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34.お似合いの夫婦
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あの騒動から一ヶ月が経った。
アリアのためとはいえ、魔法を発動させ、王城の一室を破壊させたフレディは、始末書に追われていた。
しかも研究ばかりでその腕を振るわなかったフレディに、ここぞとばかりに外での仕事が舞い込んだ。
『くそっ、あの王太子の仕業だ』
フレディは顔をしかめて文句を言っていた。
どんなに忙しくても、遅くなっても、必ずフレディはアリアの元へと帰って来た。アリアはそれだけで幸せだった。
日中、王家主催の舞踏会に向けて、アリアはレイラとダンスのレッスンをしていた。フレディにお昼を届ける仕事も、メイドの仕事も、もう終わり。本格的に公爵夫人としてレイラから学ぶことになった。
爵位にこだわらないフレディは「そのままで良い」と言ってくれたが、そういうわけにはいかないと、アリアがレイラにお願いしたのだ。
そうして忙しいフレディとの時間は夜だけになったが、フレディと過ごせる毎日に、アリアは幸せで、勉強も頑張れた。
「うん、アリーちゃん綺麗よ」
舞踏会当日。自身も着飾ったレイラは、アリアの準備を手伝ってくれた。
「ふふ、アリーちゃんってば、吸収が早いから、良い生徒だったわよ」
鏡越しに柔らかく笑うレイラに、アリアも笑みを返す。
「これからもご指導、よろしくお願いいたします」
「フレディってば素適なお嫁さんを迎えられて、幸せね。私もアリーちゃんが本当の妹になって嬉しい!」
後ろからぎゅう、とレイラに抱きしめられ、アリアは頬を染めて笑った。
(私もレイラ様がお義姉様で嬉しい……)
「もう、これは必要無いわね?」
レイラが茶目っ気たっぷりで掲げてみせたのはフレディの魔法薬。
今日は悪役令嬢のメイクも、ドレスも無い。
フレディの瞳であるラピスラズリ色のドレスで、メイクもふんわりと素敵にレイラが仕上げてくれた。
ラベンダー色の髪はゆったりと編み込まれ、レースで出来た花の髪飾りがあしらわれている。
「はい。悪役令嬢は卒業です……!」
しっかりと前を見据えて告げたアリアに、レイラは嬉しそうに微笑んだ。
「レイラ」
コンコン、というノックと共に、ライアンが部屋に入る。
「アリア……綺麗だ……」
ライアンの後ろにいたフレディがアリアを見るなり、呆けた顔で呟いた。
「レイラ、今日も綺麗だよ」
「ふふ、ありがと」
そんなフレディを置き去りに、ライアンは真っ直ぐにレイラの元へと向かうと、彼女の手を取り、指にキスをした。
「アリーも素敵だね」
「あ、ありがとうございます……!」
目の前で自然にイチャつくシュミット夫妻に、アリアは顔を赤くさせながらお礼を伝える。
「義兄上……」
「おっと、じゃあ会場でな」
ジトリと睨むフレディに、ライアンはレイラの肩を寄せ、もう一方の手をひらひらとさせてみせた。
「アリー、君の功績を公にすることがようやく出来た。今まですまなかったね」
部屋を出る手前で立ち止まると、ライアンはアリアに振り返り、頭を下げた。
「ライアン様っ!! 私はそれを承知で仕事を受けたのです! 感謝こそすれ、恨んでなどいません!」
「アリー……」
ライアンに駆け寄り、叫んだアリアに、彼は頭を上げると、辛そうな表情をしていた。
「それに……私は、悪役令嬢のおかげでフレディ様に再会することが出来たのです。全て、ライアン様とレイラ様のおかげです」
幸せそうに微笑むアリアに、ライアンとレイラも泣きそうな顔で微笑んだ。
「そうですよ。姉上と義兄上には感謝しています。今も、昔も……」
「フレディ……」
フレディの言葉にレイラの目には涙が滲む。
「フレディもアリーちゃんも、やっと幸せになれたのよね……?」
「はい」
フレディの返事に、レイラが満面の笑顔になる。
「これからも何かあれば力になる」
レイラを抱き寄せ、ライアンも優しく微笑んで二人を見た。
「わ、私も、お二人の力に、なりたいです! 仕事じゃなくて……その……家族……として……」
顔を赤くして、一生懸命言葉を発したアリアをフレディが抱きしめる。
「あ――、ダメだ、可愛すぎ」
「ほんとね。可愛すぎて心配だわ」
レイラがフレディの上からアリアを抱きしめる。
「よし、俺たちで守っていこう」
更にレイラの上からライアンが抱きしめる。
「?!?!」
よくわからない状況にアリアは顔が赤くなったが、心は幸せに満ちていた。
☆☆☆
「見て、フレディ様と奥様よ」
舞踏会の会場に着くと、二人は注目を浴びた。
王太子のルードにより、アリアの悪役令嬢としての働きが世間に知らしめられた。
王女のしでかしたことは王家の醜聞だ、と批判する者もいたが、ローズへの厳しい処分と、王位交代による変革に、多くの者は納得した。
