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殿下、お元気でしたか?

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 王太子ともあろう者が、毒味もせずに市井で飲食物を口にする。

 いくらレイニー様を好きだからって、自覚が無さすぎるでしょ、と思う。
 
 王太子妃候補であるローズリッテですら、毒味役がついていた。

 王家から派遣された毒味役が、フェルゼン公爵家の料理すらチェックしていたというのに。

 薬入りの紅茶である。
サウロン様が作った薬だから、毒味役が飲んだからといって気付かれたりしないだろうけど、できる限りセドリック様以外に飲ませたくはなかった。

 なかったけど、あまりの危機管理のなさに驚きを通り越して呆れてしまう。

「阿呆か?アレは」

「阿呆ですね」

「パパ、ノイン。間違ってないけど、聞こえちゃうから、しぃーっ」

 事実だけど、人は本当のことを言われると腹が立つのよ。

「レイニー。さぁ、城に帰ろう」

 あらあら。
気持ちは分かるけど、レイを連れて行かれるわけにはいかないのよ。

「じゃあ、行ってくるね」

「パパも一緒に・・・」

「駄目って。ローズリッテが不貞をしてるみたいに見えるでしょ。名乗ったら、レイとすぐ戻るから」

 貴族の世界は、そういうの煩いのよ。
まぁ、ローズリッテはもうセドリック様の婚約者じゃないし、どうこう言われる覚えはないけど。

 パパが渋々変化の魔法をかけてくれて、私は久しぶりにローズリッテの姿になった。

 今日はローズリッテになることを踏まえて、シンプルなドレスにしている。

 ロゼは可愛い系が似合うけど、ローズリッテには似合わないのよ。

 コツコツとヒールの音を鳴らしながら、セドリック様とレイのテーブルに近付く。

 セドリック様は私に背中を向けているから、気付かないみたいね。

 近づく私に、警戒した護衛の騎士が振り返り・・・その顔がひきつった。

 あら?
ローズリッテのことを押さえつけてた騎士じゃない。

 そりゃ、顔も青くなるわね。

「で、殿下ッ!」

「何だ?今僕はレイニーと・・・」

「ごきげんよう、セドリック殿下。お元気でしたか?」

 振り返ったセドリック様に、満面の笑みを浮かべて、カーテシーをした。

 厳しい淑女教育と王太子妃教育をこなして来たのよ。

 セドリック様をどれだけ恨んでいても、笑顔くらい見せられるの。

 私の顔を見たセドリック様は、ガタガタと音を立てて、椅子から滑り落ちた。

「ろ、ローズ・・・ローズリッテ?そんなっ・・・」

「あら?顔色が悪いですわ。早く王宮に戻られた方がよろしいのではなくて?」

「嘘だ、嘘だ!あの時、ローズリッテの首は・・・ひぃ!」

「セドリック殿下。またお会いできて嬉しかったですわ。それではごきげんよう」

 私が再びカーテシーをすると、レイも立ち上がった。

 パパとノインが待つ入口に、レイを伴って向かう。

「まっ、待て!レイニー!」

 セドリック様は腰が抜けたのか、立ち上がれずレイに手を伸ばすけど、レイは最後まで何も言わず、振り返りもしなかった。
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