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第三章 恋文と怪文書

17 お洒落計画

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「そりゃあね、オレとしちゃあ、お嬢のお供は歓迎ですよ。ただねえ……」

「ただ?」

 みゆきは怪訝に思って六朗を見上げる。

 ナオと話し合った次の休日、みゆきは早速六朗を誘った。
 貴明は『知り合いのところへ行かねばならない』と出かけたところだったから、ちょうどいいと思ったのだ。

 二人がやってきたのは、帝城からもほど近い目抜き通り。
 左右には新旧の店が入り交じり、色とりどりの看板を出して立ち並んでいる。
 派手な看板にもまったく負けない柄物の羽織姿の六朗は、うーん、と額を押さえたのち、やけっぱちのように笑った。

「……まっ、景気よくぱーっと買いましょうか‼」

(これは何か、隠していることがあるわね)

 ぴんときたみゆきは、少々お姉さんぶって言う。

「何か引っかかりがあるなら、ちゃんと言うのよ、六朗」

「何もねーです。何ひとつねーですから、ねっ!」

「じゃあ、言いたくなったら聞かせてね。私たち、家族なんだから」

 心の底から、みゆきは言う。
 貴明と六朗は陰と陽ほど性格も見た目も違うが、みゆきにとってはどちらも大切な存在だ。

「んー」

 六朗は即答せず、困ったように眉を寄せた。
 そのままひょいっと最新式の商品陳列棚を眺め、ことさら明るい声を出す。

「おっ、きれいなかんざしだなあ。こういうのはどうです、お嬢」

 六朗の隣でのぞきこむと、分厚いガラスの向こうで白い花と松枝のかんざしがきらきらと光っている。
 花は白蝶貝、松の枝には小粒の真珠があしらわれているようだ。

「きれい! だけど、贅沢すぎるかな……」

 むむむ、と眉間に皺を寄せていると、六朗は小さく肩をすくめる。

「親父は嫌とはいわねぇと思いますが」

「そうね。きっとそう。お父さまはずーっと、ほっとくと無一文になりそうなくらい気風がいいから。奢るし、振る舞うし、宵越しの銭は持たねえ! が口癖だし。だけどねえ、組だって無一文じゃどうにも立ちゆかないのよ……‼」

 語るうちに、ぐぐぐっと拳に力が入ってしまう。
 もちろん父のことは愛しているけれど、だからこそ心配なこともある。
 六朗はそんなみゆきを眺め、懐かしそうに笑う。

「お嬢は、小さいころからそうでしたね。姐さんみたいな振る舞いだった」

「えっ。私、そんなに偉そうだった……?」

「偉そうってんじゃありません。肩肘張ってたって感じですかね?」

「そう……」

 みゆきは少々複雑な気持ちになった。
 母がいないからといって、母の代わりなんかできないのはわかっている。
 わかっているけれど、自然と出過ぎていたのだろうか。

「……貴が、あんたを外に連れ出してくれそうで、俺はほっとしましたよ」

 ぽろり、と言われ、みゆきは顔を跳ね上げた。

「六朗」

 名を呼んで、六朗の顔をしげしげと見る。
 六朗はしれっとした横顔をさらし、かんざしを見つめてつぶやく。

「幸せになって欲しいですねえ、お嬢には」

(なんだろう。今日の六朗は、遠い)

 いつもはものすごく身近にいると思っていたのに、今日はひどく遠い。

 今までと何が変わったのだろう、と考えて浮かぶのは、結婚のことだ。
 結婚したからには六朗は実家のひとで、自分の家族とは違う存在になるのか。

(だとしたら、受け入れなくては)

 どれだけ切なくても、それが世の道理なのだから。
 みゆきは、なるべく明るく笑って言う。

「なるわ。きっとなれる」

 六朗は小さく笑って、やっとみゆきと視線を合わせてくれた。

「信じてますよ」

「六朗も、きっと幸せになってね」

「もちろんです。組のほうは、俺に任せて下さい!」

 軽やかに言って力こぶを作って見せた六朗は、みゆきの知るいつもの六朗だ。
 みゆきはしみじみと笑って言う。

「ありがとう、六朗」

「いえいえ。ってことで、かんざし! やっぱり、いっぺん手に取ってみましょうよ!」

「え? でも……」

 やっぱり派手すぎる気がする、と言おうとしたのに、六朗はもう暖簾をくぐっている。

「邪魔するよっ!」

(ど、どうしよう。店に入っちゃったら、なし崩しで買ってしまいそう……!)

 お金の問題もあるし、そもそも貴明は、ああいった飾り物が好きなのだろうか。
 まずはそこを熟考したい。

(貴明さんの好きなもの。好きなもの……)

 みゆきがしばし考えこんでいると、不意に後ろから声がかかった。
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