68 / 103
第二章
討伐隊⑩
しおりを挟む
先ずはとにかく肉を切りまくる。
【鑑定】で見た限り、この肉には寄生虫とかはいないから、牛肉と同じでレアでも食べられるみたいだけど、この世界ではただの生焼けでしかないから不評だ。
だから、少し薄切りにして火が入りやすいようにしておく必要がある。
だから切って切って切りまくるのだ!
「お兄ちゃん! 私も手伝うで!」
「わ、私もお肉を切るくらいなら……」
「そう? じゃあ、お肉は任せるよ」
ゼルマとミューさんが肉を切る手伝いを買って出てくれたので、俺は別の作業をしよう、と思って任せたんだけど。
「ミューちゃん! そんな力任せに切ったらあかんで! 肉の断面が潰れて……あああっ! そんなギコギコしたらあかんって!」
ゼルマの悲鳴のような叫びがすごく気になるが、まぁ大丈夫だろう。
さて、俺は今のうちに【収納】に入れておいた野菜を取り出した。
黄土瓜と楕円葱、それに芋とキャベツっぽい葉野菜を全部出す。
18人分だとしたら、これでも足りないくらいだけど、残りの食欲は肉で補ってもらおう。
黄土瓜は裏漉しして味噌っぽくしておいて、楕円葱は適当な大きさにスライスしておく。
芋は半分切って、葉野菜は手頃なサイズに千切れば終わりだ。
「おい、リョウ」
調理している俺のところにジョルダンが冒険者達を連れて帰ってきた。
予想通り14人いる。
「すまない。ジョルダンから聞いたのだが、食事を振る舞ってくれると言うのは本当かな?」
【千里眼】のリーダー、マルコが申し訳なさそうな顔で声をかけてきた。
【審判の矢】のリーダー、ウルドもあの【猪突猛進】のリーダーでさえ少し表情が固い。
旅の食糧は貴重だから流石に気を遣っているようだ。
「ああ、構わないよ。あの肉の量だし、そろそろ野菜の保存も限界だからさ。全部一気に消費させたいんだよ」
「そ、そうかっ! なら、ご馳走になるよ! 手伝える事があったらなんでも言ってくれ!」
「お、俺達もやるぞ!」
「もちろんだ! 力仕事なら任せておけ! そ、それと……出発の時は悪かった。すまねぇ」
手伝いの申し出に、謝罪までするのは意外と悪いやつじゃなかったのかも。
しかし、手伝いと言っても、もう食材の下拵えは終わって……あっ!
肝心なのを忘れてた。
「平たい大きな石があれば持ってきて欲しいんだけど、頼めるか? えっと……」
「俺の名前はラッセルだ。 平たい大きな石だな? 任せとけ! いくぞ! お前ら!」
そう言うと【猪突猛進】のリーダー、ラッセルは他のメンバーを引き連れて森の中へと入っていった。
その間に【千里眼】には手頃なサイズの石を集めてもらって竈を作ってもらい、【審判の矢】には木の枝を集めてもらって火をつけてもらう事にした。
人手があるって最高だな!
おかげであっという間に4チーム分の竈が出来たよ。
「おーい! こんなもんでいいか?」
ちょうど、竈に火が入った頃でラッセル達が帰ってきた。
げっ! ちゃぶ台くらいの平石を1人1個ずつ楽々と持って帰って来たよ!
助かるけど、なんて馬鹿力だ。
初日に揉めなくて良かったよ。
「じゃあ、それを水でよく洗った後、この竈の上に置いてくれ」
俺の指示を聞いて【審判の矢】の魔法使いが水魔法で石を洗っていく。
こういうのを見ると普通の魔法が羨ましくなるけど、無い物ねだりは虚しくなるから考えないようにしよう。
石を洗って竈の上に置くと、残った水気がジュワッと音を立てながら蒸気となって浮かんでくる。
いかんいかん、本格的に熱くなる前にアレを作らないと。
俺は半分に切った芋を石の縁に沿って並べて囲い、その隙間を黄土瓜の裏漉しで埋めて土手を作っていく。
他の3つにも同じ物を作れで準備完了だ!
「これは何だ? 何かの儀式か?」
「宗教的なものでしょうか?」
「俺は作法なんか知らないぞ」
見た事がない冒険者達が何か勘違いしてるようだけど、全く関係ありません。
飯なんか美味く食えればそれでいいんだ。
作法だ何だと言えるのは贅沢者のする事なんだから、今の俺達が気にする事ではないのさ。
さて、そろそろ石が温まってきたかな?
