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第8章 乙女ゲームが始まる

お兄ちゃんの人間関係、美味しいなあ!(アヤハside)

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(アヤハside)



身の上話が終わったところで、私は最重要事項をお兄ちゃんに確認しようと意気込んだ。


「……ところで、お兄ちゃん。お兄ちゃんの交流関係は、どんな感じ?仲良い人は出来た?」

そう、私の腐り切った思考はそのことで頭が一杯だったのだ!!


BがLしても良い世界で、お兄ちゃんはどこまで進んだのだろうか?……遠くのテーブルから、こちらの様子を窺がっている英傑たちの様子を見れば、おおよそ検討はついてるんだけどね!


「ええっと、そうだな____ 」

私の質問に、お兄ちゃんは顎に手を当てて思案気にしている。どこから話そうかなっと呟くと、お兄ちゃんがこの世界に来たときのことも、掻い摘んで話してくれた。凄い!お兄ちゃん、冒険者なんだね!


「ソレイユとは、転生してすぐに仲良くなったんだ。今では親友だと思っているよ。寮室も一緒だしな?」


……ほう、ふむふむ。

勇者のソルは、既にお兄ちゃんにぞっこんだね。お兄ちゃんの首元に光る『深愛の導き』。色がソレイユの瞳と同じという時点で、お察しだわ。今も、私を遠慮なく睨んでるし……。執着イケメンこわーい。というか同室っ?!……壁になりたい。

ちなみにバッドエンドは、ソルが魔王になって主人公を永久保存して愛でるという、ヤンデレっぽいやつ。


「アトリは、この世界で俺に故郷をくれたんだ。困ったときは、いつも助けてくれる。頼れるお兄さん、かな」

アトリはイベントが少ないから、好感度上げるの大変なんだよねー。2人きりでダンス練習とか、超見たいイベントなんだけど?!アトリのバッドエンドは、主人公を薬漬けでデロデロだったけ?

私が一生、お世話します的な。


「そういえば、図書棟の隠し部屋を先に見つけてしまって、ごめんな……?エストとは、隠し部屋で読書やお茶をしているよ。城下街にも出かけたんだ」


あの『氷の貴公子』宰相の息子、腹黒眼鏡のエストと城下町デートしたの?! 隠し部屋を先に見つけた?気にしないで。密室で男2人きりは、腐女子へのご褒美だよ?

エストのバッドエンドは、お屋敷の離れで監禁凌辱。


「ヴィンセントとジェイドは、模擬戦をしたのがきっかけで、学園入学の推薦状をくれたんだ。今、俺が学園に居られるのは、彼らのおかげだな」


緑風騎士団団長ヴィンセントと、副団長ジェイドのコンビは人気が高かったなー。なんたって3ぴー要員だからね!大人の色気もあるし。

ヴィンセントの硬派だけど意地悪な感じと、ジェイドの軟派なのに、好きな子には一途になるという、ギャップ萌えよ……。2人から直接、戦闘指導を受けてる?お兄ちゃんを囲い込む気満々じゃん!

この2人のバッドエンドは、2人の従騎士になって一生お世話をすること。……お世話にも色々あるよね!!


それと……。
私はゴクッと唾を飲んで、お兄ちゃんに問いかける。


「ねえ、お兄ちゃん……。王太子殿下とは、いつ出会ったの?」

「ロワに会った時期か?……多分だけど、ガゼットの実家の領地で開かれたパーティーだと思う。本人は偽装していたから、大きな声では言えないけどな……」


私はお兄ちゃんの返事に、テーブルの下でグッとガッツポーズを決めていた。はい!確定です!シークレットキャラの王太子殿下も出現しているよ!!


王太子殿下を、攻略キャラとして出現させるには、厳しい条件があるの。学園で知識、戦術ともに優秀な成績を収めて、攻略対象者全員の好感度が一定以上のレベルに達していないと現れない。

王太子殿下は愛する者を調教して、縛って啼かせてドSに責める。その性癖と難易度から『ドS殿下』との異名が付いている。

『ロワ』の愛称呼びを強要されている時点で、お兄ちゃんに好意があること、分かっちゃうけど?!ドS殿下のバッドエンドは、快感責めからの殿下専用奴隷。全裸で散歩……とか。


やっぱりお兄ちゃんはBLゲームの攻略本を読まなくても、自然に攻略対象者たちを惚れさせてしまっている。

さすがは、天然人たらしのお兄ちゃん!


