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第五章 幸せの刻限

37 愛の巣【2】♥

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「う、うぅっ……」

 みゆきは玄関の床にしがみつくようにして、切なく身もだえる。
 この体は、もうこの後に起きることを知っている。
 敏感な場所を何度も擦られて、こねられて、達する快感を知っている。

 知っているから、我慢ができない。
 心がどれだけ恥ずかしがっても、体は勝手に貴明のことをぎゅうぎゅうと締め付け、ほしい、ほしいといってうねり出す。
 貴明はそんなみゆきの尻を掴んで、少々つらそうに目を細めた。

「えらいな……俺のための体になった。みゆきは、かわいい」

「ひぅ……っ!」

 甘く蕩けた声と共に尻をぐにぐにと揉みこまれると、それだけで全身を快感が貫く。
 びくびくと体を震わせながら、みゆきは朦朧と思う。

(気持ちいい、けれど……どうしよう、また、このまま、動いてくれなかったら。また、昨晩のようにされてしまったら)

 繋がったまま穏やかに世間話を語られ、ゆるゆると煙草などふかされた昨日の記憶が蘇ると、ぞわぞわと狂乱に近い恐怖がわき上がってきた。
 またあんなことをされたら、耐えられない。今度こそおかしくなる。
 みゆきは桜の花びらのような爪で床をかきむしるようにして、懸命に訴えた。

「お願い……です、後生ですから、たかあき、さ……んっ……!」

「なんのお願いだろう。なんでも、聞いてあげる」

「う、動いて、ください……おねがい、昨晩のような、あんなこと、なさらないで……」

 震え声で告げたみゆきに同情したのか、貴明は少し悲しげなため息を吐く。
 そうしてみゆきの腰を抱き、背中にそっと額をつけた。

「かわいそうなみゆき……昨晩は、ずいぶんとつらかったんだね。すまない。少しでも長く、あなたを感じていたくて。無茶ばかりさせてしまう」

(ああ……貴明さんに、謝らせてしまった)

 貴明の謝罪にほっとしつつも、みゆきの心は痛んでしまう。

 貴明と少しでも長く一緒にいたいのは、みゆきだって一緒だ。
 どこまでもどこまでも近い場所で、薄い皮膚だけを境にして交わっていたい。
 いつかほんとうにどろどろと蕩けて一緒のものになってしまえば、たとえ死神だって二人を別つことはできなくなるのではないだろうか。
 そう思うと感極まってしまって、みゆきは懸命に首を横に振った。

「いいんです。いいんです、無茶は、いたします。いくらでも」

「泣かないで。大丈夫、気持ちよくなるから」

 貴明はあやすように言って、自身を埋め込んだみゆきの腹を外から撫でる。
 そうして指先で、秘所の端をつついた。

「ひゃ!」

 刺激に硬くなり始めた花芽に貴明の指先が触れ、みゆきはあられもない声を出す。
 貴明はすぐに自分の手を引くと、みゆきの手を掴んだ。

「あなたが、嫌というまで動いてあげる。あなたも、自分のいいところに触れてごらん。どれだけ上手にできるようになったか、俺に見せて」

「は……い」

 貴明がそうしろというのだ。そうしさえすれば、動いてくれるというのだ。
 だったら断る理由などない。みゆきは体をわずかにひねって、淡い下生えの先に触れる。
 感覚の凝った花芽におそるおそる触ると、ぴりりと快感が走った。

「ひぅっ!」

 鋭すぎる快感からとっさに逃げたくなってしまい、指が離れそうになる。
 そこへ貴明が覆い被さるようにして言葉を落とした。

「止めないで。ゆっくりこねて、もんで……気持ちいいように、続けて」

「あ、ぁ、ぁう……っ」

 逃げられない。
 貴明の優しい声と、つめたい指先から逃げられない。
 囲われて、閉じこめられて、どうにもならない。
 そのことがじわじわと甘さに変わって体に染みてきて、みゆきは自分の指にぎゅうっと力をこめた。

(あ、くる)

 度を超した快感が体を貫き、ぱんぱんに溜まっていく。
 あと、ほんのすこしで快感が決壊するのがわかる。あと一押しで……。
 みゆきの指がためらった次の瞬間、貴明がずるりと自身を引きずり出した。

「ひ」

 息を呑む刺激が与えられた喜びと、このまま出て行かれてしまうのではないかという恐れ。みゆきの中で、二つの感情が入り交じる。
 貴明は抜けてしまうぎりぎりまで腰を引いてから、再び半ばまで押しこんだ。
 もう一度引き、また半ばまで入れる。
 そうやって、みゆきになぶらせている花芽のちょうど裏を、こそげるように責める。

「あ、あ――……ぁッ!!」

 内からと中から、もっとも敏感な場所を押しつぶし、擦られ、めちゃくちゃにされては、みゆきは少しももたなかった。何度目かであえなく快感がぱんっと弾け、目の前が真っ白になる。
 息をすることもできず、体は度を超した快感に耐えようとこわばっている。
 自分が震えているのがわかるが、それを制御する方法はない。

(きもち、い……い、きもちいい、きもち、いい)

 頭の中はそればかりになってしまい、他のことがどうにも入ってこない。
 派手に達してしまったのだとわかっただろうに、貴明は腰を止めてはくれなかった。
 丁寧に同じ場所を責めさいなまれ、一回初めてからっぽになった快感が、あっという間に溜まっていく。

「く、うぅ……ッ、あっ、あっ、また……!」

 快感から降りきれないままに、二度目、三度目の軽い絶頂が訪れた。
 こうなるともう完全に頭の中までどろどろになってしまう。
 ただ快感に翻弄されるだけのものとなったみゆきを相手に、貴明は重いため息を吐いてつぶやく。

「中が痙攣して、俺を抱きしめてくる……とんでもなく気持ちいいよ、みゆき。がんばって、えらいね」

(ほめられてる……うれしい、すき……)

 すき、だけが頭を満たして、体を満たして、そこにとどめておくのすら難しくて、みゆきはか細い声で訴えた。

「たか、あき、さ……ッ! す、すきぃ……」

「……っ」

 切羽詰まった気配がして、ずるん、と貴明が抜けていく。
 間をおかずに、尻にぬるついた液体がぶちまけられたのがわかった。

(あ……なん、で)

 なぜ、中にくれなかったのだろう。
 みゆきの心と体は寂しさに震え、すっかりぬかるんだ秘花は物欲しげにひくついた。
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