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番外編13.恩返しします!

143.もっとそばにいたい

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 お部屋の中に入ると、オーフィザン様は、ソファの上で、新しい猫じゃらしを弄りながら、僕に振り向いてくれた。

「クラジュ……お前の方からたずねてくるとは、可愛いことをするじゃないか」
「は、はい!! オーフィザン様!」

 オーフィザン様だ……

 今日は長い髪を一つに括っていて、出かける時の黒い服を着ていて、いつもと少し、違って見える。

 いつもは会えない時間に、オーフィザン様に会えた……

 ……嬉しくて尻尾が揺れちゃう……

 早くおそばに行きたいのに、見つめられたら、ちょっと照れる。

 ほっぺが熱くなって、それでもそっと顔を上げたら、オーフィザン様は微笑んでくれた。

 そして、彼の後ろには、いつも僕に優しい笑顔を向けてくれるダンドと、僕を睨んでるセリュー。二人とも、オーフィザン様の右腕。それは分かっている。二人にできることと、僕に今できることは違う。それでも……僕、今、オーフィザン様のそばに行きたい。

「お、オーフィザン様!! ぼ、僕っ……僕も、オーフィザン様のお役に立ちたいと思って来たんです!!」

 思い切って言うと、オーフィザン様の後ろにいたダンドが僕に微笑んで「急にどうしたの?」って聞いてくる。

「ぼ、僕も、オーフィザン様のお役に立ちたいと思って来たんだ!」
「クラジュはもう役に立ってるよ」
「え?」
「クラジュが来たおかげで、ギスギスした空気がどっか行った。だから、もう役に立ってるよ?」
「そ、そんなのただの偶然だもん! そうじゃなくて……」

 ダンドはそう言うけど…………僕だって、もっとオーフィザン様の近くにいたい。

 いつもオーフィザン様の隣にいて、オーフィザン様を助けるのは、セリューとダンドの二人。最近、オーフィザン様が僕に会いにきてくれるのは、日が沈んだ夜だけだ。

 オーフィザン様は僕といる時、すごく優しい顔をして、たまに意地悪な顔もして、僕に触れてくれて、僕のそばにいて、安らぐって言ってくれる。それはすごく嬉しい。オーフィザン様のそばにいて、いっぱい愛してもらう夜は、僕の大事な時間だもん。

 だけどこうして、今会っちゃったら、もっとそばに行きたくなっちゃう。僕だって、もっとオーフィザン様のそばにいて、役に立ちたい。ずっとそばにいたいもん。

 僕は顔を上げて、オーフィザン様に向き直った。

「お、オーフィザン様……僕っ……! オーフィザン様のお役に立ちたいんです! なんでも言いつけてください!!」
「なんでもは無理だろう」
「う……そ、それは……そうなんですが……ぼ、僕にできることならなんでもします! オーフィザン様!!」
「だったらこっちに来い」
「え?」

 オーフィザン様はニコニコ笑いながら、僕を手招きしている。

 何か僕でもお役に立てることがあるんだーー!!

「はい!! オーフィザン様!」

 すっごく嬉しくて、僕は尻尾を振りながらオーフィザン様に言われたとおり駆け寄る。

 そしたら、オーフィザン様は、僕に膝に乗るように言った。

「お膝に? なんでですか??」
「いいから早く来い」
「は、はいっ!!」

 なんでお膝なのか分からないけど、オーフィザン様がすごく楽しそうだからいいや!

 僕はオーフィザン様と向き合って、その膝の上に跨る。

 うう…………短いスカートがめくれちゃいそうだし、兄ちゃんもダンドもセリューもいるから…………な、なんだか、恥ずかしいよう……

 だけど……膝の上からオーフィザン様のこと見下ろしたら、オーフィザン様が近くにいて、嬉しくなっちゃう。

 体が熱くなってきた。ドキドキしてたら、腰のあたりにひやっと冷たい感触。オーフィザン様が、膝に乗った僕の腰に手を回してきたんだ。

「お、オーフィザンさま?」
「これはなんだ?」
「ひゃああ!!」

 スカートの端を摘まれちゃう。僕が破ったとこだ。うわあああん! もうバレてた!!

