16 / 18
16 無責任な正義感
しおりを挟む
先日のリネット様の件で、ブライアンは直ぐに領地にいる両親に連絡を取った。
私も両親に連絡をして、アルバーン子爵家は両家から正式に抗議された。
リネット様が戻っていたにも関わらず、コールリッジ侯爵家にもベニントン伯爵家にも報告をせず、彼女に制裁も加えず野放しにしていた。
その結果、リネット様が私に無礼な行いをしたのだから、抗議されるのは当然である。
リネット様は、自邸で謹慎させられているらしい。
当然外出は禁止されている。
随分と甘い処分だが、不快な思いはしたものの危害を加えられた訳では無い。
駆け落ちの件は既に慰謝料で和解が成立している為、あくまでも今回の突撃訪問の件での処分なので、この程度が妥当なのかも知れない。
これで暫くは穏やかに過ごせそうだが、先日話した印象だと彼女は諦めが悪そうなので少し心配だ。
「ところで、何故、リネット様はブライアンでは無く私に会いに来たのかしら?」
「俺とリネットはずっと仲が悪かったから、俺に交渉しても無駄だと思って、外堀から埋めようとしたんじゃないでしょうか」
社交界では、ブライアン達は相思相愛であると言われていたので、結婚当初は私は『二人の仲を引き裂いた悪女』とか陰で言われていた。
だから、私が自ら身を引く様に仕向けて離婚させ、世間の噂を利用すればブライアンの後妻に収まる事が出来ると考えたのだろうか。
「でも、本当に仲が悪かったの?
ブライアンは夜会などではリネット様の側を離れなかったって噂だけど・・・」
「それは本当ですが、好きで側にいた訳ではありません。
あんな礼儀作法がなっていない女を放置出来ませんよ。
問題を起こされたら、彼女だけでなく、婚約者だった俺やベニントン伯爵家にとっても醜聞になりますから」
苦々しい表情で語るブライアンに少し同情した。
恋慕からでは無く、監視の意味で側に侍っていたのか。
最初の頃にそう言われても、もしかしたら信じられなかったかも知れないが、彼女と直接会話をした後なので、それが真実だとよく理解出来る。
「ブライアンも大変だったのね。
彼女、このまま大人しくしてくれると良いんだけど」
「引き続き警戒が必要ですね。
次に問題を起こせば、戒律の厳しい修道院に入れさせますよ」
───この会話がフラグになるなんて、その時は思いもしなかった。
その日は、とある侯爵家の夜会に招待されていた。
早い時間から侍女に囲まれて身支度を整えた私は、グリーンのドレスを着て、プラチナ台にエメラルドのアクセサリーを身に付けている。
全身ブライアンの色を身に纏って彼のエスコートを受けるのは初めての事だ。
「ああ、凄く似合っています。
やっと、アイリスが俺の妻になってくれたんだって実感出来ました。
本当に嬉しい」
「これまでブライアンは私に自分の色の物を贈ってくれなかったけど、私にはグリーンが似合わないと思っていたんじゃ無いの?」
「いいえ。
でも、貴女にとってグリーンとシルバーは兄上の色なのだと思っていたので・・・」
チャールズとブライアンの髪と瞳の色は同じだ。
だから、チャールズと婚約していた時も、私はグリーンとシルバーの服や小物をよく身に付けていた。
想いを伝え合って、私がまだチャールズを想っているという誤解が解けた今だからこそ、自分の色を贈ってくれたって事か。
