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74 その頃、神社の四人組

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浅葱は、土間に併設された板間で、ちゃぶ台の前に正座をしている。喉はカラカラに渇き、唾をゴクリと呑むも喉が上下するだけで、緊張が解れることはなかった。

ちゃぶ台には、浅葱が握ったおにぎりといりこ出汁でとった絹ごし豆腐のお味噌汁。先日佐久夜に作り方を教わった玉子焼きが並んでいる。

「うむ、見た目は悪くないぞ?」

「神さま、お米は僕が炊いたんだよ。早く食べてみてよ」

朱丸は、早く神さまの感想が聞きたくてうずうずしながら、飛び跳ねる。

神さまは、猫のお面を少し上にずらし、小ぶりに握られたおにぎりを一つ持って、大きく口を開けた。

ガブリと真ん中を齧ると、もぐもぐと咀嚼する。

浅葱は、自分の胸を片手で抑えながら神さまの反応を待った。

今まで、佐久夜は、神さまや朱丸たちにお弁当を用意していた。佐久夜の作る弁当は、美味しく文句もなかったが、佐久夜自身のお弁当に加え、神さま、朱丸、朧、浅葱の四人分の昼飯まで準備させる事が、負担ではないかと浅葱は、考えていた。

「一人分も五人分も変わんないよ?」

佐久夜は、弁当作りは苦にならないと言ってくれるが、早朝の掃除、朝ごはんの準備、お弁当作りと忙しそうに働く佐久夜の負担を少しでも減らしてやりたいと考え、浅葱はお手伝いを申し出た。

「やりたいって言うんだから、手伝ってもらったら良いにゃ」

まったく手伝う気のない朧は、軽く言う。

「僕も浅葱どんを手伝って、佐久夜兄ちゃんを助けたいぞ!」

やる気満々の朱丸は、胸を叩いて浅葱と一緒にお手伝いを申し出た。

「じゃあ、みんなのお昼ごはんをお願いしようかな?」

神さまが、ニコニコと見守る中、佐久夜は、浅葱と朱丸にお願いをした。

神さまは、おにぎりを口一杯に頬張り、もぐもぐと食べている。お味噌汁も神さま用にお猪口をお椀として用意した。小さく賽の目に切った豆腐を浅葱が竹を削って神さまのサイズに合わせたお箸を使って、ズズズっとお味噌汁を啜った。

神さまは、ほうっと一息ついた。浅葱は、緊張のあまり、ハアハアと呼吸も荒くなっている。

「うむ、しっかりといりこの出汁が効いておるぞ。おにぎりも我が大好きなツナマヨじゃ。とても美味いぞ」

にっこりと神さまが微笑み、へなへなと浅葱の背筋が緩んでいった。

「浅葱どん!良かったな!僕たちも食べようよ」

「おい、オイラのごはんを忘れるにゃ」

神さまのご飯ばかり気になって、すっかり忘れていた朧のご飯。緊張が解れたのを見越して文句を言ったのが、朧の優しさかもしれない。

「はーい!オッチャンのご飯も用意してあるよ」

朱丸の返答に、頭を掻きながら立ち上がる浅葱、土間に降りて高下駄に足を入れる。

「おりょ!?」

突然、バランスを崩し奇妙な声を出す浅葱に朧が、眉間に皺を寄せる。

「下駄の鼻緒が切れたでござりまする」

仕方なく、佐久夜の草履を借り、朧のご飯を釜戸に取りに行く。

焼いたばかりの鯵の開きをお皿に乗せ、浅葱は戻ってきた。香ばしい香りが、朧の鼻をくすぐり、朧は待ち切れないと座布団の上から立ち上がる。

「熱いでござりますから、気をつけて…うわっ!!」

浅葱は、履き慣れない草履の踵を踏んで、鯵の開きを持ったまま躓いた。

「オイラのアジ!!」

空を飛ぶ、鯵の開き。朱丸の顔面にペチリとぶつかった。

「うわ!」

鯵まみれになった朱丸。ジト目で浅葱を睨む朧。思わず咽せて咳き込む神さま。

「申し訳ないでござりまする!」

浅葱は、慌てて鯵の開きを摘んで、皿に乗せ朧の前に差し出した。
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