「また破ったのか?」
「う……ううううー…………ごめんなさいいい……」
「仕様がない猫だ」
「ひゃあ!!」

 腰を撫で回していたオーフィザン様の手が、スカートの下に潜り込んで、僕の下着の中に侵入してくる。むにゅむにゅお尻を撫でまわされて、もう少しでスカートめくれちゃいそう。
 オーフィザン様の大きい手。気持ち良くてドキドキする……
 それに……敏感なところまでその手の感触が伝わっていくみたい。
 オーフィザン様の手、冷たいのに、僕の体、どんどん熱くなっていく。

「ぅっ…………やっ……! ひゃっ……! お、オーフィザン様!! や……やだ……ぼ、僕はこんなことしに来たんじゃ…………」
「そうかそうか」
「やだっ…………!」

 手が前の方にまで回ってきて、びくって体が震える。うううーー!!

「や、やだっ!! オーフィザン様!! ちゃんと聞いてください!!」

 力一杯言うと、オーフィザン様は手を離してくれた。

「お、オーフィザン様! 僕、お膝の上でおしりなでなでされるために来たんじゃないんです!!」
「その格好で来たのにか?」
「こ、これはっ……オーフィザン様に喜んでいただきたくてっ……! じゃなくて、僕、オーフィザン様のお役に立つためにきたんです!」
「だったら大人しく撫でられろ」
「い、嫌です! 僕、役に立ちにきたんです! お、お願いします! 何かいいつけてください!!」
「矛盾してないか?」
「してません! ぼ、僕……オーフィザン様の役立つんですーーーー!!」

 力一杯言うと、オーフィザン様は、ちょっとムッとする。あ、あれ? もしかして、怒らせちゃったの???? なんで??

「俺になでられるのが嫌なのか?」
「そ、そうじゃないんです……」

 だって、オーフィザン様に触れてもらうと、すごく嬉しい。今だって、本当はずっと、オーフィザン様に触れていて欲しい。

 だけど……

 顔を上げたら、オーフィザン様の後ろにはセリューとダンド。僕に二人と同じことは無理だって分かってる。だけど今日は、対抗心が湧いちゃう。これは、僕のわがままなんだろうけど……

 オーフィザン様のこと、独占したい……

 僕を膝に乗せたままのオーフィザン様は、少し不思議そうに首を傾げてる。

「クラジュ……?」
「ぼ、僕、オーフィザン様のお役に立ちたいんです!! お、お願いです! 何かいいつけてください!!」
「……では、何かいいつけたら、大人しく膝の上で尻を撫でられるか?」
「えっ!!?? わ、分かりました!! 僕、絶対に役に立ちます!!」
「よし」

 オーフィザン様は満足げに笑って、部屋を見渡す。

「では……ああ、そうだ。そこにある書類をとってこい」

 オーフィザン様が指したのは、すぐそばの窓際のテーブルに積まれた書類。
 だけどそれはソファからほとんど離れてない。両手を思いっきり広げたら、手が届いちゃいそうなくらいだ。
 そんなにそばにある書類を取りに行くのって、役に立ったって言うより、ただそばにあるものをとっただけだよ!?

「お、オーフィザン様!! そ、そういうのじゃダメです! ちゃんと言いつけてください!!」
「俺はお前にとってきて欲しいんだ。意外に難しいぞ?」
「そのくらい、僕にだってすぐできます!!」
「だったら早く行け。終わったら膝で尻を撫でられろよ」
「そ、そんなのダメです! ちゃんと何か言いつけてくれないと……」
「それをとってくることができたら、考えてやる」
「……分かりました……」

 何だか納得いかない。いくら僕でも、そばにある書類を取るくらい、すぐできるもん。

 ちょっと不満だけど、オーフィザン様が言いつけてくれたんだ! ちゃんとやる!!