「じゃあ、いよいよ焼いていくぞ! 準備はいいか?」
「おおおっ!」
みんなの期待を一心に背負い、焼けた石の上で野菜と肉を焼いていく!
それと同時に水をかけるとモワモワっと美味しそうな匂いとともに湯気が舞い上がってくる。
他の竈でも同じように焼いてもらうと、周辺は味噌の香りでいっぱいだ。
ああ、落ち着くなぁ。
「おい! リョウ! まだか!? まだなのかっ!?」
リラックスしているとジョルダンに急かされて、現実に引き戻された。
どうやら音と匂いでもう限界のようだ。
他の面々も似たようなもんだし、そろそろいいだろう。
「よっしゃ! これで石焼の完成だ! 焼けた肉からどんどん食っていってくれ! そして食った端から肉はどんどん焼いていけ!」
「おおおおおおっ!」
俺の言葉に全員の手が一斉に肉に伸びた。
「こ、これはっ! とても美味しいです!」
「美味ぇえええええ!」
「俺、こんな美味い肉は初めてだ!」
「あ、温かい……旅の途中でこんな温かい食事は初めてだ」
おうおう、絶賛の嵐じゃないか。
どうやら【千里眼】でも【審判の矢】でも大好評のようだ。
【猪突猛進】の人達が何も言わないと思って見てみると、喋る暇すら惜しむかのように口に肉を頬張っては次の肉を焼いていた。
うーん、凄まじい。
「美味いぞ! リョウ! この味はアレだ! 味噌汁とやらに似た味だな!」
「あっ、わかった?」
これこそが土手を黄土瓜で固めた理由だ。
野菜は肉が石に引っ付かないようにするためと、野菜から出る水分で土手の黄土瓜を少しずつ溶けて、肉に味噌っぽい味が付くのだ。
昔、何かのテレビで観たのを思い出してやってみたけど上手くいって良かったよ。
結局、石焼はみんなに大好評で、なんと消費された肉の量は15㎏。
温かくてまともな食事は久しぶりだと、各チームから感謝されたよ。
特に【猪突猛進】からはめちゃくちゃ感謝された。
全員、英気を養えたみたいでよかったよ。
さぁ、いよいよ明日は【ズー】と遭遇する可能性の高い地域に踏み込む事になる。
全員で無事に帰って、またみんなで飯を食いたいもんだ。
……言っとくけど、フラグじゃないからな?
【鑑定】で見た限り、この肉には寄生虫とかはいないから、牛肉と同じでレアでも食べられるみたいだけど、この世界ではただの生焼けでしかないから不評だ。
だから、少し薄切りにして火が入りやすいようにしておく必要がある。
だから切って切って切りまくるのだ!
「お兄ちゃん! 私も手伝うで!」
「わ、私もお肉を切るくらいなら……」
「そう? じゃあ、お肉は任せるよ」
ゼルマとミューさんが肉を切る手伝いを買って出てくれたので、俺は別の作業をしよう、と思って任せたんだけど。
「ミューちゃん! そんな力任せに切ったらあかんで! 肉の断面が潰れて……あああっ! そんなギコギコしたらあかんって!」
ゼルマの悲鳴のような叫びがすごく気になるが、まぁ大丈夫だろう。
さて、俺は今のうちに【収納】に入れておいた野菜を取り出した。
黄土瓜と楕円葱、それに芋とキャベツっぽい葉野菜を全部出す。
18人分だとしたら、これでも足りないくらいだけど、残りの食欲は肉で補ってもらおう。
黄土瓜は裏漉しして味噌っぽくしておいて、楕円葱は適当な大きさにスライスしておく。
芋は半分切って、葉野菜は手頃なサイズに千切れば終わりだ。
「おい、リョウ」
調理している俺のところにジョルダンが冒険者達を連れて帰ってきた。
予想通り14人いる。
「すまない。ジョルダンから聞いたのだが、食事を振る舞ってくれると言うのは本当かな?」
【千里眼】のリーダー、マルコが申し訳なさそうな顔で声をかけてきた。
【審判の矢】のリーダー、ウルドもあの【猪突猛進】のリーダーでさえ少し表情が固い。
旅の食糧は貴重だから流石に気を遣っているようだ。
「ああ、構わないよ。あの肉の量だし、そろそろ野菜の保存も限界だからさ。全部一気に消費させたいんだよ」
「そ、そうかっ! なら、ご馳走になるよ! 手伝える事があったらなんでも言ってくれ!」
「お、俺達もやるぞ!」
「もちろんだ! 力仕事なら任せておけ! そ、それと……出発の時は悪かった。すまねぇ」
手伝いの申し出に、謝罪までするのは意外と悪いやつじゃなかったのかも。
しかし、手伝いと言っても、もう食材の下拵えは終わって……あっ!
肝心なのを忘れてた。
「平たい大きな石があれば持ってきて欲しいんだけど、頼めるか? えっと……」
「俺の名前はラッセルだ。 平たい大きな石だな? 任せとけ! いくぞ! お前ら!」
そう言うと【猪突猛進】のリーダー、ラッセルは他のメンバーを引き連れて森の中へと入っていった。
その間に【千里眼】には手頃なサイズの石を集めてもらって竈を作ってもらい、【審判の矢】には木の枝を集めてもらって火をつけてもらう事にした。
人手があるって最高だな!
おかげであっという間に4チーム分の竈が出来たよ。
「おーい! こんなもんでいいか?」
ちょうど、竈に火が入った頃でラッセル達が帰ってきた。
げっ! ちゃぶ台くらいの平石を1人1個ずつ楽々と持って帰って来たよ!
助かるけど、なんて馬鹿力だ。
初日に揉めなくて良かったよ。
「じゃあ、それを水でよく洗った後、この竈の上に置いてくれ」
俺の指示を聞いて【審判の矢】の魔法使いが水魔法で石を洗っていく。
こういうのを見ると普通の魔法が羨ましくなるけど、無い物ねだりは虚しくなるから考えないようにしよう。
石を洗って竈の上に置くと、残った水気がジュワッと音を立てながら蒸気となって浮かんでくる。
いかんいかん、本格的に熱くなる前にアレを作らないと。
俺は半分に切った芋を石の縁に沿って並べて囲い、その隙間を黄土瓜の裏漉しで埋めて土手を作っていく。
他の3つにも同じ物を作れで準備完了だ!
「これは何だ? 何かの儀式か?」
「宗教的なものでしょうか?」
「俺は作法なんか知らないぞ」
見た事がない冒険者達が何か勘違いしてるようだけど、全く関係ありません。
飯なんか美味く食えればそれでいいんだ。
作法だ何だと言えるのは贅沢者のする事なんだから、今の俺達が気にする事ではないのさ。
さて、そろそろ石が温まってきたかな?
「じゃあ、いよいよ焼いていくぞ! 準備はいいか?」
「おおおっ!」
みんなの期待を一心に背負い、焼けた石の上で野菜と肉を焼いていく!
それと同時に水をかけるとモワモワっと美味しそうな匂いとともに湯気が舞い上がってくる。
他の竈でも同じように焼いてもらうと、周辺は味噌の香りでいっぱいだ。
ああ、落ち着くなぁ。
「おい! リョウ! まだか!? まだなのかっ!?」
リラックスしているとジョルダンに急かされて、現実に引き戻された。
どうやら音と匂いでもう限界のようだ。
他の面々も似たようなもんだし、そろそろいいだろう。
「よっしゃ! これで石焼の完成だ! 焼けた肉からどんどん食っていってくれ! そして食った端から肉はどんどん焼いていけ!」
「おおおおおおっ!」
俺の言葉に全員の手が一斉に肉に伸びた。
「こ、これはっ! とても美味しいです!」
「美味ぇえええええ!」
「俺、こんな美味い肉は初めてだ!」
「あ、温かい……旅の途中でこんな温かい食事は初めてだ」
おうおう、絶賛の嵐じゃないか。
どうやら【千里眼】でも【審判の矢】でも大好評のようだ。
【猪突猛進】の人達が何も言わないと思って見てみると、喋る暇すら惜しむかのように口に肉を頬張っては次の肉を焼いていた。
うーん、凄まじい。
「美味いぞ! リョウ! この味はアレだ! 味噌汁とやらに似た味だな!」
「あっ、わかった?」
これこそが土手を黄土瓜で固めた理由だ。
野菜は肉が石に引っ付かないようにするためと、野菜から出る水分で土手の黄土瓜を少しずつ溶けて、肉に味噌っぽい味が付くのだ。
昔、何かのテレビで観たのを思い出してやってみたけど上手くいって良かったよ。
結局、石焼はみんなに大好評で、なんと消費された肉の量は15㎏。
温かくてまともな食事は久しぶりだと、各チームから感謝されたよ。
特に【猪突猛進】からはめちゃくちゃ感謝された。
全員、英気を養えたみたいでよかったよ。
さぁ、いよいよ明日は【ズー】と遭遇する可能性の高い地域に踏み込む事になる。
全員で無事に帰って、またみんなで飯を食いたいもんだ。
……言っとくけど、フラグじゃないからな?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
379
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる