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番外編13.恩返しします!
141.お部屋に行く
しおりを挟む兄ちゃんはいつも、僕に優しい。たまにきついことも言うけど、こうやって、僕を助けてくれる。その兄ちゃんに報いるためにも、絶対にオーフィザン様に恩返しするんだ!!
「じゃあ、まずは着替えないとな……」
腕を組んだ兄ちゃんに言われて、僕は首を傾げちゃう。
「き、着替え? なんで?」
「今クラジュが着ているのはパジャマだろう? オーフィザン様に会いに行くなら、ちゃんと着替えないとダメだ」
「……兄ちゃん、これ、パジャマじゃないよ? オーフィザン様に頂いた服は、他の人に会う時に着ない方がいいって言って、シーニュが用意してくれたんだ」
「そうか…………確かに、オーフィザン様に頂いた服では少し……だいぶ肌が見えてしまうからな……だが! 今はオーフィザン様にお会いしに行くんだ。せっかくだ! 城内にはほとんど人もいないし、お部屋に向かう途中で誰かに見られる心配もない! 一番喜んでいただける服で行こう!」
「う、うん! わかった!!」
僕は早速、クローゼットに近づこうとしたけど、すぐに兄ちゃんに止められた。
「待て! クラジュ!!」
「え? 今度は何?」
「クローゼットなら、俺が開ける。お前は絶対、クローゼットの扉を壊したり、クローゼット自体を破壊したり、中の服を全部破いたりするだろう?」
「……そんなことしないもん…………僕のドジ、そこまでひどくない…………」
「いいや。ひどい。絶対にやる。クローゼットは兄ちゃんが開こう。ついでにお前に似合う服を選んでやる!」
「う、うん……」
兄ちゃんは勢いよく扉を開く。そして頭を抱える。
「なんだこの高そうな服はーー!!」
「に、兄ちゃん!? 大丈夫!?」
「大丈夫なもんか!! なんだこれは!? 高そうな服しかないいいい……オーフィザン様には、お前には決して高価なものを与えないでくださいと、あれだけ言ったのに………………」
「に、兄ちゃん……大丈夫?」
「うう……クラジュ…………まさかとは思うが、破ったりしてないだろうな!?」
「そ、それは……あ、あんまりしてない……」
「なんだそのあんまりと言うのはーー!! そ、それはだいたい破っていると言うことか!? お、お前はまたなんでそういうことを…………これはいくらするんだ? も、もしまた破いたら………………あ、ああああああああああ……」
「に、兄ちゃん……大丈夫?」
「クラジュ!! このままではいけない!! 兄ちゃんが服を選んでやる!! それを着て、ちゃんとオーフィザン様のお役に立つんだ!!」
「う、うん!! 兄ちゃん!! 僕、頑張るよ!!!!」
僕は兄ちゃんが選んでくれた服を着て、オーフィザン様のお部屋の前まで来た。兄ちゃんが選んでくれたのは、黒っぽい色のメイド服で、これはオーフィザン様の一番のお気に入り。
だから絶対破っちゃダメ! ずっとドジしないように気を付けて歩いてきたから、歩くだけですごく緊張したああ……
僕は部屋の前で一回深呼吸をして、兄ちゃんと向き合う。兄ちゃんも少し、緊張しているみたい。
「いいか、クラジュ。もう一度確認だ。兄ちゃんが言ったことを覚えているか?」
「うん! もちろんだよ!! 壊れるものに近づかない!! 何かする時は落ち着いて人一倍ゆっくりやる!!」
「そうだ。俺たちはオーフィザン様のお役に立つために来たんだ! 破壊しにきたんじゃないことを、よーく覚えておけ!!」
「はい!!」
思いっきり返事をして、ビシッと敬礼。僕が無理を言ったのに、僕のお願いを聞いて一緒に来てくれた兄ちゃんのためにも、僕、頑張らなきゃ!!