 僕は、オーフィザン様の膝から降りて、すぐそばのテーブルまでいく。だけど降りた時に、オーフィザン様にお尻を撫でられちゃう。

「オーフィザン様!!」
「面倒な書類をやっと終わらせたんだ。尻くらい撫でさせろ」
「だ、ダメです! 僕、ちゃんとオーフィザン様のお役に立つんです!!」

 気合を入れて、書類に手を伸ばす。これくらい、僕にもできる。

 書類を取って振り返る。だけど、張り切りすぎたのか、勢いがついて、くるって振り返った瞬間、書類は僕の手からすっぽ抜ける。

 そして書類は部屋を温めていた杖のそばへ。それに触れたらパチパチって音を立てて燃えちゃった。

 真っ青になる兄ちゃん。
 ダンドは僕に駆け寄って来て「大丈夫?」って聞いてくれる。
 セリューは杖に駆け寄って、焼け落ちた書類を拾い上げた。

「し、書類がっ……あ、朝からオーフィザン様がずっと時間をかけて書き上げた報告書がっ…………や、焼けてっ……!! こ、このっ……! このっばーかーーねーーーこおぉぉぉおおおおーーーーっっ!!」

 ……またやっちゃった……

 セリューは今にも僕を絞め殺しそうな顔で振り返って、僕に掴みかかる。

「貴様あああ……よくも舐めた真似をしてくれたな!! 貴様には目と鼻の先にある書類を取ってくることもできないのか!! できないだけならまだしも焼くか!? 何をどうしたら、書類が焼けるんだ!!??」
「ごめんなさい…………」

 もう謝るしかない僕。
 なんで僕、こんなにダメなんだろう。オーフィザン様の役に立つためにきたのに、また迷惑かけちゃった。

 セリューは僕を掴み上げて怖い声で怒鳴ってて、それをダンドが止めに入って、兄ちゃんは真っ青になってオーフィザン様に頭を下げてる。

「も、申し訳ございませんっ!! く、クラジュがっ……クラジュがとんでもない真似をっ……!!」

 だけど、オーフィザン様は楽しそうに笑い出した。

「はははっ……気にしなくていい。杖はしまっておけばよかった」

 大事な書類を燃やしちゃったのに、オーフィザン様が笑うから、兄ちゃんも不思議そう。

 オーフィザン様は、僕に向かって手招きをした。

「さあ、来い。クラジュ。大人しく尻を撫でられろ」
「…………」

 耳と尻尾を垂れたまま、オーフィザン様に近づく。

 オーフィザン様は僕がドジしたって、いつだってこんな風に笑う。
 だけど本当は困っているはずなんだ。さっきの書類、朝からずっと作ってたって、セリューが言ってた。僕のせいで、全部ダメになって、また作り直しなんだ。

 僕……またオーフィザン様に迷惑かけちゃった……僕がわがまま言ったから……

 しょんぼりしながら近づく僕に、オーフィザン様も立ち上がって来てくれる。だけど僕は、もうその顔を見上げることすらできなくて、俯いていた。

「クラジュ……」

 オーフィザン様の指が、僕の目尻を拭う。いつの間にか、涙が流れていたんだ。

「オーフィザっ……」

 ぎゅうって、体があったかい腕に抱き寄せられる。泣いてて冷えちゃってた体が一気に温まっていくみたい。

 オーフィザン様は、僕を強く抱きしめて、僕の頭を撫でてくれた。

「お前は十分に役に立っている」
「え……?」
「だが、お前がそこまで言うなら、もう一つ、お前に手伝ってもらおうか?」
「え……? い、いいんですか?」
「ああ。これを」

 渡されたのは、オーフィザン様がいつも持っている鍵だ。

「もうすぐ、ここに笹桜が来る。城門を開いてあいつを招き入れ、ここにつれてこい」
「笹桜さんを……」

 笹桜さんは、ここから少し離れた山の中に住んでいる妖精族の人だ。以前、オーフィザン様と一緒に彼の屋敷まで魔物退治に行ったこともある。オーフィザン様の大切な友達だ。

 鍵を受け取ると、ちょっと重く感じる。

 僕、またやっちゃったのに、オーフィザン様、これを渡してくれるんだ……

 見上げたら、オーフィザン様は僕に微笑んでくれた。

「クラジュ? どうした? できないのか?」
「……」

 僕はギュって鍵を握って、もう一回顔を上げて、彼に負けないくらい、明るく笑った。

「任せてください!! オーフィザン様!!!! 僕、笹桜さんを連れてきます!! 絶対に!!」
「いい子だ……終わったら、尻を撫でられろよ?」
「……そ、それは…………」

 それはちょっと恥ずかしいけど、オーフィザン様が優しく頭を撫でてくれたら、ついうなずいちゃう。

「僕、絶対に笹桜さんを連れてきます!! 約束です!! 見ていてください! オーフィザン様!!」
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