転生令嬢はやんちゃする

第一章

お兄様と殿下

　結局、半ば引きずられるように私達はお兄様に学園内の食堂？　カフェ？
　とにもかくにもお洒落なところに連れて行かれた。
「ここの茶は美味いからお前も気に入る」
「お兄様のおすすめなら間違いないです。テオ？」
　席を引いてくれたテオ。けれどテオは、私の隣には座らない。
　これはあれだ。周囲の目をみて従者であるという態度だ。なんでしょうかと笑む。
　絶対、踏み入らせない笑み。
　こうなるとなかなか手ごわい。
　座ってという私の視線に、いいえと答えてくるだけだ。
「……テオドール、座れ」
「いえ、僕はここで」
「お前……俺達は気にしないが」
「周囲はそうはいきませんので」
　お兄様も呆れたように声をかける。けどテオは微笑むだけだ。
　頑固者だなとお兄様は言って、まぁ仕方ないかと周囲に視線を向ける。
　他方から寄せられる視線。それは、好奇心に満ちたものだ。
　取り入りたい、と思っているのだろう。お兄様も殿下も長いものだから、ながいものにはまかれろ！　まかれたい！　かな。
「テオー」
「文句は帰ってから聞きますよ、レティお嬢様」
　従者モードのテオが崩せない。私はもう、と諦めてお兄様達の方へ視線を向けた。
「あれじゃあ、ここに入ってからも一緒に食事とったりしてくれなさそうだな」
「あっ……え、え、それやだ」
「……人目につかない場所なら、あるにはあるが……」
「えっ、それはどこですか、殿下」
　私はぱっと殿下に問う。人目につかない所なら、テオも従者モードしない。
　一緒に座ってくれるし、ごはんも食べる。色々おしゃべりもする。
　テオは私以上に私の対面を気にしているのを知っている。別にそこまで、とも思うのだけど、甘いとテオに言われるのだ。
「教えてやっていいか？」
「別に俺は良い。どうせ使ってもあと一年だしな」
「……え、ちょっと待ってください。もしかしてそこはお兄様と殿下がいつも使っている場所、という流れですか」
「そうだな。そこで昼をとるなら俺達と一緒にということになる」
　うーわー！　なにそれいじられるってことじゃない！
　でもこの他人行儀な従者モードテオと、お兄様と一緒。天秤に掛けたらテオ通常モードが良いと思う。
　思うので、教えてくださいと私は頭を下げた。
「お兄様に頼ると後が怖そうなんだけど……ほんと嫌なんだけど」
「レティ」
「なんでもないです」
　私が唸っているとぷっと吹き出す声。
　それは殿下だ。
「お前の妹は本当に面白いな」
「だろう。昔はそこそこ面白いくらいだったんだけどな」
「そこそことかなんですか」
「そこそこだろう。けどな、しばらく見ない間に……というか、木から落ちてからか？　それからこんな感じに悪化した」
「悪化なんてひどいです、お兄様」
　なんだそれはと殿下は言う。
　お兄様は、私が木登りをして落ちたという話をしている。やめてください！
　もう木登りは基本的に卒業しましたから！　時々やりたくなるけど！　やっちゃうけど！
「はは、うん。面白いな、面白い。退屈しなさそうだ」
　殿下は楽しげだ。
　やめてーって感じだけど、本当に。
「……なぁ、トリスタン」
「なんだよ。いや待て、なんとなく言いたいことがわかる」
「俺はお前の妹と婚約してもいいと思う」
「俺はお前にお兄様って呼ばれたくないな」
「いくらでも呼んでやるよ、お兄様」
　きもちわるいとお兄様は表情歪める。
　うん。
　私が聞き間違っていなければ、何か。そう。婚約とか聞こえた。
　殿下はどうだ、と私をにこにことみる。
　それ珍獣を愛でる感じの視線だよねって思った。
　頷くわけがない。私は遠慮します、と丁寧にお断りした。