だけど、敬礼をした僕に、兄ちゃんは慌てて言う。
「く、クラジュ!! 待て!! 早速兄ちゃんの言ったことを忘れているぞ!!」
「え……? そ、そうなの?」
「見てみろ! 後ろに花瓶がある!! また割るだろう!!」
兄ちゃんが指したのは、ペロケがオーフィザン様のためにいつもお花を生けている花瓶。だけど、その花瓶、今僕が手を伸ばしても絶対届かないくらい遠くにあるのに。
「兄ちゃん……でも、あれ、すごく離れてるよ?」
「離れてはいるが、お前のドジは並大抵のものじゃない。兄ちゃんはずっとクラジュのドジを見てきたんだぞ?」
「う、うん……」
「そう……お前が……生まれた時から…………た、大変だったなあ…………もし群れのみんなが、お前が何をしても笑ってくれるような奴らじゃなかったら……俺たちはとっくに魔物に引き裂かれて死んでいたかもしれない…………それをこうしてオーフィザン様に召抱えていただいて、幸せに暮らすことができて……オーフィザン様には感謝してもしきれない! いいか! クラジュ!! 今日こそは、二人でオーフィザン様のお役に立つんだ!!」
「うん!! 僕、頑張る!!」
「よし!! ではまず、お前がドジを踏まないか、確認だ!!」
「か、確認?」
「ああ。お前はここにいろ!! 動くんじゃないぞ? 兄ちゃんとの約束だ」
「う、うん!」
返事をすると、兄ちゃんは窓の方に走っていく。
「窓はクラジュ用に割れないようになっているのか……」
「うん! オーフィザン様がしてくれたんだ! 外に僕が落ちても、ふわんって浮くように、庭にも魔法がかけてあるんだよ!」
「さ、さすがはオーフィザン様だ……クラジュのドジを分かっていらっしゃる……花瓶も、絨毯ですら動かない……照明もか……」
兄ちゃんは、周りにあるものを全部確認してから、僕のところに戻ってきた。
「よし!! 大丈夫だ!! 部屋に入るぞ! クラジュ!!」
「う、うん!!」
「待て、クラジュ!!」
兄ちゃんは、ドアに手をかけようとした僕を止めて、自分がドアに触れる。
「ドアは兄ちゃんが開けよう……ん……? 開いているな……」
本当だ。ドア、ちょっとだけ開いてる。そして、中からは楽しそうな声が聞こえてきた。
何してるんだろう……
気になって、つい隙間から部屋の中を覗いちゃう。
「く、クラジュっ……! 盗み聞きはいけない!」
「だ、だって兄ちゃん……」
だって、オーフィザン様の楽しそうな声が聞こえちゃったんだ。気になるもん!
部屋の中にいたのは、オーフィザン様とセリューとダンド。
ソファに座ったオーフィザン様は、変わった色の猫じゃらしを握って、隣にセリューを座らせてる。
いいなあ…………僕もオーフィザン様の隣に行きたい。隣に座ってお話しなら、僕にもできます! オーフィザン様!!
だけどオーフィザン様は、持っていた猫じゃらしでセリューの頬をくすぐっちゃう。
オーフィザン様が……僕じゃない人を猫じゃらしでこちょこちょした……
「オーフィザン様……」
「クラジュ? どうした?」
兄ちゃんが僕に振り向いて首を傾げるけど、僕はもう泣きそう……
「……オーフィザン様が……僕じゃない人をくすぐったあ……」
「クラジュ! 静かにしろ! 見つかる!!」
だってひどいよ!! オーフィザン様があれでくすぐるの、僕だけだと思っていたのに…………
ソファの上のセリューはされるがままだ。セリューはいつも、オーフィザン様の言うことならなんでも聞くから、今もそうしているだけなんだろうけど、それは僕の役目じゃなかったの!?
そばにいたダンドがめちゃくちゃ怒って、オーフィザン様から猫じゃらしを取り上げてる。
オーフィザン様、ちょっと残念そう……ダンドから猫じゃらしを取り返そうとして、睨み合いになってる。
そんなにセリューをこちょこちょしたいの? 僕じゃなくて? なんで……?
がっくりと床に手をついちゃう僕。
兄ちゃんが心配そうに言った。
「く、クラジュ!? 大丈夫か!?」
「だって……オーフィザン様が僕じゃない人をこちょこちょした…………」
「クラジュ……落ち着け。オーフィザン様はお前だけを愛している……」
「でも……兄ちゃん…………僕より、セリューの方が…………オーフィザン様の役に立ってるし……」
「そ、それは確かにそうだが…………お前よりセリューさんの方が、百倍役には立っているだろうが……」
「うううううーーー…………」
「く、クラジュ! 落ち着け!! お前にはお前の良さがある!! オーフィザン様は、そこを気に入ってくださったのだから、そんな顔をすることはないんだぞ!!」
「……兄ちゃん……」
兄ちゃんはそう言ってくれるけど、やっぱり嫌だよ…………オーフィザン様の隣に座ってくすぐられるのは僕だけにして欲しいもん!!
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