすくませるに十分だった。どうせ殺す気満々だろ、と俺は心の中で悪態をつく。今まで16年生きてきたが、リアルに命を狙われるなど初めての経験だ。喉をからからに干上がらせ、心臓をバクバク言わせながら、俺は周辺に武器になりそうなものがないかと見回した。そのとき、自分のポケットに重みがあることに気がつく。河で拾った丸石だ。
純架がそれを見てにやりと笑った。
「さて楼路君、こんな危機の場合、君だったらどうするね? ネズミのように隠れて震えるかね?」
究極の状況の中、俺は彼の挑発に負けてはならないような気がして、一つ溜め息をつく。震えを押し殺して懸命に応じた。
「冗談。反撃するさ」
純架が不敵で不遜な微笑を閃かせる。良くぞ言った、ということなのだろう。
「僕が連中の気を引く。君はその隙をうかがいたまえ」
純架は「Y! M! C! A!」と人文字を作った。
準備体操なのか?
「いくよ」
純架が木陰から飛び出し、少し離れた別の幹へ突っ走った。ボウガン男がそちらへ狙いを定める。俺は大きく振りかぶると、注意のそれた頭上の敵へ、弾丸代わりの小石を投げつけた。それは俺と純架、二人分の命を背負って宙を飛翔する。
「ぎゃあっ!」
石つぶては狙いあやまたず、ボウガン男の鼻っ柱を砂糖の塔のように粉砕した。手から離れた射撃武器が意思を持ったかのようにこちらへ転がり落ちてくる。俺はすかさず手中に収めると、純架と共に崖を這い上がった。
「ひいっ」
俺のボウガンの切っ先に、運転手の男が腰を抜かしておののく。もう一方の男は鼻を押さえてのた打ち回っていた。形勢逆転だ。俺はボウガンの照準をピタリと合わせて生殺与奪の権利に酔いしれた。
男はどちらも目出し帽を被っているが、低い声と剥き出しの腕の肌艶からして30代か40代辺りだろうと推測される。この暑いのにご苦労なことだ。
すっかり泥だらけになった純架が、埃をはたき落としながら尋ねる。
「君たちは何者だ? 誰に頼まれたんだ?」
襲撃者二人は顔を見合わせた。俺は怒声を吐き付ける。
「言わなきゃこのボウガンが黙ってないぞ。とりあえずマスクを脱いでもらおうか」
冷静に考えれば、ボウガンにつがえられた矢はたった一本であり、連射は出来ない。その気になれば、男たちの一方が犠牲となって、俺たちに襲い掛かることも出来ただろう。だが彼らにそんな度胸はないようだった。
「出来ません。まだ15歳なので」
英二がペットボトルの水を浴びるように半分ほど飲んだ。
「結城、携帯は繋がらないか? 山の麓に黒服たちが待機しているはずだが」
結城は手持ちのスマホをいじくったが、すぐに首を振った。
「駄目です、圏外です」
「トランシーバーは?」
「あいにく持ってきていません」
「やれやれ、全ては俺の油断が招いた事態だ。自業自得か」
英二は目を閉じ、弾む胸をなだめようとしている。
「誰かが麓まで下りて助けを呼ぶしかないな」
ボウガンを構えた襲撃者が狙っている中を、何の盾もなく潜り抜けて行こうっていうのか?
