その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達だろ?

08

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「あ、あの……」

「うん」

「……何でもないです。お疲れ様でした」

 夕映は少しだけ口角を上げてひょこっと頭を下げた。もう会いに行くのはやめよう。そう思った。明らかに歓迎されていないことくらい夕映にでもわかったからだ。
 迷惑をかけるつもりはなかった。好きになられても困ると言いながらも笑ってくれたから今まで追いかけてこられた。けれど、本気で疎まれてしまったらそれ以上は無理だ。

「何か用事があって来たんじゃないの?」

「いえ……先生の顔が見たくなって」

「そう」

「見られたので満足です。お疲れ様でした」

 引きつった笑顔を見せた夕映がチラリと横目に入って旭はすっと瞼を上げた。カーテンをそっと閉められた気配を感じ、旭は勢いよくそちらを向いた。

 てっきり図々しく、いつものようにちゃっかり隣に座ってくるものだと思った。先々週辺りに夜天と会話していた時にはあんなにも自分のことを好きだと嬉しそうにしていたから。
 追い出したような形になったことになんとなく居心地の悪さを感じた。

「……寄って行かないの?」

 すっと立ち上がった旭はカーテンを少し開けて、小さなその背中に問いかけた。夕映はピクリと肩を震わせて「はい。今日は……また」と言いながら会釈をした。

 旭はふと思う。でもきっと夜天のところには寄って行くんだろうな。そんなふうに。

「……座ったら?」

「いえ……ご迷惑になるので……」

 最初に突き放したのは自分なのに、夕映との距離を感じた。夜天とはあんなに楽しそうだったのに。とどうしてもあの時の情景が浮ぶ。

「これだけ打ったらひと段落つくから……終わるまで待っててくれるならいてくれてもいいよ」

 旭はなぜ引き止めたのか自分でもわからなかった。ただ、直感的にこのまま夜天の元に行かせたらいけない気がした。
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