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75 虫の知らせ

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「おまっ、素手で掴んだにゃ…」

力強く握られ、形の崩れた鯵の開きを恨みがましく朧は、見つめる。

「ワーハッハ、良いではないか、良いではないか、胃袋に入ってしまえばい、形なぞ関係ないであろう。主に食べ易く、解してくれたのじゃ。浅葱よ、主に怪我はないか?」

「ぬぬ、ちんちくりんめ、ここでオイラが文句を言えば、心が狭いと思われるにゃ!オイラは、別に怒ってないにゃ」

浅葱は、自分が失敗した事にオロオロと周りを見ていたが、それを笑い飛ばして、冗談で済ましてくれる神さまと朧に感謝していた。

ただ、鯵の開きを全身で受け止めてしまった朱丸は、びっくりして呆然としていた。言葉もなく立ち尽くす朱丸に気づき、浅葱は駆け寄った。

「朱丸さま、熱くはござらんかったか?」

きょとんと浅葱を見る朱丸は、ペロリと口の周りを舐めて、手のひらをくんくんと匂い始める。

「朱丸さま?」

浅葱は、膝をつき朱丸の挙動を見守る。にっこりと微笑み朱丸は、浅葱に向き直った。

「美味い!美味いのだ!浅葱どん、僕も鯵の開きが食べたいぞ!」

朱丸には、お叱りを受けても仕方がないと思っていただけに、浅葱は拍子抜けしてしまう。

「しかし、ついてないにゃ」

もぐもぐと崩れた鯵の開きを食べながら、朧は言った。

「はあ、下駄の鼻緒が、ぷっつり切れて、佐久夜さまの草履を勝手に使用してしまった罰が当たったのでござりますか?」

誰にも咎められる事なかったが、自身の失敗を引きずってしまう浅葱は、しょんぼりしている。

神さまは、おにぎりを頬張りながら上を向いて思いを巡らせる。

「うむ、……虫の知らせというものかも知れぬな」

「んにゃ?」

「まぁ、良い。浅葱も早く食事にするが良い」

神さまに言われ、浅葱は立ち上がり改めて、朱丸と自分の食事も準備する。

「浅葱どん、僕も手伝うぞ」

「ありがとうござりまするぞ」

虫の知らせ……確かに、一理あるかも知れないと浅葱は、思った。

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