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13.仕事……?
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「あ、あああ、あの、フレディ様?」
食事を終えたフレディと仕事を終えたアリアは二人の寝室にいた。
「どうしたの、アリア?」
(ど、どどど、どーしたもこうしたも……!)
結婚してから寝室は一緒なものの、ベッドはアリアが使い、フレディは部屋の中央に置かれた大きなソファーで寝ていた。
夜着に着替え、後は寝るだけなのに、アリアはベッドに腰掛ける形でフレディと並んでいた。
髪を撫でながら、フレディが腰に手を回している。
(み、密着しすぎでは?!)
されるがまま顔を赤くするアリアに、フレディは気にせず髪を掬っては甘い表情で見つめてくる。
「あの……誰も見ていないのに必要ですか?」
甘い空気に耐えきれず、アリアが切り出す。
「誰が見てるかわからないよ」
ヒソヒソと耳元で囁かれ、アリアは心臓が移ったのではないかと錯覚するくらい耳が熱くなる。
「な、なるほど?」
納得してみせたアリアにフレディが満足そうに微笑む。
「ほら、仕事だよ、アリア」
「仕事」を盾にすることを覚えたフレディは、アリアに言い聞かせるように耳元で囁く。
腰を寄せられ、彼の肩に顔を埋める形になってしまう。
「で、ででででも、私は今は「リア」の姿ですし、やっぱり……」
「この寝室は、誰も近寄らないから姿を見られる心配は無いよ。ただ、妻と過ごした形跡は残さないといけないからね?」
「な、なるほど?」
先程、『誰が見てるかわからないよ』と言った口で、あっさりとアリアを納得させるフレディ。
ドギマギしているアリアは気付かなかった。
「じゃあ、寝よっか?」
ベッドの中に手を滑らせたフレディを見て、アリアはやっとお仕事が終わったと息を吐く。
(今日は私がソファーね)
いそいそとソファーに向かったアリアの手をフレディが引く。
「アリア、どこ行くの?」
「へっ? ソファーに……」
フレディに引き止められ、首を傾げるアリア。
「一緒に寝るに決まってるでしょ」
「ふえっ?!」
フレディの言葉にアリアは飛び上がった。
「夫婦なんだから」
「で、でででで、でもっ……」
戸惑うアリアにフレディはクスリと笑う。
「何もしないから、安心して? ほら、お仕事なんだから」
「仕事」というワードに、アリアはおずおずとフレディの方へ足を向ける。
「きゃっ!」
急にフレディに手を引っ張られ、アリアはベッドにフレディごと倒れてしまう。
「フ、フフフ、フレディ様?」
ベッドに横になり、フレディと至近距離で顔が向かい合う。
「アリア、可愛い……」
(ひえっ!)
甘い顔、甘い言葉を発すると、フレディはアリアの額にキスをした。
「……誰も見てませんよ?」
「……バカだな」
額から唇を離したフレディにアリアが言うと、彼は愛しそうな顔でアリアを見つめた。
(ひ、ひえ……フレディ様、演技が白熱すぎます……)
顔を赤くするアリアを見たフレディは、少しムッとした表情を見せると、アリアをぎゅうと抱き締めた。
「君が今何を考えているか、わかるぞ……」
「はあ……」
「まあ、そういう方向で良いと言ったのは俺だしね」
「はあ……」
フレディの呆れた声が耳元に響く。アリアは訳もわからず生半可な返事をするしかなかった。
「そういえば、今日の料理も美味しかった」
「本当ですか?!」
フレディの言葉にアリアは喜々として身体を起こす。
「ああ。君は料理も上手なんだね」
「も?」
フレディがくすりと笑いながら言うので、アリアは首を傾げる。
「悪役令嬢の演技も大したもんだよ」
悪役令嬢を褒められた、そう思ったアリアの顔が輝く。
「まったく、君は……」
嬉しそうなアリアにフレディが苦笑する。すると、アリアの目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
「アリア?!」
「ご、めんなさ……い……。嬉しくて……」
慌てて起き上がったフレディにアリアは肩を支えられる。
「悪役令嬢としてライアン様のお仕事を達成出来て、私は自分が誇らしかった。だから、フレディ様にもそんな風に言ってもらえて……嬉しいです」
泣きながらも微笑むアリアを、フレディは引き寄せて抱き締めた。
「まったく、君は……」
「フレディ様?」
「悪女と呼ばれて喜ぶなんて、君だけだよ」
抱き締めたアリアから身を離し、フレディは真剣な瞳で覗き込む。
「君は、君のままでも充分素敵だってこと、もっとわかって欲しい」
「フレディ様?」
「君は悪役令嬢じゃなくたって、充分価値のある人間なんだよ」
フレディの言葉がアリアの心に染み渡る。
(私に、価値がある……?)
信じられない、といった表情でフレディを見れば、彼は笑みを深めて言った。
「信じられない、って顔に書いてあるね? 良いよ、今は仕事だと思ったまま甘やかされていて。アリア自身に価値があること、俺がわからせてみせるから」
「そんなこと……」
あるんでしょうか?と言いかけて、やめた。
悪役令嬢になることでしか自分の価値を見出だせなかったアリアは、目の前の真剣なフレディの瞳に甘えたくなった。
(こんなこと、仕事相手に思っちゃいけない……わかっているのに……)
自分に言い聞かせるようにするアリアだったが、この言葉だけはどうしてもフレディの演技だとは思えなかった。
食事を終えたフレディと仕事を終えたアリアは二人の寝室にいた。
「どうしたの、アリア?」
(ど、どどど、どーしたもこうしたも……!)
