転生令嬢はやんちゃする

ナギ

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第三章

そしてその日はやってきて

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「帰りたいー」
「付き合わされてるのは僕ですよ」
「ごめんね!」
 と、テオと私は同時に溜息をついた。
 今どこにいるかって? 屋根の上ですよ、屋根の上。
 今誰と一緒にいるかって?
「二人ともノリが悪いな」
 デジレ様とですよ!
 今の服装? 怪盗さんですよ!!
 ちょっと聞いてくれます!?
 帽子はさすがに私とテオは邪魔ということで無しにしてもらったんですけどね。
 マント羽織って動きやすい服装ってとこでもう矛盾って思う。マントある動きにくい!
 けどデジレ様はそれを颯爽とさばいてらっしゃるので慣れかな、とも思う。
 そして何よりこの足。
 ロングニーハイブーツ。つまり太ももの真ん中くらいまでの長さがあるブーツなんですけど。
 ああああああ!! これはだめでしょ!!
 テオ似合うしこれいつもより足長く見えるしまとめると、これ私のツボ!!
 我慢できずにすぽっと足とブーツの間に指先つっこんだらテオの動きが固まったわけで。
 さすがにまずいと思ってそろりと指を抜いた。
「……レティ」
「えへっ」
「…………次にしたらやりかえす」
「えー!」
「楽しそうだけど、そろそろ行くよ」
 遊んでいた私たちに向かってデジレ様はは笑む。
 そう、事の起こりはお兄様と殿下のちょっと調査してきてよというイイ笑顔での命令から始まった。
 渋っていたもののいつの間にか服も作られており。
 あれよあれよという間に、送り出されてしまったのだ。
 そして、今忍び込む屋敷の、屋根の上にいる。
 屋敷の主人はいない。いるのはメイドさんたちだけ、とのこと。守りも甘いので忍び込むのは簡単。
 とある商会とのよろしくない取引の証拠があれば見つけてくる、というのがミッションだ。
 忍び込むって、泥棒なんだよね、つまりは。
 うぅん……前世で考えるとどんな理由があってもアウトー! だと思うんだけど。
 いや、捕まればそもそもアウトなんだけど。まぁ、ファンタジー世界ということで私の中では落とし込んだ。
「魔術的な守りもないみたいだからな。人に見られない事だけに注意してほしい」
 それでは先に行く、とデジレ様は捜索する部屋。まぁこの真下の部屋なんだけども。
 その部屋のバルコニーをちょっと覗いた。
 そして誰もいないのを確認して降り立つ。
「レティ、先に」
「うん、そいやー」
 次に私。
 屋根からバルコニーにぶらーんだ。もちろん足がつくわけないのでちょっと勢いつけて着地。
 ずしゃああ! みたいなことはなかったけどよろめいてしまう。
 すると隣にすぐにテオが、音もなく着地。これは運動神経の差だろうか……!
「中に入るよ」
 と、その間にデジレ様はバルコニーの、ガラス張りの大きな窓、というかドアの鍵を開けていた。
 魔術でちょちょいのちょいらしい。
 すっと開いて、中の様子を窺う。
 もちろん灯りなんてついてないので薄暗く見える程度だ。
 デジレ様はさくさくと中へ入り、書斎の机へ向かう。その上にはランプがあり、それを付けた。
 するとぼんやりと部屋の中が見て取れるようになる。
「灯りつけちゃっていいんです?」
「このランプなら、外からも見えないし……ほどよく中が見えてくる。問題ない。もし消し忘れても、主が付け忘れたかな程度で不思議に思うくらいだ」
 逆に、自分で持ち込むとうっかり忘れたりなどした場合、身元が割れる危険性もあるらしい。
 そういう危険はないな、と。
 それなら魔術で灯りをつくればいいだけーとか私は思っちゃうわけで!
「魔術で灯りをともすとかは?」
「それも良いけれど、なにか燃やしたりだと危ないだろう」
 なるほど。でも光る球体とかならいけそうだなぁと思う。
「じゃあこんな感じで……」
 私は両手を合わせる。その間に生まれるイメージ。光の玉。
 けど、テオがストップと止めた。
「レティ。初めてする事はここでやるべきじゃない」
「なんで?」
「やりすぎて昼間レベルでビカっとやればばれるよ」
「あ」
 なるほど。やりすぎそうだ。
 やめておこうと私は魔術を止めた。一度昼間にやってからにしよう。
「うん、やっぱりテオドールも一緒で正解だな」
 うんうんとデジレ様は頷いている。
「さて、書類探しだな……こういうのは大体、机の中に隠し場所がある」
 鍵がかかっている引き出し。
 けど鍵なんてあるようでないもの。またまた問題なくデジレ様はそれを外して見せた。
 ゆっくり引き出されたその中には、特に怪しそうなものはない。
「この下だな」
 中身を引き出して、デジレ様がこつんと底を指先で叩く。
「底上げされてますね」
 テオがそれを器用に外して見せると手紙、書類がある。
「あたりだな」
 デジレ様は楽しそうに笑った。そしてその手紙をとって目を通し、やっぱりかと零す。
「ベイル家の名前と、ステフォール商会か。うん、決まりだな」
 さすがに、この手紙やらを持って帰ればここに誰かが入ったことはわかってしまうので元通りにする。
 デジレ様は書類も斜め読みして、十分だとおっしゃった。
 何が十分なのか!
「よし、帰ろう。もうこれで証拠は手に入ったも同然だ」
「え、何も持って帰ったりしませんよね?」
「ああ、私はうそを言わないし……アレクシスは確証が欲しいだけだ」
 自分の予想があたっているのか。
 そこに証拠があるのなら、強引に押し入って捜査すればいい。
 この辺、力技だなー! とは思う。けど、押し入って証拠がなければ、悪者は押し入った側になってしまうのだろう。
「あまり深入りすると面倒だからね。私がやるのはこれくらいなんだよ」
「つまり、デジレ様がされるのは最後のツメを行って良いかどうかの調査ということです?」
「そんなところだな。私自身が暴くことは早々ない」
 本当かなー? と思いつつ。
 本日の怪盗稼業はこれでおしまいとのこと。
 部屋の明かりをけし、窓の鍵を閉め。
 帰りはどうするのかといえば、忍んで帰るとのこと。
 デジレ様、そんな、めんどうな!
「デジレ様、今日は月もでてません」
「うん、そうだな」
「空を飛びましょう」
「は?」
 大丈夫、飛べる!
 ということでテオと私で手を引いて、デジレ様を空の旅……というには短い距離だけど。
 飛行をお教えした。教えて五分後にはマスターしてたのでデジレ様恐ろしい。
 というより、良い移動手段を教えただけだったかもしれないとあとで反省することになる。
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