【完結】執着系御曹司との甘く切ない政略結婚 ー愛した人は姉の婚約者でしたー

波野雫

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それでも手に入れたかったもの SIDE 碧斗

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 ウエディングドレスに身を包んだ音羽に口づける。
 これで彼女が俺の妻だと周囲にも知らしめられ、ようやく安堵した。

 ここにたどり着くまでに、十年近くの時間がかかってしまった。我ながらなかなかしぶとくて、これほど執念深い性格をしていたとは自身でも知らなかった。

 ただ音羽との関係が、今はまだ〝表面上〟にすぎないものだとも理解している。急な結婚に、彼女の心まではついてきていないだろう。

 いつかは彼女の心も手に入れてみせると誓いながら、ここへたどり着くまでの長い道のりを思い起こした。

 自分はいずれ会社のために結婚するだろうとわかっていたし、それについて特に不満もなかった。
 小野寺家の長男として生まれたからにはそういう話が出てもおかしくないと、祖父の言動から察しており、自然と受け入れていたように思う。

 自分は異性に対しもそこまで情熱的になるようなタイプでもなかったようで、相手に請われて付き合いはじめても長続きしたためしがない。
 友愛の情くらいは抱いていたから交際に応じたものの、こちらから連絡を取りたいと思うほどの熱はいつまで経っても持てなかった。

 失礼な話だが、交際相手に気遣いを見せたのは面倒ごとを避けたかったらにすぎない。それから、同じだけの想いを返せないという罪悪感もあったのかもしれない。

 そんな気持ちが伝わってしまうのだろう。結局はそれほど経たないうちに相手から別れを切りだされて、関係が終わっていた。

 薄情だが正直そこに未練などはなく、あるのは申し訳なさだけだ。
 
 そんな付き合い方しかできなかった自分は、人として決定的になにかに欠けているのかもしれないと考えるようになった。

 それなら、無理に誰かと交際する必要はない。
 そもそも政略結婚を見据えている身では先の約束もできず、あまりにも不誠実だ。そう気づいてからは、異性との関りを避けて仕事に邁進するようになった。

『いずれは、碧斗がこの会社を継ぐんだぞ』

 初孫である俺をかわいがってくれた祖父は、父を尊重した上で、その次にこの会社をまとめていくのは俺だとことあるごとに言い聞かせてきた。

 物心がついて以来の祖父との会話は、仕事に関する話が多かったように記憶している。
 幼い頃から頻繁に会社に連れていかれたのは、おぼろげながらに覚えている。父に社長の座を譲ってから、祖父の言動はより顕著になっていった。

 まるで祖父による刷り込みをされているようだと後に感じたが、自身が起こした会社に対する思い入れが大きいのも理解できる。だから不快ではなかった。

 自分は次男だからと、好きなように過ごしている弟の翔を羨ましく思うときもあった。だがそれも、仕事のおもしろさに気にならなくなっていく。
 
 父は祖父の薦めた相手と見合いで結婚をしているが、両親の仲は息子の俺から見ても良好だ。
 それはひとえに母が父に対して献身的で、理解し合うように互いに歩み寄ったからだろう。母の気遣いを知っているからこそ、父も彼女を大切にしている。

 たとえ政略結婚だったとしても、お互いに尊重し合えればよい関係を築いていけるはずだと、両親の姿を見ていれば前向きに捉えられた。
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