「私が行きます」
結城が決然と宣言した。この勇ましい女傑の言葉に、しかし英二は待ったをかける。
「女一人じゃボウガン野郎に殺される可能性が高い。それに結城はメイドのエキスパートであっても、足腰は頑強じゃないからな。下りるのに時間がかかっては意味がない。……桐木、朱雀」
心底嫌そうに唇を歪めた。
「むかつくが仕方ない。お前らで山を下りて、黒服たちを呼んできてくれ」
信じられないことに、あの傲然としていた英二が俺たちへ頭を下げる。
「……頼む。今の俺ではどうにもできないんだ」
悔しげに認めた。純架はしかし、後に残される者の心配をする。
「もし暴漢がこの車内に侵入してきたらどうするつもりだい?」
「そんなことはさせません」
結城が静かに答えつつ、何か大きな器具を手にした。
「一応スタンガンを所持しています。英二様に仇なすものは、これで一撃食らわせます」
純架は踏ん切りがついたのか、大きく点頭した。
「……分かった。承知したよ、三宮君。行こう、楼路君」
俺は正直恐ろしくてちびりそうだった。生まれてこの方、こんな危険な状況に置かれたのは初めてだったからだ。本音を言えば、やば過ぎる山くだりなど敢行したくはなかった。かといってこの車に残って純架を一人で行かすのも男がすたる。
「楼路君?」
純架が首を傾けた。奈緒は即答できないでいる俺の気の迷いを勘違いしたか、俺に微笑んだ。
「私たちなら大丈夫よ。心配しないで、朱雀君」
俺の片想いの相手は、そう言って気丈なところを見せた。ちくしょう、こうなりゃやけだ。
「し、しょうがねえな。待っててくれ、飯田さん、みんな」
俺は決死の下山を決めた。膝や足の震えを気取られないようにするのが大変である。
純架は周囲をうかがいながらドアを開けた。俺は心臓が早鐘を打つのを自覚しながら、彼と共に車外へ降り立った。セミの鳴き声、肌を焦がす熱気、河から吹く涼風などが瞬時に知覚される。人の声や物音はしなかった。
「必ず助けに戻る。菅野さん、飯田さん、辰野さん、それまで二人を守っていてくれたまえ」
それだけ告げると、純架はドアを音立てて閉めた。車で来た一本道を、今度は走って引き返していく。俺も遅れじと後についていった。いつ毒矢が飛んできて自分を射殺そうとするか気が気ではなく、ただ猛然とひた走る親友の背中だけが唯一の道しるべだった。
「どうやら至近にはいないようだね」
ちょっと休もう、と言って疾走から早歩きに速度を落とし、純架は俺と並びながら崖道を進んでいた。崖はそれほど高くなく、木々が密集した坂がなだらかに続いている。落ちて死ぬことはまずないが、帰り道としては不合格だ。やはり行きの車道を戻るしかない。
昼近くになり暑熱はうだるようだ。こりゃ日焼けするな、とのん気な心配が頭の隅をよぎる。汗はだらだらとシャツの内側で滑り落ち、呼吸は全力疾走の余波で未だ鎮まらない。それは純架も同様で、白皙の顔はしとどに濡れていた。
俺は純架にせがまれ、沢渡さんが撃たれた当時の状況を事細かに説明した。純架は熱心に耳を傾け、幾度か首肯する。
「そうか、沢渡さんは『は、話が……!』と言ったんだね」
「それが何か大事なのか?」
純架は顔の汗を両手で拭った。
「とりあえず、犯人はボウガンを人へ向けて無差別に撃ちたくなった狂人、ではなさそうだね。あらかじめ僕らのスケジュールと行き先を承知して暗殺計画を立てたんだ。三宮君の命を奪おうとして、ね」
「三宮を?」
「沢渡さんを含めて7人の中で、その命に最も価値があろうと信じられるのは、三宮造船の跡取りである三宮君だけだ。彼を邪魔と考え、取り除こうとする勢力はごまんといるだろう。ただ暗殺にしては、ずいぶんずさんで下手糞に感じられるね」
確かにその通りだ。俺は首をひねり、考えをまとめようと躍起になる。
「もし犯人が爆弾を所持していて、それを車に仕掛けられたら全員一斉に殺されるぞ。犯人にしてもその方が楽なはずだ。何も余り熟達してなさそうなボウガンで仕掛けるより、ずっと効率がいい」
「爆弾があるなら僕ら全員が車から離れた隙にこっそり仕掛けるよ。で、帰り道でドカン。それなら何もボウガンを使ってまで襲う必要なんてないさ。そう、犯人が使用しているのはボウガンなんだ。拳銃じゃなくてね。暴力団のようなプロではなく、あくまで素人なんだよ、犯人は」
