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第三章

狐獣人とダークエルフ⑦

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「何をやってますの!? 報告を聞いて飛んできましたわ!」

 いや、飛んでくるのもどうかと思うけど、その前に思いっきり扉を蹴破ってる件については無視ですか?
 木の扉とはいえ粉々に砕け散ってるのが怖いんですけど……リーディアさんって戦闘系だっけ?

「リーディア商会会長のリーディア。どういうつもりかな? 商品の注文ならまた今度にしてほしいんだけど」

「シエンナさん! 貴女に不埒な噂があるのは知ってましたけど、何かの誤解だと思ってましたわ! でも、こんな事を企むなんて……抜け駆けは許しませんわ!」

 何の話よ?
 抜け駆けって、【魔女貝】食う事か?
 そんな事で扉を蹴破られたらたまらないだろ。
 これに関してはリーディアさんのやり過ぎだ。

「リーディアさん。いくら何でもそれは……」

「リョウさんもリョウさんですわ!」

「ひいっ! な、何か……」

「投資先を紹介したら、いきなりそこでこんな破廉恥な事を考えるなんて、あんまりです! ずっとお声かけしてた私の立場はどうなるんですの!? ひどいですわ! ひどいですわ!」

 めっちゃ取り乱してる……
 俺が何か悪い事をしたのか?
 それにお声かけって何だよ? 他に声をかけられた覚えなんかないぞ。

「もう! 貴方って御方はっ! 今日という今日は……!」

「落ち着いて、リーディア。多分、君は大きな勘違いをしてる」

「許しま……えっ? か、勘違い?」

「うん。店の外から見張らせていた部下の報告を鵜呑みにしちゃったんでしょ? 僕も淡い期待はしていたけど、絶対に違うと確信した。ちょっと来て」

 シエンナはリーディアさんを店の隅に手招くと、コソコソと話を始めて。
 それにしても、リーディアさんは外から部下に見張らせていたのか?
 浮気調査みたいで怖いんですけど~

「じゃ、じゃあ……私の早とちりって事ですの?」

「そうだよ。僕も期待はしてたんだけど、まったく反応ないね。多分、ご飯作って満足してるよ」

「安心しましたけど、それはそれで問題ですわ。どうアプローチすればいいのかわかりませんもの。こんな厄介な商談相手は初めてですわ」

「僕もだよ。他の男の人達と全然違うんだもん。新薬の開発よりこっちの方が進みそうにないね」

 なんか2人が俺に冷たい視線を送ってくる。
 なんだ? 何か悩んでるのか?
 それとも俺が何かしたのか?
 全然、記憶にございませんけど!

「まぁ、せっかく来たんだし一緒にご飯食べて行きなよ。リーディアさん。彼の料理は久しぶりでしょ?」

「そうさせていただきますわ。久しぶりに全力疾走して、安心してガックリして、何だかお腹空きましたもの。あっ、扉は後で修理に来させますから」

 リーディアさんがそう言って視線を店の外に向けると、誰かが走って行く音が聞こえた。
 どうやら外で見張っていた部下が修理の手配に走って行ったみたいだ。
 っていうか、まだおったんかい!

「じゃあ食べよ」

「はい。【魔女貝】を揚げた料理なんて初めてですわ」

燻製肉ベーコンを巻いたものもね。まぁ、リョウくんの料理はだいたいが初めての物ばっかりだけど」

 異世界料理ですから。
 では、気を取り直して食べましょう。

「先ずはフライから……うん! 美味い!」

「これは美味しいね。サクサクとした外側とトロッとクリーミーな中身がすごく合ってるよ」

「濃厚でクリーミーな味わいが何とも言えませんわ! 【魔女貝】なんて毒があるからと幼少の頃から食べさせてもらえませんでしたけど、これはハマりそうですわ!」

「生で食べない限りは大丈夫だよ。でも、貝は火を通し過ぎると硬くなるから、そこが難しいところだね」

「なるほど。料理するにしても難しいからあんまり出回ってないんだね。それは惜しいね。これだけ美味しいんだから」

「ままなりませんわね。次はこちらの燻製肉ベーコンを巻いたものを……これも美味しいですわ! 【魔女貝】恐るべしですわ!」

「【魔女貝】に燻製肉ベーコンの旨味がしっかり染み込んで、これはまた違った美味しさを感じるね。お酒に合いそうだし、酒場とかで流行るんじゃない?」

 確かに居酒屋の人気おつまみだった。
 濃い目の味付けだし、これにキンキンに冷えたビールでもあれば最高だよね。
 ああ、ビール飲みたくなって来た。

「これは美味しいし、精力が付くなら薬よりも料理として考えた方がいいかもね」

「あまり出回ってない【魔女貝】……精がつく料理……それですわ!」

 リーディアさんが急に立ち上がったかと思ったら、拳を掲げて力説を始めた。
 おおっ、目がかねの形になっとる!

「シエンナさん! 【魔女貝】を使った精力剤ではなく、料理にしませんこと? 我がリーディア商会直営の料理店で出せばヒット間違いなしですわ!」

「ああ、それはいいかも。薬草で精力増進効果を上げた魔女貝料理とか、おじさんには人気でそうだしね。何より美味しいから薬にするより料理の方がいいかも。それに……」

「ええ。今なら【魔女貝】を安価で手に入れられますわ。今の内に独占してしまえば、他店が真似しようとしてもできないって事ですわ。ふふふっ」

「会長さん、君も悪だね~くくくっ」
 
「いえいえ、薬師さんこそ」

 すんげ~悪巧みしてる。
 まぁ、美味しいものが広まるのはいい事なんだけどね。

「と、いうわけですので、リョウ様さんもお力添えお願いしますわ」

「へ? 何で俺まで?」

「だって僕は精力増進効果は付けれるけど、料理は出来ないからね」

「私も料理だけは駄目ですの。だから、結婚相手には料理の上手な方が……」

「はいはい。さりげなくアプローチしないの。【魔女貝】自体あまり出回ってないから料理出来る人も少ないんだ。だから、商品開発には君の力が必要なんだよ」

 えぇ……面倒だな。
 俺はのんびりスローライフがしたいだけで、新商品の開発なんて……

「お力添えいただければ、他国の珍しい食物や香辛料を優先的にお渡しする事を約束しますわ」

 他国の珍しい食物と香辛料っ!?
 それなら俺が見つけられない現代の食物の代用品が見つかるかもしれないぞ!
 そういう事なら話は別だ!

「よし! やろう!」

「うん! 早速、僕は増進作用のある薬草の調合に取り掛かるね!」

「私は【魔女貝】の独占ですわ!」

 それから精力的な働きの甲斐もあって、1週間後には料理は完成した。
 初動こそイマイチだったけど、徐々に美味しさが広まって、いつの間にかツヴァイの酒場の定番になっていた。
 みんなが美味しく飯が食えるってのはいい事だね!
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