着飾った私を見つめるブライアンは、いつにも増して上機嫌だ。
盛大に熱を帯びた瞳で両手を広げてハグを求められたが、慌ててそれを制する。
「待って。ハグはダメ。
せっかくのドレスが着崩れちゃう。
勿論、キスも、今はダメよ。
お化粧が取れるから」
スキンシップを断ると、捨てられた仔犬の様に悲しそうな顔をされてしまった。
(・・・可愛いわね)
こんなにも表情豊かに愛情を示してくれているのに、この人の愛情を偽りの物だと思っていたなんて信じられない。
それ程までに、自分に自信を無くしていたのだろう。
ブライアンはハグの代わりに、私の手を取って指先にキスをした。
「そろそろ行きましょうか。
俺の色を纏った貴女を、見せびらかしたい」
侯爵邸に到着すると、既に沢山の招待客で賑わっていた。
主催の侯爵家の夫人を見付けたので、先ずはご挨拶をと近付く。
「本日はお招き頂きまして有難うございます。
とても素敵な夜会ですね」
「お褒めに預かり光栄ですわ。
是非楽しんで下さいませ」
夫人は私にチラッと冷たい視線を投げると、キラキラした目でブライアンを見た。
(んんっ?なんか嫌な予感)
「・・・ねぇ、お二人はとても仲睦まじく見せておいでですけれど、本当の所はどうなのかしら?」
「どういう意味ですか?」
ブライアンは少し剣呑な空気を醸し出す。
「いえね、実はわたくしリネットさんからお手紙を頂きましたの。
なんでも、愛し合っている婚約者と小さな誤解から別れる事になってしまって、悲しみに打ちひしがれているって・・・」
ああ、成る程。
この侯爵夫人は悪い人ではないのだが、恋愛小説や舞台が大好きで、いつまでも夢見る乙女の様な人だと聞いた事がある。
リネット様からの手紙を読んで、彼女を悲恋の物語の主人公だと思い込んでいるのだろう。
現実とフィクションの区別が付いていないのだ。
「だから、貴方達には話し合う機会が必要なんじゃないかと思って───」
益々嫌な予感!!!
私も両親に連絡をして、アルバーン子爵家は両家から正式に抗議された。
リネット様が戻っていたにも関わらず、コールリッジ侯爵家にもベニントン伯爵家にも報告をせず、彼女に制裁も加えず野放しにしていた。
その結果、リネット様が私に無礼な行いをしたのだから、抗議されるのは当然である。
リネット様は、自邸で謹慎させられているらしい。
当然外出は禁止されている。
随分と甘い処分だが、不快な思いはしたものの危害を加えられた訳では無い。
駆け落ちの件は既に慰謝料で和解が成立している為、あくまでも今回の突撃訪問の件での処分なので、この程度が妥当なのかも知れない。
これで暫くは穏やかに過ごせそうだが、先日話した印象だと彼女は諦めが悪そうなので少し心配だ。
「ところで、何故、リネット様はブライアンでは無く私に会いに来たのかしら?」
「俺とリネットはずっと仲が悪かったから、俺に交渉しても無駄だと思って、外堀から埋めようとしたんじゃないでしょうか」
社交界では、ブライアン達は相思相愛であると言われていたので、結婚当初は私は『二人の仲を引き裂いた悪女』とか陰で言われていた。
だから、私が自ら身を引く様に仕向けて離婚させ、世間の噂を利用すればブライアンの後妻に収まる事が出来ると考えたのだろうか。
「でも、本当に仲が悪かったの?
ブライアンは夜会などではリネット様の側を離れなかったって噂だけど・・・」
「それは本当ですが、好きで側にいた訳ではありません。
あんな礼儀作法がなっていない女を放置出来ませんよ。
問題を起こされたら、彼女だけでなく、婚約者だった俺やベニントン伯爵家にとっても醜聞になりますから」
苦々しい表情で語るブライアンに少し同情した。
恋慕からでは無く、監視の意味で側に侍っていたのか。
最初の頃にそう言われても、もしかしたら信じられなかったかも知れないが、彼女と直接会話をした後なので、それが真実だとよく理解出来る。
「ブライアンも大変だったのね。
彼女、このまま大人しくしてくれると良いんだけど」
「引き続き警戒が必要ですね。
次に問題を起こせば、戒律の厳しい修道院に入れさせますよ」
───この会話がフラグになるなんて、その時は思いもしなかった。
その日は、とある侯爵家の夜会に招待されていた。
早い時間から侍女に囲まれて身支度を整えた私は、グリーンのドレスを着て、プラチナ台にエメラルドのアクセサリーを身に付けている。
全身ブライアンの色を身に纏って彼のエスコートを受けるのは初めての事だ。
「ああ、凄く似合っています。
やっと、アイリスが俺の妻になってくれたんだって実感出来ました。
本当に嬉しい」
「これまでブライアンは私に自分の色の物を贈ってくれなかったけど、私にはグリーンが似合わないと思っていたんじゃ無いの?」
「いいえ。
でも、貴女にとってグリーンとシルバーは兄上の色なのだと思っていたので・・・」
チャールズとブライアンの髪と瞳の色は同じだ。
だから、チャールズと婚約していた時も、私はグリーンとシルバーの服や小物をよく身に付けていた。
想いを伝え合って、私がまだチャールズを想っているという誤解が解けた今だからこそ、自分の色を贈ってくれたって事か。
着飾った私を見つめるブライアンは、いつにも増して上機嫌だ。
盛大に熱を帯びた瞳で両手を広げてハグを求められたが、慌ててそれを制する。
「待って。ハグはダメ。
せっかくのドレスが着崩れちゃう。
勿論、キスも、今はダメよ。
お化粧が取れるから」
スキンシップを断ると、捨てられた仔犬の様に悲しそうな顔をされてしまった。
(・・・可愛いわね)
こんなにも表情豊かに愛情を示してくれているのに、この人の愛情を偽りの物だと思っていたなんて信じられない。
それ程までに、自分に自信を無くしていたのだろう。
ブライアンはハグの代わりに、私の手を取って指先にキスをした。
「そろそろ行きましょうか。
俺の色を纏った貴女を、見せびらかしたい」
侯爵邸に到着すると、既に沢山の招待客で賑わっていた。
主催の侯爵家の夫人を見付けたので、先ずはご挨拶をと近付く。
「本日はお招き頂きまして有難うございます。
とても素敵な夜会ですね」
「お褒めに預かり光栄ですわ。
是非楽しんで下さいませ」
夫人は私にチラッと冷たい視線を投げると、キラキラした目でブライアンを見た。
(んんっ?なんか嫌な予感)
「・・・ねぇ、お二人はとても仲睦まじく見せておいでですけれど、本当の所はどうなのかしら?」
「どういう意味ですか?」
ブライアンは少し剣呑な空気を醸し出す。
「いえね、実はわたくしリネットさんからお手紙を頂きましたの。
なんでも、愛し合っている婚約者と小さな誤解から別れる事になってしまって、悲しみに打ちひしがれているって・・・」
ああ、成る程。
この侯爵夫人は悪い人ではないのだが、恋愛小説や舞台が大好きで、いつまでも夢見る乙女の様な人だと聞いた事がある。
リネット様からの手紙を読んで、彼女を悲恋の物語の主人公だと思い込んでいるのだろう。
現実とフィクションの区別が付いていないのだ。
「だから、貴方達には話し合う機会が必要なんじゃないかと思って───」
益々嫌な予感!!!
1,051
あなたにおすすめの小説
【完結】完璧令嬢の『誰にでも優しい婚約者様』
恋せよ恋
恋愛
名門で富豪のレーヴェン伯爵家の跡取り
リリアーナ・レーヴェン(17)
容姿端麗、頭脳明晰、誰もが憧れる
完璧な令嬢と評される“白薔薇の令嬢”
エルンスト侯爵家三男で騎士課三年生
ユリウス・エルンスト(17)
誰にでも優しいが故に令嬢たちに囲まれる”白薔薇の婚約者“
祖父たちが、親しい学友であった縁から
エルンスト侯爵家への経済支援をきっかけに
5歳の頃、家族に祝福され結ばれた婚約。
果たして、この婚約は”政略“なのか?
幼かった二人は悩み、すれ違っていくーー
今日もリリアーナの胸はざわつく…
🔶登場人物・設定は作者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます✨
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
貴方でなくても良いのです。
豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪
山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」
「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」
「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」
「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」
「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」
そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。
私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。
さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪
今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる