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ミス・メラニーはお見通し

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 アークライト邸に戻るなり、アリアは屋敷には入らず、そのまま向かわなければならない場所があった。
「こんなことだと思ったわ」
 門前で別れたはずのメラニーが、何故かまだ門の前で仁王立ちしていた。彼女は帰ったふりをして、引き返して来たのだ。
「どこに行くつもり? 」
 膨れっ面でメラニーが問い詰めてきた。
「あなたを巻き込めないわ」
 アリアは馬車を降りるなり、もじもじと手を擦り合わせた。 
 すっかり見透かされている。
 夫のこととなれば物怖じしないアリアが大人しく引き下がったことで、ずっと不審を抱いていたらしい。
「今更? 」
 腕組みし、呆れたようにアリアを見下ろす。
「あなたは、屋敷に戻りなさい」
 メラニーがアークライト家の御者に命じる。圧に負けて御者は主人を差し置いて他家に素直に従った。
「勝手なことしないで」
 くるりと進路変更をし、屋敷の厩舎へと戻っていく馬車に、アリアは恨めしげに唇を噛んだ。
 メラニーの鋭い目つきには、畏怖さえ感じる。
「時間がないの」
 こうなったら、馬が駄目なら歩いて行くしかない。
「どこに行くつもり? 」
 メラニーの脇を通り過ぎようとしたら、物凄い力で腕を掴まれ引かれる。勢いで体がぐらつく。
「友人のエマリーヌの家よ」
「何故、今? 」
「彼女の家は、情報収集に長けているの。何かわかればと」
「それなら、私も行くわ」
 きっぱりとメラニーが言った。
 離れた場所には、黒のラッカー塗りの真新しい二頭立て馬車が控えている。荷物入れには、この国のものではない二重丸が描かれていた。
 この国の貴族は紋章に花を使う。 
 即ち、ガルシア家が所有者だ。
「あなたを巻き込めないわ、ミス・メラニー」
「平気よ」
「根拠もないのに。よく言えたものね」
「あなたがラードナーホテルを訪ねた時点で、巻き込まれたもんだわ」
 言うなり、メラニーは馬車にアリアを押し込んだ。 
 アリアの断りなどハナから聞く気はない。
 すっかりお腹がせり出したせいで、車内は窮屈極まりない。
 だが、メラニーは文句も言わず、身を縮めてお行儀良くしている。大股開きで寛ぎそうなものだが。
 車内は快適になるよう配慮されており、羽毛のクッションが幾つも積み込まれ、敷かれた 天鵞絨ビロードは柔らかく心地良い。
「で、何を調べるつもり? 」
 メラニーは膝に手を置き、足を閉じた堅苦しい恰好のまま、問いかけてきた。
「ピストルの持ち主。それから、私を付け狙っていた雑誌記者風の男」
「幾ら何でも、一介の男爵令嬢が知るわけないわ」
「可能性は捨てたくないの」
 最早、ほんの僅かな情報さえ必要だ。
 警察も駆けずり回っているが、未だにケイムの行方は掴めない。
 むしろ「嫌われ者の警察」に、口を閉ざしている向きもある。警察は社会に閉鎖的な連中を主に聞き込みしている。余計なことを口走れば、逆にお縄にかかる可能性もあるのだ。黙んまりを決め込む者が大半だ。


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