結婚してから寝室は一緒なものの、ベッドはアリアが使い、フレディは部屋の中央に置かれた大きなソファーで寝ていた。
夜着に着替え、後は寝るだけなのに、アリアはベッドに腰掛ける形でフレディと並んでいた。
髪を撫でながら、フレディが腰に手を回している。
(み、密着しすぎでは?!)
されるがまま顔を赤くするアリアに、フレディは気にせず髪を掬っては甘い表情で見つめてくる。
「あの……誰も見ていないのに必要ですか?」
甘い空気に耐えきれず、アリアが切り出す。
「誰が見てるかわからないよ」
ヒソヒソと耳元で囁かれ、アリアは心臓が移ったのではないかと錯覚するくらい耳が熱くなる。
「な、なるほど?」
納得してみせたアリアにフレディが満足そうに微笑む。
「ほら、仕事だよ、アリア」
「仕事」を盾にすることを覚えたフレディは、アリアに言い聞かせるように耳元で囁く。
腰を寄せられ、彼の肩に顔を埋める形になってしまう。
「で、ででででも、私は今は「リア」の姿ですし、やっぱり……」
「この寝室は、誰も近寄らないから姿を見られる心配は無いよ。ただ、妻と過ごした形跡は残さないといけないからね?」
「な、なるほど?」
先程、『誰が見てるかわからないよ』と言った口で、あっさりとアリアを納得させるフレディ。
ドギマギしているアリアは気付かなかった。
「じゃあ、寝よっか?」
ベッドの中に手を滑らせたフレディを見て、アリアはやっとお仕事が終わったと息を吐く。
(今日は私がソファーね)
いそいそとソファーに向かったアリアの手をフレディが引く。
「アリア、どこ行くの?」
「へっ? ソファーに……」
フレディに引き止められ、首を傾げるアリア。
「一緒に寝るに決まってるでしょ」
「ふえっ?!」
フレディの言葉にアリアは飛び上がった。
「夫婦なんだから」
「で、でででで、でもっ……」
戸惑うアリアにフレディはクスリと笑う。
「何もしないから、安心して? ほら、お仕事なんだから」
「仕事」というワードに、アリアはおずおずとフレディの方へ足を向ける。
「きゃっ!」
急にフレディに手を引っ張られ、アリアはベッドにフレディごと倒れてしまう。
「フ、フフフ、フレディ様?」
ベッドに横になり、フレディと至近距離で顔が向かい合う。
「アリア、可愛い……」
(ひえっ!)
甘い顔、甘い言葉を発すると、フレディはアリアの額にキスをした。
「……誰も見てませんよ?」
「……バカだな」
額から唇を離したフレディにアリアが言うと、彼は愛しそうな顔でアリアを見つめた。
(ひ、ひえ……フレディ様、演技が白熱すぎます……)
顔を赤くするアリアを見たフレディは、少しムッとした表情を見せると、アリアをぎゅうと抱き締めた。
「君が今何を考えているか、わかるぞ……」
「はあ……」
「まあ、そういう方向で良いと言ったのは俺だしね」
「はあ……」
フレディの呆れた声が耳元に響く。アリアは訳もわからず生半可な返事をするしかなかった。
「そういえば、今日の料理も美味しかった」
「本当ですか?!」
フレディの言葉にアリアは喜々として身体を起こす。
「ああ。君は料理も上手なんだね」
「も?」
フレディがくすりと笑いながら言うので、アリアは首を傾げる。
「悪役令嬢の演技も大したもんだよ」
悪役令嬢を褒められた、そう思ったアリアの顔が輝く。
「まったく、君は……」
嬉しそうなアリアにフレディが苦笑する。すると、アリアの目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
「アリア?!」
「ご、めんなさ……い……。嬉しくて……」
慌てて起き上がったフレディにアリアは肩を支えられる。
「悪役令嬢としてライアン様のお仕事を達成出来て、私は自分が誇らしかった。だから、フレディ様にもそんな風に言ってもらえて……嬉しいです」
泣きながらも微笑むアリアを、フレディは引き寄せて抱き締めた。
「まったく、君は……」
「フレディ様?」
「悪女と呼ばれて喜ぶなんて、君だけだよ」
抱き締めたアリアから身を離し、フレディは真剣な瞳で覗き込む。
「君は、君のままでも充分素敵だってこと、もっとわかって欲しい」
「フレディ様?」
「君は悪役令嬢じゃなくたって、充分価値のある人間なんだよ」
フレディの言葉がアリアの心に染み渡る。
(私に、価値がある……?)
信じられない、といった表情でフレディを見れば、彼は笑みを深めて言った。
「信じられない、って顔に書いてあるね? 良いよ、今は仕事だと思ったまま甘やかされていて。アリア自身に価値があること、俺がわからせてみせるから」
「そんなこと……」
あるんでしょうか?と言いかけて、やめた。
悪役令嬢になることでしか自分の価値を見出だせなかったアリアは、目の前の真剣なフレディの瞳に甘えたくなった。
(こんなこと、仕事相手に思っちゃいけない……わかっているのに……)
自分に言い聞かせるようにするアリアだったが、この言葉だけはどうしてもフレディの演技だとは思えなかった。
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