そして一人、悪評を背負っていたアリアには称賛が集まり、フレディとの結婚も祝福されるようになった。それでも、フレディに想いを寄せていた令嬢たちからは良く思われてはいないようで。
「どうやってフレディ様に取り入ったのかしら」
「あの貧乏伯爵家の娘でしょ?!」
「悪役令嬢の仕事って……。本当に男好きなんじゃなくて?」
ヒソヒソと悪意のある言葉がアリアの耳に届く。
「――っ」
フレディが声のした方にキッと睨もうとすると、アリアから制止される。
「アリア?! もう、悪意になんて慣れなくても良いんだよ?」
心配そうに覗き込むフレディに、アリアはにっこりと不敵な笑みを浮かべた。そして、フレディの手に預けていた自身の手を、腕へとするりと回す。
「ご令嬢たちは、フレディ様と私が羨ましいようですわ。取り入った、というなら、あなた方も悪役令嬢になってみてはいかがかしら? まあ、そんなことで私たちの間に割って入れるとは思いませんけどね?」
フレディの腕に絡みつき、アリアは噂をしていた令嬢たちに向けて言葉を放った。
「なっ――」
「ア、アリア?!」
悔しそうに顔を歪めるご令嬢たち。フレディはポカン、と隣のアリアを見つめた。
「……フレディ様はそのままの私で良いと言ってくれました。悪役令嬢もきっと私の一部になっていると思うんです」
少し恥ずかしそうに、でもいたずらっぽく笑ったアリアを、フレディが抱き上げる。
「ああ! 俺はどんなアリアでも愛しているよ!!」
嬉しそうに、幸せそうに微笑むフレディに、アリアから初めてのキスが降り注いだ。
舞踏会の入口で大勢がその光景を見守る中、わっと歓声が起こる。
「何やってるんだ、あの二人は……」
「まあまあ、幸せそうで良いじゃないですか」
離れた所で見守っていたライアンとレイラは、幸せそうに笑う二人を見て、拍手を送った。
すると、会場中からともなく拍手が起こり、二人は音の波に包まれ、もう一度、キスをした。
☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・
このお話はこちらで完結です!
アリアとフレディを見守っていただきありがとうございました!!
そして第17回恋愛小説大賞にこちらの作品はエントリーしております。よろしければご投票いただけると嬉しいです!
アリアのためとはいえ、魔法を発動させ、王城の一室を破壊させたフレディは、始末書に追われていた。
しかも研究ばかりでその腕を振るわなかったフレディに、ここぞとばかりに外での仕事が舞い込んだ。
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フレディは顔をしかめて文句を言っていた。
どんなに忙しくても、遅くなっても、必ずフレディはアリアの元へと帰って来た。アリアはそれだけで幸せだった。
日中、王家主催の舞踏会に向けて、アリアはレイラとダンスのレッスンをしていた。フレディにお昼を届ける仕事も、メイドの仕事も、もう終わり。本格的に公爵夫人としてレイラから学ぶことになった。
爵位にこだわらないフレディは「そのままで良い」と言ってくれたが、そういうわけにはいかないと、アリアがレイラにお願いしたのだ。
そうして忙しいフレディとの時間は夜だけになったが、フレディと過ごせる毎日に、アリアは幸せで、勉強も頑張れた。
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鏡越しに柔らかく笑うレイラに、アリアも笑みを返す。
「これからもご指導、よろしくお願いいたします」
「フレディってば素適なお嫁さんを迎えられて、幸せね。私もアリーちゃんが本当の妹になって嬉しい!」
後ろからぎゅう、とレイラに抱きしめられ、アリアは頬を染めて笑った。
(私もレイラ様がお義姉様で嬉しい……)
「もう、これは必要無いわね?」
レイラが茶目っ気たっぷりで掲げてみせたのはフレディの魔法薬。
今日は悪役令嬢のメイクも、ドレスも無い。
フレディの瞳であるラピスラズリ色のドレスで、メイクもふんわりと素敵にレイラが仕上げてくれた。
ラベンダー色の髪はゆったりと編み込まれ、レースで出来た花の髪飾りがあしらわれている。
「はい。悪役令嬢は卒業です……!」
しっかりと前を見据えて告げたアリアに、レイラは嬉しそうに微笑んだ。
「レイラ」
コンコン、というノックと共に、ライアンが部屋に入る。
「アリア……綺麗だ……」
ライアンの後ろにいたフレディがアリアを見るなり、呆けた顔で呟いた。
「レイラ、今日も綺麗だよ」
「ふふ、ありがと」
そんなフレディを置き去りに、ライアンは真っ直ぐにレイラの元へと向かうと、彼女の手を取り、指にキスをした。
「アリーも素敵だね」
「あ、ありがとうございます……!」
目の前で自然にイチャつくシュミット夫妻に、アリアは顔を赤くさせながらお礼を伝える。
「義兄上……」
「おっと、じゃあ会場でな」
