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第3章 学園に通うのは、勇者だけで良いはずです
俺の手合わせ、格上相手にどうしよう
しおりを挟む俺たち2人は訓練場の中央で向かい合う。
ヴィンセント騎士団長も、俺も鞘から剣を抜かない。それは、抜刀さえも攻撃の選択肢としているからだ。
俺はやや姿勢を屈めて、ヴィンセント騎士団長は両肩よりもやや大きく足を広げる。お互いに剣の柄に手を添える程度に留めていた。
鷹を思わせる眼光は鋭く、張りつめた緊張の中に鋭い殺気を俺へと向けていた。殺気は確かに相手を威圧し、精神を圧迫する一つの攻撃だ。ヴィンセント騎士団長の殺気は、視線だけで相手を射殺せる。
俺は平和な日本で生まれ育ったから、そんな百戦錬磨の戦士の殺気を喰らってまともな筈がない。
……本来ならば。
俺の使っているアバターは、最早戦闘に慣れきっている。鋭利な殺気も淡々と身体が、思考が受け止めていた。
だから、身体が変に強張ることはないし、意識も凪いでいた。俺は身体中の空気を外に出し、深く深呼吸をした。頭に酸素が行き渡って、視界も脳内もクリアになる。
俺は、ヴィンセント騎士団長のように殺気を放つことはしない。これは、父方の祖父からの教えである。
祖父曰く、うちの先祖はなんと隠密だという。物語で出てくる伊賀忍者と言うものらしい。俺は今でも半信半疑だが、祖父は俺に昔から伊賀忍者の話を良くしていた。
幼心にカッコいいと思った俺は、祖父に誘われるままに忍者が用いたという変な体術を教わった。そのおかげで、柔軟性とかも備わったし、運動も得意にはなったけど……。
その時に、教わった戦いの心得があるのだ。
そんな心得、将来何に使うのかとも思ったが……。この戦いが間近に迫る世界では、役立っていると思う。
暗殺や諜報活動を主とする忍びの者。
そんなものが、戦人のように殺気を放ってどうする?
標的に無様に存在を悟られるのは、恥である。
闘志は内に秘め、決して悟られることなかれ。
身体は自然の流れに任せ、その身体の境界線さえも溶かし込め。
そうすれば、その場の風が、光が、闇が、
お前の姿を隠してくれる。
ただ静かに、冷淡に。密やかに。
鼓動さえも、その場の物音に隠してしまえ。
思考は常に敵を射貫け。
俺は自分の気配を、極力消した。
「始めっ!!」
アトリの開始の合図を受けて、ヴィンセント騎士団長が素早く動き出す。陽の光を何かが反射してチカっと光ったかと思うと、2つの火炎の刃が俺に向けて弧を描いて放たれる。
開始早々に居合いで魔法攻撃を仕掛けてきたか……。
あまりにも素早い抜刀に、刀身が抜かれたのさえ見えなかった。
2つの火炎の刃は横一線に1つと、その後方から時間差で斜めに1つ。
俺はアトリの合図と共に地面を強く蹴って、さらに状態を低くし素早く駆け出していた。目の高さに放たれた横一線の火炎の刃を低い姿勢で避けつつ、手を交差させて腰の双剣を抜く。
抜きざまに闇魔法で、2つの黒雷の刃を正面に放つ。
ヴィンセント騎士団長が、闇の雷撃刃を素早く躱し、こちらに駆けてくるのが見える。その後立て続けに右斜めに放たれた火炎の刃は、右の宙に跳躍して躱した。
宙に自然と右側に傾いた勢いを利用して、右手に持った双剣を下から上へと振り抜く。
捩じった身体の反動を利用し、空中で回転切りをすると、左右の双剣から黒色の刃が立て続けにヴィンセント騎士団長を襲う。
闇の刃は、ヴィンセント騎士団長の足と喉元を狙って放ったが、素早く避けられて地面と壁面に亀裂を走らせるだけだった。
そのまま、ヒュンッ!という風切り音がしたかと思うと、地面に着地したと同時に、銀色の刃が俺に振り降ろされた。
カキンッ!
「っ!!」
先ほどまで闇の刃で牽制して遠くにいたはずなのに、身体強化で一気に距離を詰められた。
しかも、姿が消える程に早い……。
上から振り下ろされる攻撃は、双剣を交差させて受け止める。キリキリと金属が軋む音が額の上から聞こてきた。
両手が痺れる感覚に思わず顔を顰める。身体強化をしているから何とか受け止めれたが、長い間は持たない。
力で押し負けてしまう。
俺は足にさらに身体強化を施して、素早く後退した。双剣を地面へ伏せるような姿勢のまま、ズザザッと土埃を立てる。
間合いを詰められないようにするために、後退と同時に闇魔法で俺の周囲にいくつもの紫色の球体を出現させる。
「撃て。」
球体から雷の銃弾を、ヴィンセント騎士団長に向けて放った。紫色の閃光を放つ銃弾が、ヴィンセント騎士団長を射貫こうと囲うように襲う。
「障壁。」
低く唸るように、ヴィンセント騎士団長が呟く。金色の半透明の膜が、ヴィンセント騎士団長を丸く包む。俺の放った紫色の銃弾が、キンキンッ!と甲高い音を出して弾かれた。
……やはり、剣術だけじゃない。
この人は、魔法の腕もかなり強い。
ヴィンセント騎士団長が扱える魔法属性は、炎、光の2属性のみ。複数の属性を扱える騎士が多い中、戦いでは不利のようにも思える。
ただ、ヴィンセント騎士団長は、その2属性を極限まで極めた。魔法構築も早いし、剣術と合わせて流れるように魔法を操る。
ここまでで、手合わせを開始してほんの数分。
こんなに格上の相手に、どう立ち向かおうか……??
応援ありがとうございます!
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