背後の遠くから何か低音が響いてくる。それは一瞬ごとにこちらへと近づいてきていた。
「こんな山奥の秘境にやってくるぐらいだから、犯人はバイクか車を用いているに違いない。三宮君のボディガードたちが気付いていないということは、彼らは恐らく昨夜のうちに河原に到着したのだろう、準備のいいことにね。ここから麓までは一本道だから、麓を警察に抑えられれば犯人は脱出不可能になる。僕らが通報することを犯人は恐れるはずさ。そろそろ僕らを追って現れるはずだよ……犯人が一人ではなく複数いるならね」
腹に響く音がエンジンのそれだと気がつき、背後を振り返ったときには、もう悪漢がその姿を現していた。黒い目出し帽を被った二人組が、中型バイクを乗り回しながら猛烈な勢いで接近してくる。
「死にやがれ、糞ガキどもが!」
後ろの男がボウガンの狙いをこちらにつけていた。俺はこれまた人生初といっていい深甚たる恐怖で立ちすくみ、ただ呆けたようにその切っ先を凝視する。
「危ない!」
純架が俺の胴に飛び掛かるように組み付いた。二人揃って崖へと転落する。その俺の耳ぎりぎり数センチの距離を、ボウガンの矢が空気を切り裂いて通過していった。まさに間一髪だ。
俺は純架ともつれ合いながら緩やかな坂を滑り落ちた。たちまち泥まみれになりながらも、何とか体勢を立て直してそれ以上の滑落を防ぐ。
「木の陰に隠れて、楼路君!」
俺はバランスを整えるのに苦労しながら、捻じ曲がった木を襲撃者との間に入れ込んだ。純架も同じ木に身を隠す。そのまま様子をうかがっていると、ボウガンの男が新たな先端を装填したらしい。再び鋭鋒をこちらに向けながら、言語化した殺意を投げ下ろしてきた。
「何隠れやがってんだ、殺すぞオラァ!」
どすの利いた声は俺をすくませるに十分だった。どうせ殺す気満々だろ、と俺は心の中で悪態をつく。今まで16年生きてきたが、リアルに命を狙われるなど初めての経験だ。喉をからからに干上がらせ、心臓をバクバク言わせながら、俺は周辺に武器になりそうなものがないかと見回した。そのとき、自分のポケットに重みがあることに気がつく。河で拾った丸石だ。
純架がそれを見てにやりと笑った。
「さて楼路君、こんな危機の場合、君だったらどうするね? ネズミのように隠れて震えるかね?」
究極の状況の中、俺は彼の挑発に負けてはならないような気がして、一つ溜め息をつく。震えを押し殺して懸命に応じた。
「冗談。反撃するさ」
純架が不敵で不遜な微笑を閃かせる。良くぞ言った、ということなのだろう。
「僕が連中の気を引く。君はその隙をうかがいたまえ」
純架は「Y! M! C! A!」と人文字を作った。
準備体操なのか?
「いくよ」
純架が木陰から飛び出し、少し離れた別の幹へ突っ走った。ボウガン男がそちらへ狙いを定める。俺は大きく振りかぶると、注意のそれた頭上の敵へ、弾丸代わりの小石を投げつけた。それは俺と純架、二人分の命を背負って宙を飛翔する。
「ぎゃあっ!」
石つぶては狙いあやまたず、ボウガン男の鼻っ柱を砂糖の塔のように粉砕した。手から離れた射撃武器が意思を持ったかのようにこちらへ転がり落ちてくる。俺はすかさず手中に収めると、純架と共に崖を這い上がった。
「ひいっ」
俺のボウガンの切っ先に、運転手の男が腰を抜かしておののく。もう一方の男は鼻を押さえてのた打ち回っていた。形勢逆転だ。俺はボウガンの照準をピタリと合わせて生殺与奪の権利に酔いしれた。
男はどちらも目出し帽を被っているが、低い声と剥き出しの腕の肌艶からして30代か40代辺りだろうと推測される。この暑いのにご苦労なことだ。
すっかり泥だらけになった純架が、埃をはたき落としながら尋ねる。
「君たちは何者だ? 誰に頼まれたんだ?」
襲撃者二人は顔を見合わせた。俺は怒声を吐き付ける。
「言わなきゃこのボウガンが黙ってないぞ。とりあえずマスクを脱いでもらおうか」
冷静に考えれば、ボウガンにつがえられた矢はたった一本であり、連射は出来ない。その気になれば、男たちの一方が犠牲となって、俺たちに襲い掛かることも出来ただろう。だが彼らにそんな度胸はないようだった。
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