ジトリと睨むフレディに、ライアンはレイラの肩を寄せ、もう一方の手をひらひらとさせてみせた。
「アリー、君の功績を公にすることがようやく出来た。今まですまなかったね」
部屋を出る手前で立ち止まると、ライアンはアリアに振り返り、頭を下げた。
「ライアン様っ!! 私はそれを承知で仕事を受けたのです! 感謝こそすれ、恨んでなどいません!」
「アリー……」
ライアンに駆け寄り、叫んだアリアに、彼は頭を上げると、辛そうな表情をしていた。
「それに……私は、悪役令嬢のおかげでフレディ様に再会することが出来たのです。全て、ライアン様とレイラ様のおかげです」
幸せそうに微笑むアリアに、ライアンとレイラも泣きそうな顔で微笑んだ。
「そうですよ。姉上と義兄上には感謝しています。今も、昔も……」
「フレディ……」
フレディの言葉にレイラの目には涙が滲む。
「フレディもアリーちゃんも、やっと幸せになれたのよね……?」
「はい」
フレディの返事に、レイラが満面の笑顔になる。
「これからも何かあれば力になる」
レイラを抱き寄せ、ライアンも優しく微笑んで二人を見た。
「わ、私も、お二人の力に、なりたいです! 仕事じゃなくて……その……家族……として……」
顔を赤くして、一生懸命言葉を発したアリアをフレディが抱きしめる。
「あ――、ダメだ、可愛すぎ」
「ほんとね。可愛すぎて心配だわ」
レイラがフレディの上からアリアを抱きしめる。
「よし、俺たちで守っていこう」
更にレイラの上からライアンが抱きしめる。
「?!?!」
よくわからない状況にアリアは顔が赤くなったが、心は幸せに満ちていた。
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舞踏会の会場に着くと、二人は注目を浴びた。
王太子のルードにより、アリアの悪役令嬢としての働きが世間に知らしめられた。
王女のしでかしたことは王家の醜聞だ、と批判する者もいたが、ローズへの厳しい処分と、王位交代による変革に、多くの者は納得した。
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「どうやってフレディ様に取り入ったのかしら」
「あの貧乏伯爵家の娘でしょ?!」
「悪役令嬢の仕事って……。本当に男好きなんじゃなくて?」
ヒソヒソと悪意のある言葉がアリアの耳に届く。
「――っ」
フレディが声のした方にキッと睨もうとすると、アリアから制止される。
「アリア?! もう、悪意になんて慣れなくても良いんだよ?」
心配そうに覗き込むフレディに、アリアはにっこりと不敵な笑みを浮かべた。そして、フレディの手に預けていた自身の手を、腕へとするりと回す。
「ご令嬢たちは、フレディ様と私が羨ましいようですわ。取り入った、というなら、あなた方も悪役令嬢になってみてはいかがかしら? まあ、そんなことで私たちの間に割って入れるとは思いませんけどね?」
フレディの腕に絡みつき、アリアは噂をしていた令嬢たちに向けて言葉を放った。
「なっ――」
「ア、アリア?!」
悔しそうに顔を歪めるご令嬢たち。フレディはポカン、と隣のアリアを見つめた。
「……フレディ様はそのままの私で良いと言ってくれました。悪役令嬢もきっと私の一部になっていると思うんです」
少し恥ずかしそうに、でもいたずらっぽく笑ったアリアを、フレディが抱き上げる。
「ああ! 俺はどんなアリアでも愛しているよ!!」
嬉しそうに、幸せそうに微笑むフレディに、アリアから初めてのキスが降り注いだ。
舞踏会の入口で大勢がその光景を見守る中、わっと歓声が起こる。
「何やってるんだ、あの二人は……」
「まあまあ、幸せそうで良いじゃないですか」
離れた所で見守っていたライアンとレイラは、幸せそうに笑う二人を見て、拍手を送った。
すると、会場中からともなく拍手が起こり、二人は音の波に包まれ、もう一度、キスをした。
☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・
このお話はこちらで完結です!
アリアとフレディを見守っていただきありがとうございました!!
そして第17回恋愛小説大賞にこちらの作品はエントリーしております。よろしければご投票いただけると嬉しいです!
応援ありがとうございます!
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もう中盤から投票しちゃうくらい、これぞ恋愛ストーリー!と全部楽しませていただきました。父は、どっかで真実を知ったんだろうか(死ぬ前に)。。。エロ親父め。。めでたしめでたし、なハピエン、悪役令嬢もエッセンスとして取り入れてもっと素敵になるアリーの姿に大満足の終わりでした。
kokekokko様
嬉しいご感想ありがとうございます( ;∀;)!!投票まで……!!
最後まで満足していただけて良かったです!
お読みいただきありがとうございました。