「ふふふっ……」

私が頭の中で狂喜乱舞していたら、思わず不気味な笑い声が零れ出ていたらしい。向かいに座るお兄ちゃんが「なんだか知らないけど、楽しそうで何よりだ」と苦笑いを浮かべている。

気持ち悪い笑顔を浮かべる私にも、お兄ちゃんは怒ったりしないから優しいなあ。


ふと、お兄ちゃんがほんの一瞬、少しだけ表情を固くしたように見えたけど、勘違いかな?すぐに優しい微笑みに戻ると、私に質問する。


「……アヤハはどうなんだ?攻略対象者に、気になる人はいないのか?昔は、アウルムとソル推しだっただろう?……それとも、ハーレムエンドが良いとか?」

今の質問からでも明らかだ。

お兄ちゃんはまだ、この世界がBLゲームだと気が付いていないんだ……。こんなに同性から好かれているのに、本当に他人の好意には鈍ちんなんだから!


それに、私はこの世界をもう、ただのゲームの世界だとは思えない。ゲームのストーリーと同じように進むけれども、ちゃんとした現実だと思っているの。


「確かにハーレムエンドとか、憧れが無いわけではないよ?……でも、私は気が付いたの。最凶の魔王を倒す使命があるのに、恋愛とか英傑たちの攻略とか……。んなもん、現実的にやってられっか!って」


私は原作ゲームのヒロインと姿は一緒だけど、性格がかけ離れている。控えめで頑張り屋な、周りが守ってあげたくなるようなヒロインは、既に存在しない。

私の悪い噂は、実力で黙らせてやる。そのために学園入学前に、めちゃくちゃ勉強したのだ。

嫌がらせは自分で防衛する。攻撃魔法もお手のものだし、なんだったら毒薬や催涙スプレーも自作した。
どんと、かかってこいや!


魔王だって、これから鍛えて魔法と武力でボコボコにしてやる。前世のゲーム知識で、聖魔法は訓練済みよ!

治癒ポーションは毎日作って貯蓄しているし、治癒の聖魔法を入れ込んだ魔石を、お父様に頼んで公爵家の倉庫に保管してもらっている。
……まだまだ、たくさん生成するけどね!


お兄ちゃんに意気込んで説明したら、目の前でぶはっ!と吹き出された。大きな紫の瞳の目尻に涙を浮かべて、お腹を抱え声を出して笑っている。

大好きなお兄ちゃんの明るい笑顔が、そこにあった。


ひとしきり笑って、肩を上下させて息を整えたお兄ちゃんは、眩しいものを見るかのように目を細めた。


「そうだった。アヤハはそういう性格だよな……。大丈夫。魔王討伐には俺も同行する。アヤハや英傑たちのことは、俺が守る」

お兄ちゃんは、何処までも真摯で強い光を宿した紫の瞳で、まっすぐと私を見た。


本当は、お兄ちゃんに魔王討伐に関わってほしくない。安全な場所に居てほしい。でも、私のお兄ちゃんは、大切な人が危険な道を歩むときに、黙っていられる人ではない。

一緒に戦って守る道を選ぶ、強い人なんだ。


「……だから、うら若い女の子が、恋愛なんてしないって言うもんじゃありません。俺はアヤハが誰を選んでも、どんな恋愛をしても応援するからな」


その言葉、そっくり、そのままお兄ちゃんに返すよ?


私はテーブルに置かれていたお兄ちゃんの右手を、そっと持ち上げた。剣ダコが沢山潰れて硬くなっている手を、両手でぎゅっと握る。これから言う事は、前世から願っていた私の本心。


「私だって、お兄ちゃんが誰を好きになっても、誰と結ばれても応援するからね?……女性でも男性でも、異種族だったとしても、お兄ちゃんが幸せなら良いの……」


私にとって、たった一人の、大好きなお兄ちゃん。
今度こそ、絶対に死なせたりなんかしない。


「……お兄ちゃんの幸せな姿を、私はずっと見ていたいんだよ」

前世では見ることが出来なかった、お兄ちゃんが最愛の人と結ばれて幸せに暮らす未来を守ること。

それが、今の私の夢。


例え攻略対象者だったとしても、お兄ちゃんを泣かせるヤツは、許さないんだから!
聖魔法で駆逐してやる!!


……男性のところを、何気なく力を込めて強調して言ったのを、お兄ちゃんは気付いたかな……?




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